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ナナコの災難といざ突入


∞ Sideナナコ



「やっぱり、ドレスはレースとフリルがたっぷりなのでしょうね」


「もちろん。特別に誂えるつもりだから抜かりはない」


「ふふふ、それは楽しみですわ」


室内の質素さに反して、目の前で繰り広げられるお茶会は優雅で、楽しげに贅沢な会話が弾んでる。

同席している私にとっては頬が引きつる内容でしかないが。


これでも、一応、モモカ姫には感謝している。

床に転がされていたせいで冷えが回り、身震いしたことに気づいてくれたモモカ姫が助言してくれたおかげで椅子が用意され、ひざ掛けも揃えてもらえた。

が、手足は拘束されたまま、そこには一切触れられなかったけど。


お茶の誘いを素直に受けていれば外してもらえたのだろうかと思わなくもないのだけど、こんな状況で飲み食いする気分には到底なれない。

これでもなんとか冷静さを心掛け、無駄に逆らわないよう大人しくしている。


あれだけの騎士様達が揃っていて、研究所のみんなだって一緒なんだから、助けが来るのは時間の問題だ。

だから、私にできるのは落ち着いていることと、いつでも逃げ出せるよう気を配っていることくらい。


とはいえ、こうまで目の前で普通に話を進められると、気持ち悪さと恐怖感が込み上げてきそうになってキツイ。


さっきから二人が話題にしてるのが、同意した覚えのない誘拐犯のサハラと私の結婚式についてだ。

しかも、時々、こちらを見て親しげに微笑むモモカ姫が馬車やコテージでの女子会と同じで、まったく悪気のない様子というのがまた堪えて仕方ない。




※ Sideソレイユ



高台にあり、遠くに湖が望めるのどかな保養地。

目当ての建物が、元は武門の名家が身内の訓練所として建てたものだというのは、イズクラ会員のマッシュ少年からもたらされた情報だ。


「ここからは時間との勝負となります。相手に迎撃体制を整えさせず、姫君達を盾にされる前に終わらせましょう」


突入班の指揮をするフォルティス副隊長は普段通りの佇まいで号令し、いよいよ建物に近づいていく。

続く自分は建物を見上げ、リックスレイド王子を視界に入れながら手はずをさらっておいた。


目的の表口は飾り気のない扉に獅子のノッカーがあるだけ。

副隊長が代表で軽くノックする。


「すみません」


加えて柔らかに声をかければ、すぐに扉が開かれた。

想定していたように扉番がいたようだ。


「こんにちは」


「ああ、こんにちは。何か用ですか」


緊張と不審が見え隠れする扉番にどんな返しをするのかと思って死角から見守っていると、副隊長は口よりも先に腕を動かした。

続けて、奥にいたのだろう、もう一人にも仕掛けていく。

見事なまでの問答無用さに、うっかり見とれてしまったけど、すぐに「作戦開始」のハンドサインが出されたので切り替える。


自分はビートルとジェット、リックスレイド王子とキースと組になって最上階にかけ上がっていくが、階段や廊下では誰にも会わず、階下で別の組が先にぶつかった物音が聞こえてきた。

こちらは三階に到着したところで、作戦通りに手前から奥へと手当たり次第に扉を開けていく。


「偉ぶりたい小者と夢見がちな人間は高いところが好きだから、見せ場はもらえそうかな」


などとリックスレイド王子なんかは張りきっているけど、果たして、何が出てくるものか。


自分としては、誰が活躍しようと彼女らの安全さえ確保できれば、見せ場など、どうでもいい。

そんなことより、一刻も早く、イスズさんの気持ちを晴らしてあげられたらと願ってしまう。


「いたぞ! 本当に追手が来やがった」


廊下の半ばほどまで室内を改めた頃に奥から大声と共に男達が現れ、この階も一気に戦闘モードに入る。

室内のチェックを担当していたビートルとジェットを置いてリックスレイドとキースが飛び出し、ソレイユも続く。


それほど広くない廊下は、相手にもこちらにも有利であり不利でもある。

一通り、城塞や王城での想定訓練はしているので要領はわかるが、気を使う点が増えることには違いない。

それにしては危機感が薄いのは、先を行く王子とキースが危なげないどころか、強すぎるせいだろう。

余裕がありすぎるので遊んでいるようにしか見えない。

そして、敵対する彼らが、遊んでくれている相手が隣国の王子様だと知らないことは、お互いに不幸中の幸いというものだ。


そんなことを考えながら、わざとおこぼれを回してくれているのだろうなと思える逃れ者を自分はコツコツ倒していく。


と、不意に王子からハンドサインが示された。

向かってくる彼らがさりげなく庇っている部屋があり、突入してくれと告げている。

迷ったのは一瞬で、すぐさま応答代わりに目当てのドアを目指す。


事前にキースと確認したことだが、べったりと護衛に張りつくよりも、事件を解決する方が王子の安全を早く確保できると言われていたからだ。

この強さなら、納得の言い分だ。


そして、怪しいドアを開けようとしたタイミングで、逆に内側から開けられる。


「なっ!?」


顔を合わせたのは、廊下が騒がしいから確かめに出た、みたいな無防備の男。

王族籍のあるサハラ・アザリカ。

それらのことを瞬時に認識すると、反射で顔面をぶん殴ってやりたくなったが、隊長達に迷惑をかけるのは本意でないので我慢して、壁に押しつけ拘束する。

その間に室内にナナコさんとモモカ姫がいること、他には従者らしき男と女が一人ずついるが、明らかに戦闘要員でないことを見て取ると、脅しらしく聞こえるよう従者達に警告してやる。


「抵抗する気がないのなら、両手を上げて部屋を出ろ」


「は、はい」


従者の内、男の方が返事をし、女の方はコクコクと青ざめながら、どちらも素直に従ってくれる。

そんな彼らに便乗し、自分も続こうと蠢くサハラに、壁に押しつける力を強めた。


「わっ、私だって、騎士団に歯向かうつもりはない!」


どうやら、私服の自分を騎士だと理解しているらしいサハラだ。


「でしたら、大人しく拘束されてください」


容赦なく壁に押さえつけたまま、借り物の長いフードつきの上着を脱いで後ろ手になるよう拘束していく。

これで体が空いたので、ようやく被害者二人の様子を確認しに近寄れた。

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