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《最後の竜》の復讐劇( Ⅵ )

 




 空間断裂でこの場から逃げられなくなった人間どもは悲鳴を聞きながら、崩れた建物の残骸に腰掛けたカルディアは目の前で始まった戦いを観戦する。



「……行くぞ」


 アルフォンスの両腕が竜化した。鱗が浮かび、その爪が鋭く伸びる。

 だが、彼はさっきとは打って変わって……ゆったりと、歩きながら距離を詰めていった。

 それにコルネリウスは困惑する。意味が分からないと、動揺している。


(うわぁ〜……お馬鹿さんだぁ〜。やっぱり実戦経験のないお子ちゃまだからかな?)


 カルディアは思いっきり呆れた。もう心の底から馬鹿だな、と思った。

 だってそうだろう? 相手は何度も竜だと伝えているのに、こんなにも無防備なのだから。

 決戦といった雰囲気の中で、アルフォンスが歩いて距離を詰めているからか油断しているのか? 武器すら構やしないのだから。

 これが呆れずにいられるだろうか? いや、無理だ。

 けれど、そんな彼の代わりに動いたのが一人。


「っ……! 《()()()()()()()()()()()()()()》!!」

「…………!!」

「…………へぇ?」


 あの公開裁判にいた貴族達のように……ファングの命令に従って、今の今まで動けなかったコルネリウスが操られたかのように魔法を使い、炎の結界を纏った。

 でも、所詮は人間の魔法だ。アルフォンスがほんの少し、手に力を込めて押し込んだだけで王太子は吹っ飛んでいく。


「ふぐぅっ!?」

「殿下っ!」

「コルネリウス様っ!!」


 ファングとフィオナが悲鳴をあげた。

 だが、王太子そちらに意識を取られるのは失策だ。


「ほら。俺から目を逸らしていいのか?」

「っ……クソッ!!」


 凄くゆっくりとした動きで、アルフォンスが攻撃を開始した。カルディアからして見れば欠伸が出てしまうほどに遅いのに、人間から見れば違うらしい。苦しそうな顔で攻撃を防いでいる。

 一匹と一人の攻防。カルディアは〝不思議な力〟を使った、防戦一方の人間ファングをマジマジと観察した。


(にしても不思議〜)


 先ほどの貴族達といい、王太子といい。どうやらあの人間には特殊な力を有しているらしい。力を込めて命令を下すと、人間達は理性を失ってそれに従う──……強制的な〝操縦〟だろうか?

 それはまるで……この世界の竜(アルフォンス)が持つ力に似ていた。対象が亜人か人間かという違いだけで、その効果はほぼ同じと言っても過言ではない気がした。


(この世界の竜は亜人達の王様だから、亜人達を従える力を持ってる……。なら、()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()?)


 カルディアは考える。

 いつぞやのようにあの個体を一つの世界だと拡大解釈して解説することも可能だが……今回はそれではつまらないと思ったため、推測に推測を重ねて、あの男の〝正体〟に辿り着こうとする。


(本当は亜人? でも、それじゃあなんで人間に混じって人間のフリをしてるって話になるよね。バレた時のリスクが大きいし……こんなにも人間に味方をしてるんだもん。人間じゃない、って可能性はないか)


 コルネリウスに駆け寄ったフィオナが怯える住民から魔道具を借りて、回復魔法を発動させた。

 簡単に終わってしまっては〝つまらないから〟か……ワザと時間をかけて──王太子が復活する時間を与えてやっているらしい──ファングと戦って(遊んで)いるようだ。


(或いは先祖返り? 祖先に亜人と交じった人間がいて……その血が強く出たとか。うーん可能性は高そうだけど、ちょぉっと違う気もするなぁ〜……)


 風の渦を纏った剣攻撃を防ぎながら、アルフォンスが「くわぁ」と欠伸をした。

 やはり種による根本的な強さが違う。アルフォンスの方は飽き始めているのに、ファングの方は動きの繊細さが欠けてきている。顔色すら悪くなってきた。


(なら──……)

