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内輪の話


* Sideイスズ



「……」


私は、かつてないほど唖然としてる気がする。

ついさっきの悪漢を前にした動揺を吹き飛ばすくらい、ソレイユさんの饒舌さと冷えきった態度が衝撃すぎたせいだ。

直前までは、この人になら、自分でもよくわからないまま話すことさえ受け止めてもらえるという頼もしさがあったのだけど、いまはちょっぴり距離を取りたいくらい。


もちろん、庇って怒ってくれてることも、伝えたかったことを理解してくれたことにも感謝はしてるんだけど、それにしては周囲を冷えさせすぎだと思ってしまう。


だいたい、他の騎士さん達が意見した気持ちは、私にこそ理解できる。

馬車の中で最初にモモカ姫が口を出した時、正にナナコさんのために動いてくれるのだと感動した側だから。


なのに、悪漢にきっぱりと拒否されたにも関わらず噛み合わない問答が続けられた挙げ句、足元の隠し引き出しからショールを持ち出して「さあ、参りましょう」と言い出した時には、うっかり悪漢の仲間だったのかと疑ってしまった。

続けて「私は逃げも隠れもいたしませんわ」とか言い出したので、違うのだとホッとしたものだ。

何より、悪漢達こそ戸惑い、面倒そうな顔をしていたので、お仲間には見えなかったわけだけど。


とにかく、ここは、きっかけとなった私が責任を取って、ロビー中を凍らせた絶対零度なソレイユさんの気を逸らすべきかと迷っていたら、門番に立っていた騎士さんが入ってきた。


「失礼します。出版社の者が面会を求めているのですが」


と、報告してから冷えきった空気に気づいて戸惑っているので、小心者の私としては妙に申し訳ない気分になってしまう。


「下手に追い返すより、迎え入れて権力で黙らせる方がいいだろうね」


リックさんが嬉々として提案するので、まずは通してみることになったのだけど、登場してきたのが見知った顔なのに驚いた。


「お邪魔いたします。ハイヤー所属のフェイルです」


「え、フェイルさん?!」


賓客を前に横入りで声を出して、慌てて口を塞いで畏まったのに、当のフェイルは気安く応答してくれる。


「やっぱり、イスズもいたか。裏五湖巡礼だし、この後、ドラグマニル公の屋敷で世話になるって聞いてたから、関わってるだろうなと思ってたんだよ」


「なんだよ、フェイル。王子の俺よりイスズちゃんなのか?」


「そりゃまあ、イズクラ会員としては、何よりイスズで申し訳ありません」


「んー。やっぱり、侮れない組織なんじゃないか」


「ところで、まだ出れないのか? 対談相手のモモカ姫は、とっくに出発したって聞いたんだけど」


「……」


本題が戻ってきて、静かな緊張感が再び甦ってくる。


「クレオス。とりあえず、隊で騒ぎにしないよう対処しつつ、行方を追わせてくれ。少し、内輪の話がしたい」


そう言ったのはビービーで、話し合いには兄の他に着いたばかりのフェイルさんと私を呼ぶ。

メンバーを見て、そういうことかなと理解したから立ち上がろうとして、まだソレイユさんに手を掴まれたままなのと、繋がる先がまだピリピリした気配を引きずっていることに気がついた。

目が合えば、心配してくれているのだとしか伝わってこなくて、こんな時なのに嬉しくなってしまう。


「ありがとうございます、ソレイユさん。おかげで、頭が整理できました」


もう大丈夫なアピールで笑顔を意識して返すと、まだ心配の名残を匂わせながらも手を離される。

ソレイユさんの手は騎士様らしく大きくて固いせいか、解放された両手には、やけにすかすかした物足りなさを置いていかれたみたいだ。


さすがに体のだるさを自覚してるから、気をつけて立ち上がると、横からも心配の声が飛んでくる。


「イスズさん。大丈夫ですか」


顔を向ければ、少々潤んだ不安げなジェットがいる。


「心配かけてごめんね。でも、ナナコさんが元気で戻ってくるまで頑張れるから」


「……僕にも頼ってくださいね」


「うん。だから、所長達と話してくるね」


頷き返してくれるジェットの顔はお世辞にも晴れたとは言い難くて、上手いことを言えない不器用さが情けなくなる。


「イスズ」


別方向からの声に振り向けば、今度はビービーで、こちらから合流するつもりで近寄るはずが、よくわからない内に鮮やかな手際でお姫様だっこをされていた。


「え?」


しかも、そんなに弱ってないから! とか、恥ずかすぎるんですけど! とか反発する前にソファに座らされる。

ましてや、いつになく真顔で隣に座るから、まともに照れている隙すらない。


「クレオス。今回の事件は、大ごとにせずに動いた方がいい。もしかしたら、前にイスズが狙われた件が関係しているかもしれない」


率直に切り出したビービーに、集められた各々が反応をする。

私は、だよねぇと下を向いた。


ソレイユさんに促されるまで、詳細を語るのをためらっていた己の狼狽えぶりが不甲斐なさすぎる。

いくら、二人が拐われた事実に代わりがなくても、モモカ姫の言動が謎すぎる暴露になろうとも、犯人の狙いがナナコさんにあったというのは重要な証言に違いないのに。

でもって、ツンとした印象ながらも面倒見のよい素敵なお姉さんが狙われたとなれば、犯人候補に上がってくる一番手の人物は決まってる。


「クレオス。今回の事件、この前のイスズが巻き込まれたいざこざが尾を引いているのかもしれない」


「あれですか?」


兄はビービーを見て、それから私に首を捻る。

不思議がられるのも無理はない。

あの時の傍迷惑な真の詳細は、研究所メンバーとソレイユさんにしか語ってないんだから。


「ちょい待った。なんかあったわけ?」


ここでフェイルさんが話についてけない申告してきたので、そうでしたと簡潔に説明される。


「うちのナナコが拐われた。ついでに、モモカ姫まで連れられて行ったらしい」


「ええっ、ヤバくない!?」


「相当ヤバいな」


「でもって、それがあの時の事件の犯人かもしれないってことか?」


「理解が早くて助かるよ。だから、とりあえずは騒がないでもらいたい」


「それはもちろんだけど、どうするんだ」


「クレオス。検挙した関係者の動きは、まだ継続して警戒しているんだろう」


「一応は。ただ、隊からは人員を割ける状況じゃないから、イズクラの情報網に回しているだけですけど」


「それなら、俺がまとめて情報を持ってる……けど、そういう話をするなら足りない顔があるんじゃないか」


フェイルさんの仄めかしに兄が視線を移すので、釣られて私もジェットに目を向ける。


イスズファンクラブは私の名前が入ってるだけで、どんな活動をしているかなんて、ちっとも知らされてない。

それでも、フェイルさんと同じく、まとめているのがジェットだから信頼できている。


「ビービー」


「そうだな」


呼びかければ、同感だったのか、こちらを気にしているジェットを手招きで招集した。

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