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* Sideイスズ



「はあ」


ベッドに腰かけたものの、何をどう考えていいのかわからない。

今日は色々ありすぎた。


「一人でこっそり解決するつもりだったのに」


バレたのは空腹でぶっ倒れたせいだ。

こんなことなら、毒の心配があろうと贅沢に毎食出前を取っていればよかった。

今度からは非常食を買い貯めしておこう。

部屋が広くないから余計なものは置きたくないし、毎月の予算にも限りがあるけれど。


ともかく、自分の対策がまずかった自覚はある。


「だからって、騎士様を連れてくることないでしょうよ」


しかも、あの美貌。


「ないわぁ」


悪目立ちすぎる。

まるで悪夢のような現実だ。


事実は小説より奇なり。

これなら、証明できない幽霊の目撃情報の方が圧倒的に前例があるんじゃなかろうか。


なぜ、よりによって。

その答えは、ついさっき出た。

騎士様にも事情があったのだ。


私が男だったら、一も二もなくお姫様との噂に乗っかる幸運だけど、騎士様は体に支障をきたすほど苦痛を感じていたらしい。

騎士様にしてみれば、騎士としてこれからという時期で、色恋に焦点が合わなかったのかもしれない。

そういう意味では、オカルト漬けの自分と正統派のソレイユさんも合いそうにないけど。


「せめて、普通に話せるようにはするけどさ」


頑張って努力している人の邪魔はしたくなかった。

努力したところで報われないことが多い中、応援とまでは言わないけれど、妨げになることは絶対に避けたかった。

苦しげに告白しながらも、気高い騎士の誇りを握りしめて離さない人だから。


「根性ある人は嫌いじゃないし」


とんだ打ち明け話は、騎士様との心の距離をちょっとだけ縮めた気がする。


「目下の問題は、敵がどうしたら手を引いてくれるかなんだよね」


向こうの目的を早めに見極められるといいのだけど。

でなければ、対処しようがない。


「とりあえず、今日は寝ようかな」


なんだかんだと久しぶりの外出は晴れた気分になれたから、今夜は悪夢でうなされることもなさそうだ。


「さてと」


寝間着に替えようと立ち上がり、カーテンを閉めようとして背筋がぞわっとした。

窓の外、通りの向こう側の木陰に人のシルエットがあった。

見間違いであってほしいと願う気持ちに反して、黒い影が通りに進み出てくる。


「つっ……」


影から目をそらせずに後ずさると、背中に壁がぶつかった。

そこからは、とっさの行動だった。


窓に背を向け、ドアを勢いよく開けて飛び出す。

階段を下り切る前に異変を察してくれたのか、騎士様と行き合う。


「イスズさん、どうしましたか」


「外に誰か……」


口にした途端、恐怖に支配された。

昼間に後をつけられた時は自分で考えて動けていたのに、急に、これまで蓄えていた震えがまとめて襲いかかってきたみたいに自由が利かなかった。

これじゃあ、ただの足手まといになってしまう。


焦って無理やり足を動かそうして失敗した。

かくっと膝が曲がって、階段を前にバランスを崩して転がりかける。

ああ、やばい。

丑三つ時でもないのに、妖に足を引っ張られたのかも。


ギュッと目をつぶって無駄にオカルト研究所の室長らしいことを考えていたら、ソレイユさんに助けられていた。

けど、素直に助かったと安心はできなかった。


「大丈夫ですか」


気遣ってくれる声が頭のすぐ上から聞こえてくる。

たぶん、というか、間違いなく騎士様に抱き止められてるからだ。

何も、ここまでぴったり納まらなくてもいいのにと思うくらいすっぽりと。


すぐに離れたいのは山々ながらも、強張った体は思う通りに動いてくれない。

ここで離してもらえば階段を転げ落ちるのは確実だし、痛いのはやだ。


「力を抜いて。落ち着くまで支えています」


こんな時に、こんなことを言ってくれるなんて、とってもありがたい。

本当にありがたいのだけど、私の性格的には逆効果の焦りしかわいてこない。


「私は――」


平気です。


声にすれば、 つられて体もその気になるはずと期待して口を開きかけたところにノック音が聞こえてきた。

それは裏口、人影のいた場所から近い出入口からだ。


びくりと怯えたことは嫌でも騎士様に伝わってしまう。

その証拠に、支える腕に力がこもった。


「大丈夫、私がいます」


甘く痺れる優しい声が響く。

だけど、そこに身を委ねてしまえば、自分でいられなくなる予感がした。


自分のことは自分で始末をつける。

それが、幼くして家を飛び出した、不器用なくせに意固地なところのある私の譲りたくない矜持なのだから。

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