イベント・避暑地での襲撃( I )
オドオド系攻略対象の名前を今まで出してたか、出してなかったかすっかりド忘れしました!
話数が多くて探すのも面倒くさいので!(←なんて駄目な著者なんでしょう……。自分で自分に呆れますわ……(遠い目))
もし、もう名前が出てるのに今回の名前が違うぞってなってたら、こそっと教えてくださると幸いです。(他力本願ごめんなさい)
よろしくどうぞ!
燦々と照りつける太陽。熱い砂浜、輝く海。
水着に着替えた王太子とそのお仲間達は楽しそうに、王族専用のプライベートビーチで遊んでいる。
なんて無防備なんだろうか。なんて浮かれているのだろうか。
警戒心なんて微塵もない。これでは襲ってくれと言っているようなモノじゃないか。
(…………まぁ。こちらにとっては都合がいいんだが)
フードを深く被る。本当は必要ないが分かりやすい刺客の目印として用意したナイフを握り締める。空間をズラして誰──主に他の人間ども──の邪魔を入らないようにしたら、準備は完了。
(さて。いくか)
彼は少し離れた浜辺に、姿を見せた。
向こうが不審者人物である自分に気づくまで待ち、動揺し始めたタイミングで攻撃を仕掛ける。
そこから先は作戦の通りに──……。
彼は手元に用意しておいた〝アレ〟を確認しながら、勢いよく走り出した。
◇◇◇◇
燦々と照りつける太陽。熱い砂浜、輝く海。
水着に着替えたコルネリウス達はその時ばかりは身分を忘れて、年相応の無邪気さで海遊びに興じていた。
「えいっ!」
「ぷはっ! ……やったな!?」
「ぎゃー!?」
「あははは!」
普段は一線を引いた態度を取るフィオナも、今日ばかりはいつにもない様子ではしゃいでいる。彼女の纏う薄紫色の水着が、その心も無防備にしてくれているのかもしれない。
コルネリウス、フィオナ、ファング、コドは波打ち際でバシャバシャと水を掛け合い……ビーチパラソルの下ではタンザと黒髪の内気そうな青年──ハリオ・ベート公爵令息が読書をしている。各々が思い思いの時間を過ごしていたが……ハリオが顔色を変えながら叫んだことで、事態は急変する。
「!? …………なんか、変!」
「? ハリオ?」
「変だよ、変!」
只ならぬ声をあげる彼の様子に、流石に警戒を抱いたのだろう。タンザが険しい顔をして、海で遊ぶコルネリウス達に声をかけようとする。
だが、それは少しだけ。行動が遅かった。
「!! タンザ!! ハリオ!! 後ろだっ!!」
砂浜の方を向いたファングが叫んだ。
言われた通りに、タンザ達が振り向けばそこには……晴天に似合わぬ、真っ黒なフードを深く被った不気味な男の姿。
「!? お前、何も──」
「遅い」
問いかける前に、距離が詰められた。
タンザが自衛訓練通りに、反撃の魔法を放とうとする。
…………が。いつも装備している魔道具に手をかけようとして、そこに魔道具がないことに気づき息を呑む。
(しまった──! 水着だからと魔道具を置いてきてっ──!)
「馬鹿め」
「カハッ!?」
タンザの身体が吹き飛び、数メートル離れた砂浜に叩きつけられる。
助けを呼ぶ暇もない。次の標的は当然のように──ハリオ。
しかし、彼は万が一を考えて予備の魔道具──首飾りタイプ──を装備していた。
「っ……! 《闇の使徒よ! 千切れぬ鎖で敵を拘束せよ!》」
ハリオが短縮詠唱を用いた闇魔法──闇の鎖で敵を拘束しようとする。
彼の足元の影から放たれる無数の鎖。常人ならば、その魔法に容易く捕まっていただろう。…………常人ならば。
だが、襲撃者は……普通じゃなかった。一枚も二枚も上手だった。
「甘い」
「!?」
加速。急に、敵の動きが目に負えないぐらい速くなる。魔法による身体強化だと分かっても、どうすることもできない。結果として、鎖が標的を追う速度が間に合わない。
それどころか……敵が手にしていたナイフが鎖の一部分を突くと、鎖が一気に霧散した。
ハリオは崩れていく魔法を見て、目を見開く。
(!?!? まさか……まさか! 魔法の脆弱部を突いて、魔法を破壊した!?)