「フィオナ!!」

「…………んん?」


 しかし、ファングは唐突に。本当に唐突に、フィオナの名を呼んだ。

 呼ばれた当人は驚いた顔で振り向く。困惑を滲ませる彼女を更に困惑させるようなことを、ファングは更に言い放った。


「フィオナ! アルフォンスと話を! きっと、君との会話なら彼に届く!」

「…………えっ!?!?」

「はぁ??」


 いきなり意味が分からないことを言われたフィオナがギョッとした。

 流石のこれには、アルフォンスもしかめっ面だ。

 それぐらい、あの男の言葉は突拍子がなかった。


「な、何を!? 何を言って!?」

「君と話せば! アルフォンスはこんな復讐を止めてくれるかもしれないんだ!」

「だ、だからなんで私が──」

「君は! この世界の主人公ヒロイン、アルフォンスの運命の女性だからっ!」


 …………。

 カルディアは黙り込む。黙って考える。

 その間、僅か数十秒。けれど答えに辿り着くには充分な時間。

 思い至った答えに、カルディアは目を輝かせた。


「あぁぁぁぁぁぁ! やぁ〜っと! 分かった!」

「「「!?」」」


 男の〝正体〟に気づいたカルディアがあげた大声に、アルフォンス達の戦いが止まり……皆の視線がいきなり大声を出した異界の竜へと集まった。


「お前、転生者だ! ()()()()()()!」

「…………!?」

「そんでその変な力、俗に言う異世界転生〝特典〟なんでしょ! 多分!」

「!?!?」


 ファングが目を見開いて固まる。何故、それを知っているのだと言わんばかりの顔だ。

 …………もしかして忘れたのだろうか? カルディアが世界を渡る竜であることを。

 色んな世界を渡り飛んでいれば異世界に転生している生命モノの一人や二人、何十とぶつかるモンである。なんせこの世界も包する領域には、輪廻転生の概念が存在するのだし。カルディアは見た目に反してかな〜〜〜りの長命であるのだから、そりゃあ知ってても不思議じゃないだろう。


「もしかしてこの世界の詳しいこと、知ってる感じ? ずっとあのお嬢様──……公爵令嬢ちゃんって悪役令嬢っぽいと思ってたんだよね〜。んで、そっちの子がヒロイン。〝平民だと思ってたけど、実は王族の庶子でした!〟とか王道じゃん? んで? 実際どうなの? この世界って乙女ゲームの世界だったりするの?」

「なっ、なっ、なっ……なんで〝()〟が異世界転生者だって……!? それにどうして貴女、そんなに詳しいの()っ!?」

「お?」

「…………あっ」


 ファングが口を押さえて固まる。

 ……間違いない。今、彼の口から女性らしい口調が漏れた。

 カルディアがニヤリと、それはもう楽しそうに笑う。


「ははぁん……成る程ぉ? 君、性別転換転生、したんだぁ?」

「!?!? そこまで知ってんの!?!?」

「成る程成る程、成る程ねぇ〜……。君は、乙女ゲームのシナリオ通りに持っていこうと暗躍してた訳で。アルは攻略対象のヒトリなんだね?」

「〜〜〜〜っ!! もう、なんなのよ! 貴女! 貴女もこのゲームのこと、知ってたのっ!?!?」

「知らないよ。知る訳ないじゃん、別に私はお前みたいに転生した訳じゃないんだし。ただ乙女ゲーム転生ってモノがあるって知ってるだけ。違う世界から転生した奴を見たことがあるだけ」


 そこまで言い切ったカルディアは満足げに頷く。

 そして実感白けた顔でファングを見ていたアルフォンスに声をかけた。


「アル」

「はい」

「もう答え合わせに満足したから。後はアルの好きなタイミングで終わらせていいよ」

「そうですか。では」

「…………え??」


 ──ドンッッ!!

 一瞬でファングの頭上に飛んだアルフォンスは、竜化させた脚でその頭に思いっきり踵落としをぶち込んだ。


「…………っ!!」


 ファングの身体が地面に埋まり、動かなくなる。

 あぁ、やっぱり。手加減を止めたら直ぐに終わってしまった。本当に、なんて弱いのだろう。人間という種族は。


「ファング様っ!」


 今だにコルネリウスの回復に努めていたフィオナが、叫んだ。ボロボロと涙を溢している。

 なのに周りの人間達は敵討ちなんてするつもりもなく。次は自分なのかと怯えるだけだった。この二人みたいに、抗うのならば面白かったのに。怯えるだけしかできないなら、気にかける価値もない。どうでもいい。


「はぁ……弱いな。本当に、弱い。手加減してもこれでは、カルディアを楽しませられないじゃないか」

「うん、もう飽きた」

「…………なら、終わらせるか」


 アルフォンスは地面に埋まったファングの身体から足を退けて、フィオナ達の方に向かっていく。

 コルネリウスは今だに復活の兆しを見せないし。少女の方も戦えそうにない。というか、実際に模擬戦をしたことがあるカルディアは察していた。

 あの女は他人を傷つけられない性格なのだと。他人を傷つけるぐらいなら自分が傷つくことを選ぶタイプなのだと。

 それをアルフォンスも感じ取っているのだろう。もうどうしたって抗ってくれそうにないから、終わらせるのだ。


(どんな終わりになるのかな〜?)


