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入会


* Sideイスズ



「今後の方針は立ったかい?」


ビービーの手招きっやってきたのは、やや緊張ぎみのジェット……だけでなく、悪びれないリックスレイド王子様と従者のキースさんまで一緒だ。


「王子様は呼んでませんが?」


「やだなぁ。ビービーだけには言われたくないよ。現役の立派な隊長さんを前に取り仕切ってるくせに」


さらっと言ってくれた指摘に、ビービーはぎくっと兄を振り返る。


「それに比べて、ここの隊は行儀がいいよね。隊長さんを通した指示だからって、文句も言わないで動いてくれるんだから」


「リックスレイド王子。お誉めいただき、ありがとうございます。ですが、今回の任務は昔なじみのビートル隊長と一緒だと知って手を上げた者が多いので、むしろ納得して従っているだけだと思います」


「ふうん。だってさ、ビートル隊長」


「……リック。頼むから、これ以上つつくのはやめてくれ。それと、クレオス、悪かった」


「いえ、とんでもない。それに、ここだけの話、俺も一緒だと浮かれていた方なので」


現隊員の兄は返事をしながら苦笑している。


「あー、ともかく、この話は終わろう。それから、リック。ご指摘はありがたいが、今回の介入は諦めてくれ」


「やだね。正直言って、俺は結構本気で腹立ってるから」


「リック?」


「俺は今回、気安いビービー達に久々に会えるのを楽しみにしてたし、熱量のあるイスズちゃんの案内も満喫してたわけ。まあ、俺がモモカ姫に予定の伝え方を失敗したとは思ってるけど、悪人がいるなら成敗するのが王族の存在意義だと思わないかい?」


個人的には、喜んでもらえていることを名指しで教えられて嬉しいわけだけど、話的に重要なのはそこじゃない。


「駄目だ。自国じゃないんだぞ。それこそ、クレオスの立場を考えてくれ」


「大丈夫、大丈夫。観光も終わったことだし、いま、ここで任務終了ってことにすればいいよ」


「だったら、尚更、ここにいる名目がないだろう」


「それなら、すぐに拵えられるよ。ね、ジェット会長」


「え?」


「条件はイスズちゃんと面識があって、イスズちゃんに害をなさない人物だっけ? オカルトの話題提供ができるについては問題ないから、条件的にはクリアだね。しかも、いまなら、もれなく有能なキースがついてくる。どうだい、お買得だろ」


とんでもない大物にいい笑顔で自薦されて、イズクラの会長であるジェットの頬が見るからに引きつってる。


「まさか、可愛い弟君は、お兄ちゃんの頼みを断ったりしないよね」


にっこり笑って圧力をかける王子様は気楽なものだけど、視線すら動かせないジェットに同調する私としては緊張で息苦しい。

信頼を厚く寄せている会員のフェイルさんは、きっと、ジェットが目線で誰かに助言を求めた瞬間に会長として立場を容認しなくなるに違いない。


「ジェット。会長として判断を下す前にキースに言っておきたいことがある」


意外なことに、そんなことを言い出したのはビービーだ。


「俺にですか?」


「もう手後れかもしれないが、この件に関わると国に戻るのが遠のくかもしれない」


確かに、ナナコさんだけなら一般人の事件として内密に片付けられるかもしれないけど、モモカ姫は良くも悪くも注目の的なので、関わるつもりなら帰国が予定通りにいかなくなる可能性は高いだろうな。


「そうですか。俺も薄々、そんな予感がしてたのですが、これも主にはいい薬となるでしょうし、ここは一応、反対したという事実だけは残しておいた方がよさそうですね。というわけで、リック。俺は反対です」


「……なんか、色々言いたいことはあるんだけど、まあ、いいや。ジェット会長、俺の要求は変わらないよ」


王子様は従者さんのおざなりな提言を無視して、さも楽しげに返事を待っている。


「確かに、リック兄さんなら、入会条件は問題ありません。ですが、会員には条約が課せられます。それが守れないのなら認められません」


ジェットの発言の裏を返せば、条約さえ飲めるのなら了承すると言っているも同然だ。


「なるほど。だったら、まず条約とやらを教えてもらおうかな」


「ひとつは、イスズさんや研究所に害をなすことはしないこと」


「当然だね」


「あと、イズクラとしての活動に関しては会長である僕の命に絶対服従であること」


「ふうん。俺にも立場というものがあるけど、イズクラの活動に限るなら可能だよ。イスズちゃんに嫌われることはしないのが理念なんだろう。他には?」


チラリとこちらに視線が飛んできたけど、活動に関与してないのに、そこを信頼の基準されても困ってしまう。


「最後に、自主的な脱会は認められません。もし、それを望むなら、イズクラが全力を持って報復します」


必要な条件なんだろうけど、不敬極まりない宣告をハラハラと見守るしかない私の心境とは裏腹に、当の物好きな王子様は声を上げて笑った。


「ははっ、いいね。組織は、それくらいじゃなくっちゃ。わかった。条約を守ると誓おう」


こうして、私の目の前で私の意思など関係なしに、隣国の王子様のファンクラブ入会が決まってしまう。

いつぞやのお風呂でナナコさんと笑い話にしていたことが遠い過去みたいだ。


「じゃあ、具体的な話をしよう。その前に、ヴァンフォーレ君もこっちに。騎士として動きづらくさせて悪いが、研究所の面子以外で実情を把握している君が付き合ってくれるのは助かる」


ビービーの発言で、付かず離れずの位置にいたソレイユさんに一気に注目が集まった。


ソレイユさんはビービーを見て、要人である王子様を確かめてから、最後に隊長である兄に目を留めて指示を求める。


「ひとまず、ビートル所長の話を聞こう。ソレイユも加わってくれ」


了解したソレイユさんは、あくまでも護衛騎士として、王子様の背後に従者さんと並んで立つ。

それは、成り行きだとしてもナナコさん救出に関わってもらえる頼もしさを感じさせる一方で、任務中の騎士らしく、よそには一瞥もくれない本来の距離感になんとも言えない淋しさを味わわせてくれた。

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