幕間 ハッピーエンド、幸せ〝の〟終わり
本日2話目。
よろしくお願いしまーす!
前世では女性だった自分が、攻略対象に転生したことは思わぬ事態だったが……それでも。ファングにはどうしても乗り越えたい最悪のイベントがあったため、頑張るしかなかった。
それこそが《銀赤乙女》の一大イベント──奴隷解放イベント。その名の通り、人間に捕まっている亜人達に関わるイベントだ。つまり、隠し攻略対象であるアルフォンスのイベントでもあった……。
◆◆◆◆
ある日──……。フィオナが使っていた魔道具が壊れてしまう事件が起きる。
完全に壊れてしまった魔道具はもう使いようがない。ゆえに、新しい魔道具を入手することにしたのだが……それにあたって、どうせならば自身の能力に見合ったオーダーメイド品の魔道具を手に入れた方がいいんじゃないか、という話になる。実際に、王太子コルネリウスやタンザ、ファングなどは魔道具研究者でオーダーメイドの魔道具を作っていたので。
ゆえに、フィオナも自分だけの魔道具を手に入れるため……魔道具研究所を訪れることになった。
しかし、そんな日に限って……亜人達による犯罪組織──《大毒蜘蛛》による襲撃が起きてしまう。
逃げる最中、他のメンバーと逸れてしまったフィオナは思わぬ再会を果たす。
そう……《大毒蜘蛛》と呼ばれる亜人達の犯罪組織に所属してしまった……避暑地で破落戸に襲われた時に、自身を助けてくれたあの青年、アルフォンスと──……。
何故、こんなことをするのだと問いかけるフィオナに彼は答える。
『何故? 何故かって? 亜人達を殺して魔道具に加工していることを知りながら。それに見て見ぬ振りをして仲間が死ぬのを受け入れろと? 助かるなって、お前は言うのか?』
『…………え?』
『…………なんだ、知らないのか。お前達の使っている魔道具、俺達の血肉から生み出されているんだよ。魔法が使えないお前達が、亜人という名の媒介を使って、魔法を使うためにな!』
その事実を知ってフィオナが動けなくなっている内に、彼らは姿を消していた……。
襲撃から数日後。
衝撃の事実を知ったフィオナは自分でも亜人達に関わることを調べ、アルフォンスの言葉が嘘でないことを知ってしまう。
心優しい彼女は、自分達の生活を豊かにするために亜人達を殺すなんで受け入れられるはずがなく──……自分はどうするべきなのかと悩み始める。
けれど、自分達のために苦悩するフィオナの姿をどこかから見ていたらしいアルフォンスが再び彼女の前に姿を現すことで……アルフォンスルートは、開かれることになるのだ……。
◆◆◆◆
アルフォンスルートの場合は、再び姿を現した彼の手を取り、彼と共に《大毒蜘蛛》──《亜人解放戦線》に参加し、亜人達を解放するための戦いに身を投じることになる。つまり、反乱を起こすことになる。
それは今までの制度を根本から覆す戦いとなるため、かつての友人達──他の攻略対象と戦うことになったり、敵意を向けられたりするようになる。
しかし、アルフォンスに支えられて……ハッピーエンドならば亜人達の自由を勝ち取り、彼らを奴隷身分から解放することに成功する。勿論、その過程でアルフォンスとの恋も発展する。
バッドエンドの場合は純粋に、亜人達を解放するための戦いに身を投じれど人間達に勝つことができず……捕えられ、叛逆者として処刑されるエンディングとなる。
また、アルフォンスの手を取らなかった──他の攻略対象を選んだ──場合は、物語終盤で必ず、《大毒蜘蛛》が王都全域に襲撃をかけてくる。この際、攻略対象との好感度が規定以上ならば彼らを倒すことに成功してハッピーエンド。好感度が低いと彼らを倒せず、王国は滅亡しバッドエンドという流れになっていた。
こう長々と説明したが、とにもかくにも。この奴隷解放イベントを上手く乗り越えないと、多くの命が失われることになる。だからファングは、ハッピーエンドに辿り着こうと頑張った。
…………ヒロインが幸せになるところを見たいという本音も、少し。
けれど、結果はどうだろうか?
王都は襲撃された。けれどそれは《大毒蜘蛛》が主体となって行われたのではなく……《最後の竜》による復讐だった。
ある意味、王国は滅亡を迎えた。これはバッドエンドと言っても過言ではないだろう。
……いや、ゲームのバッドエンドよりも遥かに悪い。だってレメイン王国だけでなく、世界丸ごと終わりを迎えてしまったのだから。
(あぁ……どこで……間違えちゃったんだろうなぁ……)
「あはははっ! あははははっ!」
狂ったように笑うフィオナの声に、死に体になりながらも意識を取り戻したファングは……心の底から後悔する。
折角、乙女ゲームの知識があったのに全然、活かせなかった。それどころか状況を悪化させただけだった。
でも──……。
(…………あんなイかれてるの相手じゃ……仕方ないかぁ……)
王都を破壊することに一切躊躇わなくて。人を殺すことを喜んでるような竜相手では、勝てるはずがないのだ。所詮、自分達は弱い人間なのだから……。
(フィオナ……貴女を、ハッピーエンドに連れて行きたかったよ……)
その言葉を最後に、ファングは黒い闇に呑み込まれる。
異世界に転生した〝彼女〟の二度目の人生は……ここで、終わりを迎えたのだった。




