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陰謀《ワナ》が渦巻く、策略《ウソ》が飛び交う( Ⅰ )


お待たせいたしました。

しれっと更新再開です。今後は若干、シリアス多め(?)かも?

あと、暫くカルディア達以外の視線からになります。申し訳ない。

できれば、お付き合いくださると幸いです。


ではでは、今後とも〜よろしくどうぞ〜m(_ _)m


 




 その日──コルネリウス達の秘密裏な王都帰還に同行したアルバートことアルフォンスは、早速証拠集めに行くと言って、別行動を開始した。



 彼が向かった先はマジェット公爵家──……ではなく、隠れ里。未だに復興の目処が立たぬその場所に降り立ってアルフォンスは、ヒトビトの気配が隠れ里の端──かつては木々が生い茂っていた場所にあるのに気づき、そちらに向かう。

 ──リィイン、リィィン……。


「…………失われし命よ、母なる大地に還り給え。その魂を安らかな眠りで癒やし、父なる空を巡り、再びこの世界で生まれ落ちんことをここに祈る」


 ……鈴の音と共に、静かな声が聞こえてきた。

 燃え落ちて、数本の木しか残っていないその場所で……今回の襲撃で死んだモノ達の弔いの儀式を行なっているようだった。

 積まれた石──墓石代わりらしい──の手前側の土が掘り返されて、また埋められた痕跡がある。人間の国では火葬が多いが、隠れ里では土葬が主流のようだ。先ほどの祝詞通りに、〝大地に還る〟ためなのかもしれない。


「願うならば、どうか再び巡り会わんことを──……」


 ジェットが祝詞を唱えながら、終わりの鈴を鳴らす。それで終わりの合図であったようだ。

 参加者達は少しだけ言葉を交わしてからヒトリ、またヒトリとその場を離れていく。

 最後まで残っているのは当然ながら……ジェット。

 アルフォンスはその場に立ち尽くす彼に近づき、少し待ってから声をかけた。


「ジェット」

「…………アルフォンス、様」


 ジェットがゆっくりと振り返る。その顔には深い疲労が溜まっていた。目の下のクマが酷い。どうやら寝ていないらしい。

 だが、そんなことはアルフォンスには関係ない。

 彼は儀礼的に墓石の前で手を当てて黙礼をしてから、疲れ果てているジェットに容赦なく用件を告げた。


「それで? 希望者は?」

「……八人です」

「そうですか」


 色々も大変でも、仕事はきちんとしていたらしい。

 〝案外少ないな〟と思いながらも、里に残っているのは非戦闘員ばかりだからこんなもんかと自分で納得した。

 きっと、足手纏いになるからと自主的に参加を控えたモノもいるのだろう。

 あまり大人数になると扱いづらくなるため、逆にこれぐらいの方がいいのかもしれない。

 行動を開始する時間はそんなに残されてはいないことだし……そもそも、大部分は自分アルフォンスが力技で解決してしまうつもりでもあるし。


「分かりました。では、後日再び顔を出しますので。その時に顔合わせを」

「…………分かり、ました」

「一応、何が起きてもいいように準備の方も進めておいてください。里の防衛然り、戦闘準備然り……ね」

「……また、戦うようなことになると?」


 ジェットの顔が苦痛に歪む。

 再び、人間どもによる蹂躙(このようなこと)が起きるかもしれないと、不安で仕方ないのだろう。

 そんな彼を見たアルフォンスは丁度いいかとしれないも、と思った。──〝()()〟の対象として。

 アルフォンスの瞳孔が細まり、金色の瞳がギラリと輝いた。


「あり得るでしょう? 襲撃時に身を隠していたモノがいるかもしれないと後処理に来る可能性もありますし。荒らし屋が来ないとも限らないじゃないですか」


 また襲撃がないとは限らない。取り零しを拾うために再度、奴らがやって来る可能性がある。

 それに……破落戸ならず達も。緘口令を引いたところで人の噂に戸は建てられない。いつしか王弟が亜人の隠れ里を襲撃した話は漏れ出るだろう。そうなれば金目の物が残っているかもしれないと、この地を荒らしに来る奴も出てくるはず。つまり、警戒するに越したことはないのだ。


「とにかくこれで終わりだと気を抜かないことです。警戒は続けるように。ここに残っているモノの殆どは、君の仲間達と君の妻が〝命懸け〟で守り抜いた命ばかりなのですから」

