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救出の騎士達


*Sideイスズ



「外から見る限り、怪しい部屋は四つ」


言いながら、兄は地面に簡単な屋敷の図を描いて説明を進めていく。


「これらの部屋は、昼間なのにカーテンが閉めきってあるか、光や置物の関係で中が確認できなかった」


「地下は?」


「わかりません。なので、表玄関から乗り込んで四つの部屋を探し、見つからなければ地下や他の部屋を探す。同時に裏口だけ隙を開けておき、逃げていく者を誘い出せるようにしておくつもりです」


「わかった。俺が連れてきた連中は、俺も含めて、この作戦でお前の指揮下に入る」


「それは……」


兄が隊長を任命されているとはいえ、ふらふら下町を放浪しているサクラ団長の方が階級も経験も確実に上のはず。


「騎士として関わった落とし前を他人に任せるのか、クレオス隊長?」


サクラさんが少し人の悪い様子で問いかけると、兄は短く息を飲んだ後、ありがたく受け入れると了承していた。


「配置はどうする?」


次の質問に、兄は少々の間を置いてから答える。


「サクラさん達は主に建物周辺を固めてください」


「突入メンバーは足りるのか?」


更に問われて、イズクラの面々に視線を流してから隊長としては意外すぎる案を出す。


「突入には研究所メンバーに加わってもらいます」


「ほう……現役で鍛え上げられた奴らよりも、彼らの方が信頼に足るか」


目を細めたサクラさんに、兄は落ち着いて見返している。


「違います。ただ、綿密に打ち合わせる時間も惜しいので、うちのサインを使える彼らに協力してもらいたいのです」


ふむ、と納得しかけたサクラさんの横で、気楽に会話に割って入る人がいた。


「だったら、俺も突入班に混ぜてもらおう」


なんて発言したのは王子様で、合わせて、いくつかのハンドサインを披露してみせる。


「ビービー達が知ってるサインって、これでしょ。大丈夫、大丈夫。ビービー達が下っ端だった時、俺も一緒に考えたやつだし、便利だから、いまもキースと現役で使ってるからね」


名前を出された従者さんは迷惑そうだけど、兄は渋い顔で許可を出した。

というか、余計な時間を割きたくなくて許可せざるを得なかっただけだろうな。


「……但し、怪我をしないでくださるなら」


「もちろん、何があってもキース責任だから大丈夫」


それは本当に大丈夫なんだろうかと心配になるけど、おろおろと見守っているしかないのが不甲斐ない。


「ソレイユ、お前も突入班に加わってくれ。俺は全体を見るのに外にいるから、中での指揮は副隊長のフォルティスがする。お前には悪いが、誘拐された二人の安全確保と同時にリックさん達の注意もしてもらいたい」


なんて無茶なと思いながらも、ソレイユさんは躊躇なく了承している。


「あー、具体的な作戦に入る前に自己申告なんだけど……いいか?」


ここで遠慮がちに手をあげたのは、イズクラとして付き合っていた巻き込まれフェイルさん。


「俺はイズクラ会員だけど、研究所には所属してないし、文人だから腕力も皆無なんでイスズと一緒に避難させてもらっていいんだよな、クレオス隊長さん」


「むしろ、突撃してもらうと困る」


「じゃ、俺はそういうことで。で、ついでに確認するけど、ジェットの行き先は?」


騎士達に囲まれていると、少年のジェットは背丈のこともあって華奢だ。

私としても、危ないことはしてほしくないから待機仲間に入ってほしいところだけども……。


「装備は?」


聞かれて、ジェットは背後の腰回りからナイフを取り出して見せる。


「他に、投擲用の小刀を数本です。所長と組ませてもらえるなら、この体格なので囮になることも可能かと」


そんな申告をしたジェットは、凛とした顔つきだ。

兄はビートルを見、微かに頷くのを確認すると、見張りとして木の上にいた部下を見上げる。


「胸当てを貸してやってくれ」


指示を聞いて、小柄な男がするすると降りてきたかと思えば、服の下からごそごそと胸当てを外し、ジェットにつけ直してくれている。

その間に突入してからの動き、目指す場所に彼女らがいた場合、いなかった場合の対応なんかを打ち合わせて話を終わらせた。


遠巻きな私には全部聞こえたわけでもないのに、じわじわと緊張感が高まっていく錯覚に陥っていく。


「ところで、ここの安全面は足りてるのか」


最後の最後にサクラさんは周囲に聞かせるような確認をする。


「それについては、心配なく」


兄が視線を向けると、騎士服を身につけた見目麗しい三人がやってきて黙礼をする。


「なるほど。クレオス隊長は、案外、腹黒だったか」


そう言うのは、彼らがモモカ姫の本来の護衛だからだ。

モモカ姫にお忍びだからと言われて素直にキジ湖の外で待機していたところを捕まえたと聞いた時には驚いたけど、そんな彼らを自分達の護衛に使うと宣言された時には、どんな聞き間違いかと思った。


「うちの隊と連携が取れないのだから仕方ない。適材適所だ」


そう笑う兄は、腹黒と言われても仕方ない顔をしている。


「それじゃあ、各自、持ち場に移動してくれ」


兄の合図で、ビービー達が私の頭や肩を叩いて移動を始める。

最後にジェットがやってきて、両手をしっかりと握られた。


「ナナコさんを助けてきますね」


柔な自分よりも硬い手のひらの感触と誇らしげな眼差しを前にして、心配が先に立つ複雑な自分の心境など綺麗に包んでしまうしかない。

だから、代わりに晴れやかに笑う。


「うん。頼んだ」


研究所メンバーを全員見送ると、後に続く王子様と従者さんが視界に入り、一緒に行動しているソレイユさんがこちらを見ていることに気がつく。

大変な役目を任されてるというのに、安全な場所にいるだけの私が心配で仕方ないという顔に見えてしまうのは護衛をしてもらった時の名残かもしれない。

さすがに、いまは自分の心配をしてほしいから、小さく「気をつけて」という所長仕込みのハンドサインを送ってみる。

すると、目を丸くして驚いたソレイユさんは、すぐに笑って「任せてください」と返してくれた。


うん。

もう大丈夫。

囚われのお姫様達は、きっと、すぐに頼もしい騎士様達が助けてくれるから。

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