 ……カルディアは、アルフォンスが最後の一手を加えるところを今か今かと待ち侘びた。

 だが、決して油断していた訳じゃない。警戒を怠っていた訳ではない。

 なのにその攻撃に……気づくことが、できなかった。


「死ねぇぇぇえっ!!」

「………………ほぇ?」


 カルディアは頭上を見上げる。

 落ちてくるのは、一本の矢。その先にいるのは……どこか見覚えるのある、ヒトリのエルフ。


(…………あ)


 カルディアは目を見開いた。

 細まった瞳孔が、矢尻に付いた毒々しい色合いの液体を捉える。


「カルディアッ!!」

「あ」


 身体が押された。カルディアの身体が、後ろに倒れる。

 当然ながら……今まで彼女がいた場所には、他のジンブツが、いることになる訳で。


 ──トンッ!


「っっっっ!!」


 アルフォンスの背中に、毒を纏った矢が突き刺さる。

 その瞬間──……。



 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!』


 ──バキバキ、バキバキバキバキッ!!

 世界にヒビが入る音と共に……いつか聞いた女の声が、世界中に響き渡る。


『なんでなんでなんでなんで! 何故、貴方が! その竜の身代わりになってしまったの! わたくしの愛し子! アルフォンスッ!!』


 狂乱する女神の声に、世界に走る亀裂に、誰もが言葉を失う中──……。

 カルディアは呆然と。地面にうつ伏せで倒れながら、血反吐を零すアルフォンスを、見つめていた。


「何、してるの。アル」

「…………」

「なんで、私を守ろうとしたの、馬鹿アル」


 カルディアは問いかける。何故、こんなことをしたのだと、同じ竜でも自分より遥かに弱い竜に問いかける。

 彼は苦しそうな顔をしながら……荒い呼吸を吐きながら……苦笑を、零す。


「…………った、か……」

「……何?」

「……守り、た……く、て…………」

「…………守りたかったの……? 私の方が強いって、分かってるはずなのに……?」

「…………」


 …………カルディアは困惑する。

 だって、初めての経験だったのだ。誰かに〝守られる〟なんて。

 カルディアは強い。心身共に優れた能力を有する最強種たる竜だ。ゆえに、守られる必要性なんてなかったし。実際に今まで一度も守られたことなんて、なかった。

 なのに、アルフォンスはカルディアを守った。身代わりになって、今、死のうとしている。


「なんで?」

「…………」

「なんで、そんなことしたの?」

「………………」

「ねぇ。ねぇねぇ、ねぇ。教えてよ。教えて、アル」


 それが不思議で不思議で仕方ない。疑問を抱かずにはいられない。

 なんで自分の命をかけてまで、カルディアを守ったのか──……。



 その理由が知りたくて、知りたくて。知りたくて、知りたくて、仕方ない。



「…………アル?」

「………………」

「……ありゃ。死んじゃった」


 なのに、その答えを聞けずに……アルフォンスは死んでしまった。亡くなってしまった。

 その心臓はもう動かない。閉じられた瞼はもう二度と、持ち上がらない。



 そう──……このままならば。



「も〜……私の問いに答えずに死んじゃうなんて。眷属としてなってないぞ! もぉぉぉ〜……手がかかるなぁ、アルは! まぁ、面白いからいいけどね! あははっ、あははははっ!」


 ケラケラと、死んだアルフォンスの前で。崩壊し始めた世界で笑うカルディアは、異常だった。狂っていた。

 だが、当然だ。カルディアは狂った竜。どこかが壊れている、異常性を保有する竜なのだ。

 ──こんな風に、おかしいカルディアの姿こそが、異界の竜の本性。


「《箱庭》」


 カルディアは《箱庭》を開く。歪んだ空間にアルフォンスの身体が沈んで消えていく。

 完全に彼の世界を自分の《箱庭》にしまい込んだカルディアは元気よく立ち上がって、呆然とするフィオナに笑顔を向けた。


「さてさて! アルも死んじゃったことだし、私も行くね! 色々とやらなきゃいけないことができたから!」

「…………」

「多分、この世界は終わっちゃうよ。だからね? 最後は悔いのないようにしなね、ヒロインちゃん。それじゃあバイバ〜イ」


 ──パキ、パキパキパキパキッ……!

