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ひとつ屋根の下


* Sideイスズ



「……」


「……」


雪鈴亭を出た私とソレイユさんは、研究所まで戻ってきて途方に暮れていた。

なぜかと言えば、雪鈴亭を出た直後に巻き戻る。


「送っていきます。家はどちらですか」


護衛として本日最後の役目をまっとうしようと聞いてくれたのだろうけど、知らなかったとは思わなかった。


「研究所ですけど」


「え゛!?」


なぜか、今日一番の動揺をされた気がした。


「あの、本当に研究所に?」


「はい。管理人として住まわせてもらってます」


「もしかして、お一人で?」


「はい」


「それは……」


いかにも「困りましたね」と言わんばかりの顔で眉間に指を当てて悩まれた。


「あの、ソレイユさん?」


「実はイスズさんの護衛の間、研究所で寝泊まりできるようビームス所長が手配してくれることになっていたのですが」


「は!? 何ですか、それは!」


というわけで、現在に至っている。


途中、気持ちを落ち着ける時間稼ぎをかねて昼間に暴漢を預けた警備所に寄ったのだけど、ソレイユさんの後輩が泣きそうな顔で逃げられましたと謝り倒し、ますます護衛の需要が上がってしまったわけだから、よそでお願いしますとはいかなくなっていた。


「とりあえず、中に入りましょうか」


研究所は私の住処でもあるので、一応、気を使ってこちらから提案してみる。


「そう、ですね」


他に選択しようがないのが本音だろうけど、とにもかくにも同意が得られたので鍵を開けた。

いつもなら一人になっても昼間の賑やかな余韻が残っているので居心地がいいのに、二人の方がかえって静かで落ち着かないのはどうしたものか。


「イスズさんの部屋はどちらですか」


なぜそんなことを聞くのかと、少々びびってしまう。

けれども、ソレイユさんの顔つきを見た途端に反省した。


「二階の室長室です。たぶん、所長室に毛布とかが用意してあると思いますけど、ソレイユさんはどうしますか」


こちらから普通に聞き返すことができたのは、騎士としての確認だとわかったから。

というか、ごめんなさい。

私みたいのが変な心配をして申し訳なかったです。


「そうですね…………」


ソレイユさんはやけに長考した後、階段下でと答えた。

どういう経緯により階段下になったのかは不明ながら、その位置なら、こちらも過剰に気を使わなくて済みそうだ。


二人で一階の出入口の錠を全て確かめると二階に上がる。

ソレイユさんが先に立って安全を確認してくれると、メモ付きで所長室に用意されていた毛布を手にして声をかけてきた。


「何かあったら、すぐに呼んでください」


「はい」


貴重な資料を保管している関係で、研究所の防犯はしっかりしているため、基本的に、ここにいる限り危険を感じたことはなかった。

それでも、ずっと一人で気を張っていたことを思えば、頼っても許される相手がいるのは何かが違うみたいだ。


「ソレイユさんも、少しは休んでくださいね」


「お気遣い、ありがとうございます。では、おやすみなさい」




 ※ Sideソレイユ



「ふう」


階段に腰かけて落ち着いたものの、ソワソワと不思議な気分だった。


隊長にさえ打ち明けるまでにだいぶ葛藤のあった弱音の絡む情けない事情を、今日会ったばかりの、それも護衛対象となる相手に告白したのだから。

雪鈴亭でルルという店員の配慮で、打ち解けるきっかけをもらったとは言え……。


おそらく、あのパイは、わざと逆に出されていた。


こちらも、あのままの距離感では護衛しづらく、話せるきっかけを探していたので配慮はありがたかったのだけれど、切り出し方が率直すぎたのか、イスズは自分ばかり勝手な要求をするなと不満をぶつけてきた。

それは自分にとって目の覚めるような指摘だった。

だから、その通りだと納得し、この護衛にかける意気込みもあって、正直に打ち明けることにしたのだ。

彼女の信頼を得たい一心で。


まさか、初日にしてアノ人が現れるとは思ってもみなかったので、護衛どころか、かえって迷惑をかけるのではとの心配もあったこともある。

ただ、実際に話をしてみると、最後まで聞いてもらえたことに喜びを見出している自分がいて戸惑った。

自分の事情はお返しとして話せないと向こうに言われて初めて、そうだったと当初の目的を思い出したくらいだ。


「イスズさんは不思議な人だ」


誰も彼も信じてくれなかった話を勝手に聞かせ、感情に任せて声を荒げても、全てを否定せずに向き合ってくれたのだから。


「研究者だからだろうか……」


しっかり主張できる意思を持っている、女性と呼ぶには違和感を覚える年齢の女の子。

外に出る度に肩に力を入れて緊張と怯えを押し隠し、何にも頼ろうとしないで頑張っている後ろ姿に手を差しのべてやりたかった。


「絶対に守りきってあげないと」


首を回して振り仰ぎ、上階の私室にいる姿の見えないイスズに視線を向けて気合を入れた。

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