アジト確定
∉ Sideジェット
「絶対に面白そうだと思ったのに、早々に引き返すことになるとはな」
「おかげで他のアジトも押さえられるし、人員も確保できたじゃないか。文句があるなら、置いて行ってもいいんだぞ」
リックスレイド王子の身も蓋もないぼやきに、ビームス所長が目を細めている。
「新会員の言い分はともかく、最近なかった新興組織だから気合いを入れてみれば、表の店以外の拠点が全部スポンサー名義ってどうかしてるだろ」
続けてぼやいたサクラ団長が言うように、怪しい拠点をいくつか調べてみれば、名義が揃ってイスズさんに迷惑をかけていたサハラ・アザリカだったのには呆れるしかない。
結果的に、サハラ名義の土地を押さえることで落ち着いたから、それはそれで手っ取り早く済んだわけだけど。
それらの情報を含めて総合的に精査したところ、キジ湖付近にある別邸の可能性が高いだろうと再び移動することになった。
預けていた手綱を取って、大人達の会話を背景に、ここにきて初めてイズクラの会長をやっていることを後悔しかけてる。
振り返れば、隣国の王子を含む研究所の先輩達に加えて、サクラ団長が率いる警備所で待機していた数班が続いているとか、色々とおかしすぎて決して後ろを振り向いてはいけない。
改めて認識してしまったら、確実に気が遠退くに違いない。
イスズさんのためにしたことで後悔はすまいと改めて誓い、「行きます」と声に出して馬を走らせる。
そんなプレッシャーの状況でも堪えていられたにも関わらず、クレオス隊の状況確認と情報交換のために通り道でもあるキジ湖へ到着してみて、完全に気が遠退いた。
「こっちです。お待ちしてました。応援の人員も一緒ですね」
観光者用の停車場に入る目前のところでクレオス隊員が二人立っていて、横道に誘導される。
「隊長より伝言です。彼女達の行方がわかったので、合流してほしいとのこと。現場まで私達がご案内いたします」
場所を確認すると、イズクラとサクラ団長で当たりをつけていた所と一致した。
「さすがは現役。そう遠くに行ってなかったとはいえ、クレオス隊の見事なお手並みだな」
こちらの当て推量でピンポイント狙いの探りと違って、隊は広域捜査での結果だ。
ビームス所長が深く感心してると、案内する騎士達は、なぜか揃って僕らの方がすごいと称え返してくる。
「この短時間で犯人や居場所を特定した上に、増援まで確保してきてくれたじゃないですか」
「そうですよ。だいたい、こちらは隊長の期待に添えず、場所の特定までには到ってませんでしたから」
と、ここまでを聞いて、ん? と思う。
「隊で探し当てたわけじゃないのですか?」
「……はい。恥ずかしながら、こうまで確実な情報をもたらしてくれたのは、研究所のイスズ・コーセイさんなんです」
「は?」
「何?」
似たような唖然とする声や反応がいくらか上がったと同時に、所長が目線で訴えてくる。
それを含まれた意味ごと無言で受け取ると、即座に目的地に走り出す。
当たり前のように続くイズクラメンバーに、案内に残ってくれていた二人の騎士は慌てて最後尾を追いかけてきていた。
* Sideイスズ
いまか、いまかと待っていた団体の影が向かってくるのを見て、ホッとするより圧倒されてしまう。
出かけて行った時より人数が増えてるのはともかく、妙な気迫を感じるのはなぜだろう。
それも、近づくにつれて速度が落とされ、気配を忍ばせる雰囲気になったけど。
兄の隊長が出迎えると、ジェットと、なぜかサクラさんが前に出てくる。
増えた人員は、サクラさんが連れてきた警備所の人達っぽい。
他に見知った顔を探して目線を移せば、ビービーがいて、隣には王子様と従者さん。
その背後で心配そうなソレイユさんがこちらを見てる。
それが妙に気まずくて、つい斜めに逸らしてしまう。
私だって、現場までついて来る気はなかった。
だけど、ナナコさん達が連れて行かれた先を突き止めた人がロッジに戻ってくるなり、リリンさんは迷わずクレオス隊がいるコテージに突撃し、「怖いめに遭ったのに迎えが厳つい騎士達だけでは可哀相だ」と言って自分達も現場に連れていくよう説得しだした。
いや、正しくは脅迫紛いの交渉と称するべきか。
口には出さなかったけど、あれは連れていかなければ教えないと言わんばかりの勢いだった。
結果、リリンさんの主張に一理あることと時間をかけたくないことで、クレオス隊は提案に乗ることを選択した。
その交渉の間、私は何も言えなかった。
兄達の邪魔にはなりたくないし、自分が無力なことも嫌というほど知っているけど、蚊帳の外に置かれてしまうのは御免だと思っているリリンさんの気持ちにも同感していたから。
「言いたいことは色々あるだろうけど、まずは救出を優先させたい」
多々ある私やリリンさんへの物言いたげな視線に、隊長の兄は遮るよう本題に入る。
「当然だな。状況は?」
「潜伏先の屋敷は三階建てで、出入り口は表裏と庭先の三ヶ所です」
サクラさんの質問に兄が答えると、各々が木陰の隙間から見える建物を確認する。
「無駄にでかいな」
ビービーの感想の通り、誘拐犯がこそこそと逃げ隠れする建物には見えなかった。