 カルディアの姿が変わっていく。白い肌は仄かな燐光を放つ若草色の鱗に。小さな身体はどんどん大きく。唯一変わらないのは、爛々と輝く黄金の瞳のみ。

 恐ろしくも神々しい竜の姿に変わったカルディアは、その背に生えた翼を羽ばたかせる。ふわりと浮かび上がる巨大。光の尾を引きながら……その竜は、《渡界の界竜》は、その場から飛び立つ。

 カルディアが向かうのは……こことは違う世界。


 魂の輪廻を担う《死神》の、住処。


(急がなきゃ急がなきゃ! 輪廻の輪に入る前に、アルの魂を捕まえて! アルに答えを教えてもらうんだから!)


 自分を守った理由、アルフォンスの心、本音。

 それを知りたい竜は、その心の赴くまま、更に加速してこの世界から飛び出す。

 知りたいという好奇心を燃料に、それだけに集中して飛び続ける。


 だから──……あの滅びが決まってしまった世界に取り残された生命がどんな末路を迎えたのかを、カルディアは最後まで見ることはなかった。

 ……まぁ、最後まで見届けるとカルディアも終焉に巻き込まれて死んでしまうので。どちらにせよ最後までは見守ることなんてできなかったのだが。



 ──……世界の破滅おわりを見届けるのはやはり、その役目を負っている〝特別な竜〟がやるべきだろう。



 ◇◇◇◇



 ──パキンッ。

 竜の姿が完全に見えなくなると同時に何かが割れる音がした。どうやらこの場に人間達を閉じ込めていた結界が、解けたらしい。それに気づいた人々が、民衆が、慌てて王都から逃げ出していく。


「…………」

「………ぅ、う……フィオナ……?」


 呆然と、現実を受け入れきれずにただただ空を見上げていたフィオナは……かけられた声にゆっくりと視線を下げる。

 頭を押さえながら起き上がったコルネリウスに、フィオナは絶望に満ちた顔を向けた。


「コルネリウス様……」

「……!? フィオナ!? わたしが、意識を失っている間に、何が起きたんだ!?」

「…………分からない……分からないんです……一体、何が、起きているのか……」



「分からないも何もないだろう。カルディアの言う通り──……この世界は破滅おわりを迎えたってだけだ」



「「!?」」


 唐突に降り注いだ第三者の声に、二人は振り向く。そして、言葉を失う。

 そこにいたのは……カルディアもアルフォンスも目じゃないくらいに、一段も二段も上の美貌を誇る……黒髪の美丈夫。

 鋭い黄金の瞳が、人ならざる竜の視線が、剥がれゆく空を見つめている。だが、ふとその視線がこちらを向くと……二人は蛇に睨まれた蛙のように完全に硬直して、動けなくなってしまった。

 しかし、美丈夫──カルディアの兄貴分である《破滅の邪竜》ラグナは、そんな二人を気にかけることもなく。世界の破滅を見届ける役目を負う存在モノとして、世界の終わりを、世界中に響き渡らせ(宣告し)た。


『…………《破滅》を司る《破滅の邪竜》が、終焉を告げる。まもなく、この世界は終わりを迎える。世界を繋ぎ止める楔は破壊された。これは覆せぬ事実だ。空を見ろ。空が全て剥がれ落ちた(壊れた)時──その時が終わりだ。残された時間はもう少ない。ゆえにこの世界に生きる全ての生命よ。最後の時を、悔いなく過ごせ。もう一度告げる。この世界はもうじき終わるを迎える。滅びは免れぬ。ゆえに、悔いなく……終わりの時を過ごせ』


 あぁ。あぁ……。きっと今頃、世界は大混乱に陥っていることだろう。意味が分からず、世界が終わるという事実に騒動が起きることだろう。

 けれど、目の前で直接。《破滅》を司る竜の宣告を聞いてしまったコルネリウスとフィオナは、それが紛れもない事実だと感じ取ってしまった。理解してしまった。


「…………なんで……なんで、こんなことに……」


 無意識に、フィオナの口から言葉が漏れる。

 何故、何故。こんなことになってしまったのかと、思わずにいられない。

 だが、そんな疑問を抱く方が、ラグナにとっては不思議なことであるらしい。彼は心底理解できなさそうに首を傾げた。


「? 何故なんて、理由は簡単だろう? この世界を維持する要素として竜が利用されていた。竜は世界の要、生きた楔だった。だが、竜は数を減らし……あの竜がこの世界の最後の竜だった。ゆえに、アイツが死ねば世界が維持されなくなる。結果、必然的に終焉を迎えただけだ」

「…………ま、待て! 待ってくれ!? 竜は、この世界に必要不可欠の存在だったということか!?」

「そうだが?」

「そ、そんなっ……それじゃあ……!」


 コルネリウスは顔面蒼白になる。

 それが、それが本当ならば! 竜を狩ってきた人間われわれが世界を滅ぼす一因となったと言っても、過言ではないじゃないか!


