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陰謀《ワナ》が渦巻く、策略《ウソ》が飛び交う( Ⅳ )


本日は2話更新です。

こちらは1話目。よろしくどうぞ〜


 




 翌日──。

 王太子執務室に呼ばれたタンザはコルネリウスから、フィオナが隣国の王女であったことを聞かされて……驚きのあまり、目を見開いていた。


「フィオナが……隣国の王女……!?」

「あぁ。昨日、隣国の大使が確認を行ったため、間違いはないそうだ」

「なっ……大使が!?」

「フィオナの母の身分が低かったため、娶ることができずに庶子となってしまったそうだが……それでも、シーアス国王が唯一愛した女性との子供らしい。つまり……あの女は隣国の王女を殺そうとした、ということになるな」


 聞かされた真実に、タンザは言葉を失う。

 もし、フィオナが平民のままであったら──……ケイトリンの罰は、修道院入りが妥当だっただろう。王太子のお気に入りとは言え所詮は平民。ケイトリンの王太子の婚約者として長年の貢献と……王家を支えてきた公爵家の人間であることも考慮し、それほど重い罰にはならなかったはずだ。

 しかし、相手が隣国の王女であったと明らかになってしまったのならば、話は違う。両国共にも王族への叛逆は極刑になる。それに……隣国同士であるからこそ、レメイン王国とシーアス王国は交友が深い。庶子とはいえ……国王が唯一愛していた女性となれば、フィオナの価値は隣国国王にとっても高いはずだ。

 そんな彼女を殺しかけたとなれば──……。


「…………あの、大使がご存じであったということはフィオナ……殿下のことは、隣国の方々も──……」

「? あぁ。レイフォード陛下も宰相閣下存じ上げているそうだ」

「!!」


 ならば、この断罪は隣国にも慮る必要が出てきてしまった。もしも、愛娘を害した者が負う罰の内容に、隣国国王が満足しなかったならば。隣国との親交に影響が出るかもしれない。

 だが、逆にケイトリンへの罰が重過ぎれば。確かな罪がケイトリンにあったとしても、マジェット公爵家との関係性に致命的な亀裂が入ってしまうだろう。

 それに……。


(…………学生の間だけの、火遊びではなくなってしまったということか……!)


 タンザの認識も、フィオナは学生時代に限った恋人だと思っていた。

 所詮、彼女は貴族の教育の受けていない平民なのだ。長年、王太子妃教育しいては王妃教育を受けてきたケイトリンほど、コルネリウスの妃に相応しい女性は他にはいないと考えていた。

 しかし、フィオナが王女であったというのなら。コルネリウスは、彼女を捨てることなどできなくなった。責任を取らなくてはならない。


(…………どう、すれば──……どうすれば、いいんだっ……!)


 タンザは顔面蒼白のまま考え込む。

 だが、いい考えは出そうにない。まだ彼は未熟な子供だった。この状況を打破できるほどの力を、知識を、有していなかった。

 そんな彼に追い打ちをかけるように──……。


「タンザ」

「…………ファング?」


 執務室の壁際に控えていた王太子の護衛役であるファングが声をかけてくる。

 彼は優しく微笑みながら、タンザを安心させるように告げる。


()()()()。物語の結末は〝()()()()()()()()()()()()()()()んだから。だから、そんな心配しなくて()()()

「…………大、丈夫」

「そう、()()()()()()よ。()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()だからさ」

「う、ぅっ……」


 苦しそうに呻くタンザの瞳が、徐々に濁っていく。

 その様子を見たファングは心配そうな顔をして、コルネリウスの方を向いた。


「殿下。どうやらタンザは調子が悪いみたいです。下がらせても?」

「……あぁ、確かに具合が悪そうだ。今、お前に倒れられても困る。大事を取るように。下がれ」

「……失礼、します」


 タンザは、軽く頭を下げてから執務室を後にする。

 頭が、上手く働かない。だが、()()()()()()()()()()()()と、命じる声が思考を遮る。


「…………っ」


 そんな彼の様子を……隣で支えるファングが、感情の浮かばぬ表情で観察していたことに。


 ──タンザは最後まで気づかなかった。



 ◇◇◇◇◇



 更に一週間後──。

 避暑地メーユに残ったコドから届いた手紙を読んで……コルネリウスは言葉を、失っていた。


「……殿下? どうしましたか?」


 護衛として王太子執務室の壁際に控えていたファングが、心配そうな声音で問いかけてくる。

 コルネリウスは悲痛な気持ちを抱かながら、それに答えた。


「…………エピフィルムが、死んだ」

「…………え」

「後は、この手紙を読め」


 主人に近づいたファングは手紙を受け取り、内容を読む。そして、息を呑む。

 そこには……メーユの民家の前に、無惨な死体が転がっていたこと。その身体は女性としての尊厳を徹底的に貶められ……更には、その顔も執拗に斬り刻まれていたのだと書かれていて。唯一、その髪色が若葉色であることから……エピフィルムが刺客によって殺害された可能性が高いという、内容が書かれていた。


「これ、は……なんて、酷いことを……」


 ファングも、あまりの残酷さに顔面蒼白になっていた。

 普段は美しいコドの文字が、動揺からか歪んでいる。線が震えている。そのことから、彼は確認のためにその死体を見たことが察せられた。

 きっと、こちらが思うよりも死体の損傷が酷かったのだろう。きっと見るも無惨なことになっていたに違いない。

 それに……もしも、自分達がメーユから撤退するのが遅かったら。フィオナも、エピフィルムのような無惨な死体になっていたかもしれないのだ。


(──やはり、ケイトリンは即刻排除すべきだ)


 そう、コルネリウスが改めて決意を固めたところで──……執務室の扉がノックされた。

 入室の許可を出すと、アルバートが執務室に入ってくる。彼は執務机の前で立ち止まり軽く挨拶をすると、早速と言わんばかりに本題に入った。


「お待たせしました、殿下。証拠の方を集めてまいりました」

「…………何!?」

「まずはこちら。マジェット公爵家が保有していた宝石類が流れた、裏ルートです」


 アルバートは懐から折り畳んだ紙を取り出すと、コルネリウスに差し出す。

 開いて読んでみれば、そこには確かに、どんなルートで宝石が換金されたかが詳しく書いてある。


「また証人として……暗殺の依頼を受けた刺客も確保しております。わたしと《隷属の首輪》、依頼を受けた刺客に、刺客に払った報酬──宝石類の換金ルート。更には実際に襲撃に遭わされた殿下方。これで、如何でしょうか?」

「っ……!」


 まさか……こんなにも早く証拠が揃うだなんて、思いもしなかった。

 ここまでアルバートが優秀であっただなんて、思わぬ誤算だった。

 だからこそ……ケイトリンも、専属侍従として扱っていたのかもしれない。どうやら、あの女は人を見る目だけはあったようだ。

 とにもかくにも、これで準備は整った。


「…………証拠はこれで充分だ。ファング、父上は?」

「陛下は本日、シーアス大使館にて大使と今後の相談を行なっていらっしゃるかと」

「……ははっ! どうやら女神様が我らに味方しているようだな!」


 なんて都合が良いのだろう。

 シーアス大使館は、治外法権だ。つまり、これからやろうとしていることが伝わることがない。

 国王に阻止される前に、全てを終わらせることができる!


「貴族達に緊急の招集をかけろ。公開裁判を行うぞ!」



 彼らは全て、女神からの後押しだと確信したコルネリウスはそう高々に宣言し……執務室から出て行く。

 側近達を引き連れて向かうのは、断罪の舞台──。


 ついにその時が、やってきたのだった。





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