「……あぁ……そうだ、そうだ……!」


 妻のことを出せば、ジェットの顔色が変わる。彼の顔が憤怒と、憎悪に染まる。


「あの子達はアイヴィーが、仲間達が! 命をかけて守ったんだ……! また、傷つけられるようなことがあって堪るかっ……!」


 爆発するような感情の変化に、アルフォンスは笑った。

 …………どうやら、軽い〝()()〟は成功したらしいと。

 これならば本番も上手くいくだろう。


「それでは、色々と忙しいのでそろそろお暇します。また、後で」

「…………はい、また後日」


 アルフォンスに向けて、頭を下げていたジェットは気づかなかった。

 最後の竜がニンマリと、邪悪に笑っていたことに。


 気づいていたところで、憤怒の感情に染め上げられていた彼では……見逃してしまっていただろうけれど。



 ◇◇◇◇◇



 帰還の理由が理由だけに、彼らが帰ってきたことを知らされたのは一部の人のみ。

 コルネリウスはフィオナ達を王太子が暮らす宮殿──《蒼穹宮》で待機するように告げ……たった一人で国王が執務を行なっている《太陽宮》へと秘密裏に足を運んだ。

 ──つまり、王族だけが知る隠し通路を使って。



 ──トントン、トトントン。

 隠し通路から執務室の隣にある休憩室に出たコルネリウスは、変わったリズムで執務室に繋がる扉をノックする。

 それは所謂いわゆる、合図だった。秘密裏に王族の誰かが会いに来たのだと、執務室にいる王族に伝えるための。


『…………休憩する』


 ノック音に気づいた国王──ハインリッヒ・オールトン・レメインの声が聞こえた。

 コルネリウスが扉から離れると同時に、父が休憩室に入ってくる。

 ハインリッヒは避暑地にいるはずの息子がいることに驚いたように目を見開いたが……わざわざ秘密裏に現れたことに只ならぬ事態であることを察し、ソファに座るなり速やかに本題へと入った。


「どうしたのだ、コルネリウス。何が起きた」

「避暑地で、襲撃を受けました」

「…………何?」


 ハインリッヒの顔が険しくなる。

 避暑地であるメーユは王弟の膝下だ。そんな場所で襲撃を受けるなど、王族に喧嘩を売っているも当然である。


「被害は」

「ありません。ですが……犯人は既に分かっております」

「なんだと? 一体誰がそんな愚かなことを──」

「ケイトリンです」

「…………」

「我が婚約者であるケイトリン・マジェットが……刺客を雇い、我々を襲撃しました」


 本当は彼女の専属侍従が襲撃したのだが。それを打ち明けてしまうとアルバートが罪に問われてしまう。命令を拒否できない状況であったとはいえ、襲撃犯は紛うことなく彼なのだから。

 ゆえに、ケイトリンが雇った刺客によって──実際ただ雇っているので嘘ではない──襲撃を受けたということにした。


「……何故、だ。何故、ケイトリンが」


 ……とはいえ。ハインリッヒとしては信じられないことだったのだろう。

 息子の婚約者である公爵令嬢が刺客を雇ってまで、王太子を殺そうとしたのだから。どんな思惑があってそうしたのか、目的が分からない。

 ……下手をしたらマジェット公爵家自体を取り潰さなくてはいけなくなるかもしれない。

 だが、その目的は他ならぬ……息子から打ち明けられた。


「…………実のところ、真に襲撃を受けたのはわたしではなく。フィオナなのです」

「…………何?」


 その名を聞いた瞬間──ハインリッヒの顔色が変わる。


「その……わたしが、彼女と親しくしているため。王太子妃の地位を失うことになるかもしれないと、ケイトリンが危惧したがゆえに、彼女が独断で事を起こしたらしく……」

「……フィオナ嬢は無事か」

「…………はい?」

「フィオナ嬢は無事かと! 聞いているのだ!」

「っ!?」


 滅多に怒鳴らぬ国王の姿にコルネリウスはギョッとするが、慌てて「はい、無事です……!」と返答する。

 それを聞いたハインリッヒは大きく息を吐いて、ソファにもたれ掛かる。彼は頭痛を堪えるように眉間を揉むと……険しい顔で、困惑する息子を見つめた。


「フィオナ嬢は今どこに」

「我が《蒼穹宮》に……」

「……ならばこの後、お前とフィオナ嬢は《蒼穹宮》の()()()()()に移動せよ。お前達に会わせたい者がいる」

「!!」


 各宮殿にある〝第四応接室〟──そこは所謂いわゆる、存在しない応接室であった。

 国王の私室、休憩室を含む執務室の次に強力な結界が張られた場所。絶対に外に知られたくない秘密裏の会合を行うための、秘密の部屋。

 そこを使うということは、それほど重要なことである訳で……。


 コルネリウスは緊張から生唾を呑み込みながら、静々と頷くのだった。





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