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うっかり!


* Sideイスズ



じっと見つめていた建物の向こう。

パシュッと花火が上がり、私もつられて顔を上げる。

しゅるしゅると赤い煙が高くたなびき、パンと乾いた音が響いて弾けた。

思わず総指揮の兄に目を向ければ、安心させるように頷いてくれる。


「二人は無事確保できたようだ。但し、姿が見えるまで油断はできない。ここを動くなよ」


嬉しい知らせと続けられた忠告に、どんな反応をしていいのか迷った末に、同じような状態のリリンさんと見合って苦笑してしまう。


「クレオス隊長」


不意に木の上にいる見張りの隊員から声がかかり、「脱出に成功しました」と報告があった時には五分後にも三十分後にも感じられた。


「周辺は?」


「問題ありません」


そんな確認が取れると、兄は私達の周辺に向かって言った。


「合流するまでは自分達の任務を違えないように」


どういう意味だろうと兄を見つめてみれば、こちらに向けては出迎えに行ってやれと促してくる。


「イズイズ、行きましょう!」


先に理解したリリンさんに手を取られて、勝手に向かって大丈夫なのか迷ってたら、モモカ姫の護衛さん達がついてくるので、なるほどと引っ張られるままに走りだす。

垣根を掻き分けて日向に出ていけば、目立つピンクの側にソレイユさんに抱き上げられているナナコさんを見つけて、転がるように駆け寄った。


「ナナコさん、大丈夫ですか!?」


あまり考えないようにしていた、自分だけ免れた罪悪感が一気に膨れて血の気が引いてく。


「イスズ……と、リリン」


目を丸くするナナコさんの顔色はそれほど悪くないので、ひとまずはホッとした。


「ナナコさん、怪我は?」


「大丈夫よ。手足を縛られてたから痺れただけ。お姫様だっこは役得ね」


いつもの調子で返事をもらって、ようやく息がつけた。


「元気なようで、よかったわ、ナナミン」


「リリン、あなたが来ているなんてね。でも、ありがとう。助かったわ。イスズがリリンと交渉してくれたんでしょう」


「ええ。素敵な後輩ね」


「時々、斜めに爆走しすぎて困るけど。でも、今回は本当に助かったわ。正直なところ、あれ以上はちょっとキツかったから。ありがとう、イスズ」


疲れた目元で、それでも笑って感謝してくれるナナコさんに、ブンブンと首を振るしか返事ができない。


「リリベール!!」


「え?」


「何?」


友人みたいな感動の再会も束の間、どこからか、それを上回る感情のこもった叫び声が聞こえてきた。

何事かと思ったら、妙な集団を引き連れた貴婦人が、スカートを捲し上げて走ってくるところだった。

呆気にとられている間にリリンさんに飛びつき、その時になって貴婦人がヒールの靴なのに気づいて、よく走れたなと感心してしまう。


……なんて、失敗から目を逸らしてみたりしたものの、貴婦人の肩越しに、やってしまった感でいっぱいのリリンさんを見合ってしまっては逃げようもない。


ナナコさん救出を、ただ黙って待っていられるかという衝動で動いていた私達は、どちらも先に別行動をしていたリリンさんことリリベル嬢の母親を忘れてた。

誘拐事件が発生している最中に文も伝言もなくいなくなったのだから、さぞかし心配させたことだろう。

娘にギュウギュウと抱きついている高貴な貴婦人を前に、キッカケを作った身としては申し訳なさと罪悪感が半端ない。


そんな中、ビカッと眩いフラッシュが光り、一同はぎょっとする。

でもって、ひとかたまりの集団に一斉にワーワー言われたって、呆然としすぎて意味がわからないってものだ。


「あー、ごめん。たぶん、うちの社も交じってる」


横からこそっと謝ってきたのはフェイルさんで、改めて見れば、貴婦人が引き連れてきた集団はカメラを構えているか、メモと筆記具を手に色々と質問をしているっぽい。

とっさに、モモカ姫の護衛達や研究所メンバーが規制してくれたので、距離を取ってられるのがありがたい。


ともかく、疲れているナナコさんの負担にならないよう、私も目隠しくらいにはなるだろうと前に出る。

ソレイユさんも同様に思ったらしく、マスコミに背を向けようと反転しかけた足元に、ドサッと誰かがスライディングをしてきた。

小柄な女性で、どうやら押し合い圧し合いの記者集団で当たり負けしたくさい。

じゃなかったら、顔面から飛んでくることはないはず。


「あの、大丈夫ですか」


庶民的には記者とか関わりたくないし、コメントなんかも無理だけど、さすがに無視のできない突っ伏し具合だ。

しゃがみ込んで声をかけたら、思ったよりも勢いよく顔を上げられ、這いつくばったままの格好でペンを突き出して質問攻撃をしかけられる。


「今回の騒動は、黒騎士様を巡る三角関係のもつれですか!?」


……いやいや。

さすがに、そんな泥沼恋愛劇で騎士様や護衛所の人員をこぞって集結することはありえないって、普通にわかるでしょうに。


素人みたいなスキャンダル妄想逞しい質問に呆れたら、他の記者もこの流れに乗っかって、益々声高になったことに驚く。


「モモカ姫との関係は清算したんですか」


「リリベル嬢とは母親公認では?」


「抱えている女性が禁断の本命なのですね!」


いやいやいや。

モモカ姫とは最初から護衛騎士としての関係でしかないし、リリベル嬢はまったく関係ない。

ナナコさんと関係があれば色んな意味で禁断には違いないだろうけど、問いかける記者達が事情を知っているわけもない。

ツッコミどころが満載すぎる。


話には聞いていたけど、美貌の騎士様というのは本当に大変なんだ――


「もう、勝手なことばかり言うのはやめてください。私が好きなのは、イスズさんだけです!」


…………な?


なんか頭上から聞こえてきた気がする。


空耳?


しゃがんだまま見上げれば、ハッと我に返り、焦った様子のソレイユさんの顔が勢いよく、こちらに向く。

それが誰の目にもわかりやすく真っ赤に染まり、だけども、ナナコさんを抱き上げているので隠すこともできずに汗をかいてる。


え?

え??


一瞬の沈黙の後、まだ上があったのかと思える記者達の騒がしさの中、私は、おそらくジェットに救出された気がしなくもない。

ナナコさんは所長が引き取っていたような記憶があるような、ないような?


頭が真っ白になって、ただただソレイユさんの真っ赤な顔だけ焼きついた、しがない地味オタ研究員は、気づけばキジ湖にあるコテージに戻ってきていた。


やっとこ告白(予定外)。

なのに、拗れます(ΦωΦ)

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