表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/83

幕間 悪いのは〝わたくし〟じゃない。全て全て〝お前〟の所為。


3日連続更新の3日目!

連投したので、明日の定期更新はお休みするかもしれません。更新されてたら島田が頑張ったんだなぁと心の中で思ってください。

よろしくどうぞ〜!


 




 その日も、ルルは古代エルフであるファールレーヌ──レーヌの元を訪れていた。

 彼女の家は、周りの雑音に煩わさせられないように居住区から離れた場所に家を構えており……防音の魔法を家に施していた。つまり、外の音が家の中に届かないようになっている。

 だから、助かった。レーヌの家が隠れ里の外れにあったおかげで、運良く襲撃を免れることができた。

 そのため、気づかなかったのだ。隠れ里が人間どもに襲撃されたことに。

 ルルがそれを知ったのは……人間達が撤収した後──変わり果てた隠れ里を目にした時。


 もう、全てが手遅れになった後のことであった──……。





 ──パチパチ、パチパチパチ……。

 火が爆ぜる音が響く。肉が焼けた臭いがする。

 崩れた建物。あちらこちらに火が燃え残り、黒い煙が空へと立ち上っていく。

 里に響くのは、悲しみにくれた嗚咽と啜り泣く声と……苦しみに満ちた呻き声。


「…………」


 ルルは変わり果てた隠れ里の姿に。容赦なく蹂躙された隠れ里の姿に、言葉を失くして立ち尽くす。


「一体、何が……」

「…………驚きますよねぇ、こんなの見ちゃったら」

「!?!?」


 声をかけられて、慌てて横を見る。

 そこにいたのは、金髪碧眼の少女。純血のエルフに負けないぐらいには綺麗な顔立ちをしていた。

 彼女はこちらに視線を向けぬまま、燃え盛る隠れ里を見つめる。……その目は、目の前の光景を見ているようで更に先を見ているようで。

 意味も分からずゾッとして、ルルは無意識の内に彼女から距離を取ろうと一歩後ずさっていた。


「こんなことになったのはね? マナトっていう猫獣人さんの所為なのですよ。

「!!」


 ルルは息を呑む。

 ──マナト。その名前には嫌というほど聞き覚えがあった。

 外の世界のことを教えて欲しいと、しつこく付き纏っていた猫獣人のことだ。


「お馬鹿さんですよねぇ。愚かにも彼は、そのまんまの姿で人間の街に行って、人間どもに捕まって。結果的に奴らを引き連れて帰って来てしまったのです」

「…………アイツ、が」

「はいです。でも、不思議ですよね? この隠れ里では外の世界はとぉ〜っても恐いんだよって教わるはずなのに。なんで獣人としての特徴を隠しもしないで外に飛び出したんでしょう? 貴女は、知ってるです?」


 そこで初めて、少女の視線がルルの方を向いた。

 全てを見透かすような、目。

 ルルはもう一歩、後ろに下がってしまう。

 しかし、その目は返事を望んでいた。黙ってやり過ごすことを許さなかった。

 それでも、素直に答えられるはずがない。マナトを適当にあしらって、〝自分の足で外の世界を見てくれば良い〟なんて言ったのが自分だなんて。明かせるはずがない。

 だってそれは……隠れ里がこんなことになったのにはルルにも原因があると認めてしまうことになるのだから……。


「分から……ない……。知らない、わ……。わたくし、は……何、も……」

「…………」


 気まずさに、後ろめたさに目を逸らす。

 そのまま沈黙が流れること数十秒。唐突に少女はにっこりと笑って、「それはそうですよねぇ!」と和かに告げた。


「だって、貴女が唆したって訳じゃないんですもん! 知らなくて当然ですよね!」

「…………」


 この少女は、本当は全てを知っているんじゃないだろうか?

 だから、こんなにも際どいことを言ってくるんじゃないだろうか?

 けれどそんな考えは、少女から告げられた次の言葉に霧散する。


「まぁ、あの猫さんが外の世界への興味を強めたのは竜様達がお外から来たからでしょうね! ほら……自分の気になるところから来たヒト達ですから、興味を引かれてしまうのは仕方ないという話です」

「…………竜」

「特に異界の竜──カルディア様は《界》を司るモノなので。隠れ里(閉じた世界)での暮らしに鬱憤を抱き、隠れ里の外(外の世界)に強い好奇心を抱いていた猫さんだからこそ、余計に感化されちゃった可能性がありますもんね〜」

「!!」


 ルルはそれを聞いて、衝撃を受けた。

 つまり、マナトがあれほど異様に外の世界のことを知りたがったのは。あの女型の竜の所為だというのか。


「……それ、本当?」

「はい? 何がです?」

「その竜に、感化されたって話よ」

「……あくまで可能性の話ですよ?」

「…………あの女が……あの女の、所為……」

(…………まぁ、そんなの。もうお前には関係ない話かもしれませんけどね)


 自分の世界に入ってブツブツと呟くルルは、いつの間にか少女が姿を消したことには気づかなかった。

 彼女の頭の中にあるのはあの、若葉色の竜のことだけ。

 愛しいアルフォンスを不当に従わせるカルディアが全て悪いのだと。そう全ての責任を押し付ける、気持ちだけ。


(…………わたくしがマナトに言うよりも、あの女が姿を現したことの方が先だったもの……。なら、()()()()()()()()()()()。悪いのは全て、あの女の所為……! やはり、あの女は害を成す女だったんだわ……! アルフォンス様のためにも、あの女を抹殺しなければ……!)


 ルルの中で、決意が固まる。あの女を殺すという覚悟が、決まる。


 …………これが、最後のピースだった。

 これこそが……《全知》の堕天使が選び抜いた、最良の道筋。



 この瞬間──純血のエルフが竜殺しへと至る未来が、確定した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