魔法には強度がある。優れた魔法使いほど、強い魔法──破壊されにくい魔法を発動させられるが。弱い魔法使いはそれに見合った実力──魔法しか使えないので、他者から簡単に魔法を破壊されてしまう。
ハリオは年齢の割には優秀な魔法使いではあるが、それでも魔法の精度にムラがあることは否定できない。強い部分もあれば弱い部分もあるのだ。
それを敵は見抜いて、脆弱部位を攻撃して魔法を破壊した。
「二人目」
「ぐふっ!?」
敵の拳が鳩尾に撃ち込まれ、ハリオはその場に崩れ落ちた。
ゆらりと、コルネリウス達の方を向く敵。王太子達は息を呑む。
ほんの数十秒の間に二人、やられた。今まで、大人達に守られてきた子供達は……命の危険に晒される恐怖から、動けなくなってしまう。
「…………皆、後ろに」
しかし、コルネリウスとフィオナを庇うように、ファングが前に出た。拳を握り腕を持ち上げて、構える。
その目にはやはり、恐怖と困惑が滲んでいたが……殿下達を守ろうという意気が、ファングから放たれている。
「…………」
沈黙が流れる。
距離は充分あるが、敵の身体能力を考えるにこの間合いに意味はない。
ゆえに敵が動き出したら直ぐに反撃できるよう、警戒心を最大まで高める。殿下を守らなくては、騎士団長の息子としての沽券に関わる。
目的は分からなくても、この状況下で狙われるとしたら。標的は紛うことなくコルネリウスであろう。
だから、この場で何よりも優先するのは彼であるというのに。ファングはフィオナのことも共に守るような位置どりで、立ち向かっていた。
そしてその選択は──……正解で、あった。
「!!」
敵が一直線に走り出す。向かう先にいるのは──……王太子コルネリウス…………ではなく。
銀髪の少女、フィオナ。
「「「!?!?」」」
コルネリウス達が驚いたように目を見開いた。
しかし只一人、ファングだけは機敏に動く。
「はぁっ!!」
拳を振るった。だがそれは所詮、魔法による強化なしの、ただの正拳突きだ。
容易く躱されて、フィオナに凶刃が迫る。
「フィオナ!」
「! 駄目です、殿下!」
コルネリウスが庇おうとしたが、コドが無理やり抱きついて止めた。
先も言ったようにこの場で誰よりも守られるべきなのは王太子だ。彼に傷の一つでも負わせたら、この場にいる全員の責任となってしまう。それだけは避けなくてはならない。
…………逆を返せば、フィオナが傷つくことを、許容するということで。
「ヒッ……!」
彼女の口から小さな悲鳴が漏れた。
恐怖のあまり見ていられなかったのだろう。無防備にも、愚かにも。フィオナは敵を目の前にして、攻撃してくれと言わんばかりに目を閉じてしまう。
首元に振り抜かれた刃。
鋭い刃先が彼女の白い首を掻き斬る──……!
……。
…………。
………………。
──ぽたりっ……。
「…………?」
…………液体が落ちるような音がした。
襲ってくるはずの痛みがこないことに違和感を覚えたフィオナは、恐る恐る瞼を持ち上げる。
「……!?」
彼女の目に映ったのは……後数ミリでフィオナの首にナイフが触れそうなところを、自身の手で刃先を掴んで無理やり止めた敵の姿。
「…………貴方……何を、して……」
「……う、ぐ……っ……」
刃掴んだ敵の手から、血が滴り落ちる。フードから微かに覗く口元の直ぐ横を、透明な液体が伝っていく。
明らかに、様子が普通じゃない。本当にフィオナを殺すつもりであったなら、こんな風に自身を傷つけてまで止めようとするはずがない。
──ビュウゥウッ!!
そんな時──強い潮風が吹いた。まるで真実を明かすかのように。
ふわりと揺れ、外れたフード。露わになったその顔に……その首元に嵌った魔道具に、コルネリウス達は驚愕する。
目を疑いたくなるが見間違いなはずもない。
彼らを襲撃したのは紛うことなく。王太子コルネリウスの婚約者であるケイトリン・マジェット公爵令嬢の専属侍従である男──。
「…………アル、バート」
…………奴隷につけられる《隷属の首輪》を嵌められたアルバートが、苦しそうに涙を溢しながら……その場に、立っていた。