「だが、あの竜を殺したのはあそこに座り込んでるエルフだ」


 ラグナは、ギリギリ崩壊していない建物やねの上で、力なく座り込むエルフを見上げる。

 アルフォンスに恋をしていたエルフ──ルルを、見つめる。


「……正確には、()()()()()()()()()()()()()したんだが。女神が選び取った結末がコレってことは……初めからこの世界には滅びの運命しか残っていなかったんだろうよ」

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!』


 ──バキバキバキッ……! バリンッバリンッ……!

 空が割れる音が大きくなる。大きく剥がれた空の隙間から、真っ暗な闇が世界に流れ込んで……世界を飲み込んでいく。

 それと同時に……女性の、女神の慟哭が大きく響き渡る。


「あぁ……本当に、この世界は……終わってしまうんだ……」


 闇に飲み込まれていく世界を見て、フィオナはやっと、現実を受け入れた。もうどう足掻いたって意味がないことを悟った。


「フィオナッ……フィオナッ!! 逃げよう! ここにいては危ないっ!」


 コルネリウスがフィオナを無理やり立たせて逃げ出そうとするが、立ち上がれない。逃げる気すら湧き上がらない。

 だって、どこに逃げるというのだろう? 見て分かるように、この世界にはもう、どこにも逃げ場がないというのに。

 なら足掻くだけ無駄だ。後はもう……静かに受け入れてしまって方が、とっても〝楽〟だ。


「あは、は……あははははっ!」


 フィオナは笑った。もう、壊れたように笑うしかなかった。

 なんで竜達が公爵令嬢ケイトリン専属侍従アルバートのフリをしていたのかとか。本物の二人はどうしているのだとか。ファングは一体、何をしでかしていたのだとか。色々と心残りはあるけれど。

 考えるだけ無駄。行動するだけ無駄。何もかもが、全てが全て、無駄無駄無駄。

 …………無意味だ。


「あはははははっ!」

「…………」


 世界の破滅おわりを前に、自棄になった──ある意味、壊れたとも言える──フィオナに、ラグナは冷たい目を向ける。

 《破滅》を司る竜である彼は、壊れたモノが大好きだ。狂ったモノが大好きだ。

 …………が。同じ壊れたものでも、やっぱり一番は自分の花嫁だと実感する。

 この壊れた女には全然、興味の欠片すら抱けない。

 ラグナは溜息を吐きながら、愚痴を零す。


「…………はぁ……。早く世界の破滅おわりを見届けて、花嫁ミュゼのところに帰りたいな……。役割持ちはこれだから面倒くさいんだ……」


 とはいえ、務めを放棄する訳にはいかない。何故なら……〝主人〟の手足となって世界を破滅させること、或いは破滅を見届けること。それこそが《破滅の邪竜》の存在理由とも言えるのだから。


 だからラグナは……この世界が闇に飲み込まれて破滅する(おわる)瞬間を迎えるまで……。

 《根源竜》の片割れ──《破滅の邪竜(ラグナロク)》としての務めを果たすのだった。






転生していた〝彼女〟は、ファングでした〜。

皆さんの予想は当たってましたか?



そして、島田はビックリした……。

そう……ep.1のカルディアの台詞が、まさかまさかの伏線になったので。

『(前略)どうせ死ぬなら! 周りに災厄を振り撒くような!(後略)』

本当に災厄振り撒く系の死を迎えちゃったよ、アルフォンス……。(←つまりですね? 下書きだと死ぬ予定ではなかったんだ、アルフォンス)

後を考えずに書き始めた&全体のストーリーの流れは考えずに、話の内容を思いついたら書いてくスタイル&下書きと本書きの内容がよく変わってしまうのに。

「深く考えていなかったep.1の台詞が、よくここの伏線になったな!?」とメチャクチャ驚いた今日この頃であった。


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[感想]世界観が凄い!!! もう、「根源竜」とか、《〇〇の◯竜》なんて設定どうやったら思いつくんですか(*^^*) ファングさんが異世界転生者の設定は思いつかんかった、、、、、、 なんだろう、、、、、…
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