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究極のお姫様


* Sideイスズ


 

「やはり、モモカに問題があるのか」


つぶやかれたラグドール王の意外な言葉に、頭を上げる。


「あの、よければ、モモカ姫がどんな証言をしたのか聞いてもいいですか」


そんな提案をしたのはナナコさんだ。


「……巻き込まれた君達には、聞く権利があるな」


王様らしからぬ悩ましげな様子に深刻さを感じつつ、微妙に座り直して拝聴する。


「モモカ姫からは昨日の内に話を聞けましたので、同席させてもらった私から状況を説明させてもらいます」


というわけで、話は王様ではなく従者のラテアさんから聞くこととなった。


「モモカ姫が言うには、見たことのない男が用があると言うのでついて行ったら、サハラ・アザリカ氏がいたのでお茶に誘われて、ナナコ嬢との結婚報告を聞いている内にヴァン様が迎えに来てくれた――と」


間違ってはいないんだろうけど、そうじゃないと反論したくなる言い分だ。


「一応、こちらでナナコ嬢とサハラ氏との結婚はあり得ないことだけ訂正させてもらったのですが、モモカ姫は、サハラお兄様はフラれてしまったのねと悲しそうにしておられました」


うん、それも間違ってはないんだろうけど、普通、十人いたら十人がナナコさんに同情する場面のはずなのに。


「ここだけの話、モモカには結婚相手を見繕うためにも、これから国際交流を盛んに担ってもらう予定だったのだが……」


王様の言で、本当に国の問題なのだと、今更になっておののいてしまう。


「かといって、裏に引っ込めさせるには国内の人気が高すぎる」


それは確かに事実で、いきなり表に出なくなればファンがざわつく。


「……ナナコさんはどう見ましたか」


苦手分野で困った時のナナコさん頼みは、ちょっと悪い癖かもしれない。

でも、実際、モモカ姫のフワフワな可愛さに意識を持ってかれて翻弄されるばかりの私と違って、ナナコさんは完全に主導権を握って会話ができる賢者の実績があるので頼りたくもなるというもの。


「ナナコ嬢、参考までに聞かせてもらってもいいかい」


ラグドール王の催促もあっては、ナナコさんに断りようがない。


「でしたら、私の意見が個人的なものであって、決して悪意も他意もないと認めてくださるなら」


王様相手に、この用心深さ。

モモカ姫より、よほど外交に向いているのでは? と思ってしまったことは心の中だけの話。


「もちろんだ。思ったままを聞かせてくれ」


「では、私が見たところ、モモカ姫は究極のお姫様体質なのではないかと思いました」


「ん?」


どこからか、疑問の湧き出る声が上がったのも同意の反応だ。


「あの、当然のことながら、モモカ姫は正真正銘の王族で、現在、唯一公式の姫ですよ」


みんなの気持ちを、従者のラテアさんが代弁してくれる。


「だからこそ、重症化しても誰も気がつかなかったんじゃないですか」


確かに、これまで王様も前王様も問題があるとは思ってなかったから、いまがあるわけで。


「ナナコ嬢、解説をしてもらえるかな」


「はい。と言っても、そのままの意味ですけど」


「というと?」


ラグドール王の要求に、ナナコさんは困ったように答える。


「私が言うお姫様体質っていうのは、自分の望みは誰かが叶えてくれるのが当たり前で、誰も彼もが自分を優先してくれると思い込んでいる子のことです。庶民でも、ちょっと可愛い系でちやほやされ慣れてる子は、こういう体質で、たいてい同性に嫌われるタイプです」


「なるほど。しかし、モモカはそういう環境が日常なだけで、同性にも好かれているぞ」


「だから、問題になってるんです。モモカ姫の周囲は男女関係なく彼女を中心にして動き、何を求めているのかを敏感に察して極め細かに対応できる人ばかりが集まっていてもおかしくありません。モモカ姫の意に添わないことは起こらず、みんなが自分を慕ってくれるメルヘンな世界で完結してしまってんじゃないでしょうか」


ナナコさんの言いたいことはわかった。

だからこそ、問題も浮かんでくるわけで……。


「でも、お分かりですよね? 現実ではあり得ない空想です。王族だとしても、世の中が一人を中心にして動いているわけもなく、他人には他人の思惑や人生があります。特別な環境にいるモモカ姫には、そういう発想と経験がないから、他人に理解も共感もできにくいんだと私は思いました」


「そんな……」


馬鹿なことが、とラテアは続けたかったのかもしれないが、ナナコさんによると事件の最中、冷えの心配はされたけど、手足を縛られている待遇の違いについては心配されなかったというのだから否定できない話だ。


「人間、誰しも、自分を通してしか世の中を見られないので、お姫様体質に限らず、思い込みやすれ違いは私を含めて多かれ少なかれあるのが普通なので、モモカ姫が異常だとは思ってません。こういう人いるよね、くらいの感覚で……」


ナナコさんが付け足しでフォローをしたのは、ラグドール王やドラグマニル公が揃って絶望的な表情をしているからに違いない。


「いままで、よく問題にならなかったものだ……いや、表面に出てこなかっただけか」


誰に聞かせるともなく呟いたおじいちゃんは、年期の入った皺を寄せて兄を見ていた。

それは、もしかしなくとも、ここにはいない黒騎士様の件だろうかと、なんとも言えない気分になる。


「モモカについては考えることがあるが、すぐにどうこうできるものでもないな。二人とも、貴重な意見をありがとう」


王様に明るくない声で言われて、私もナナコさんもなんとも言えない気分だ。

でも、このまま外交に勤しむよりは、よかったと思うべきところかもしれない。


「今回の件は身内の起こしたことだ。私が責任を持って処理に当たる――と終わりたいところだが、関連して、少々、別の問題が起きていて対応に迷っている部分がある」


まだ何かあるのかと、ナナコさんの負担が心配になってたら、王様はラテアさんに指示を出していた。


「例のものを」


そうして、目の前のローテーブルに広げられたのは数社のタブロイド紙。

どの一面も、ほぼ同じ写真が載っていて、ポカンとしてしまう。

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