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幕間 悪いのは〝僕〟だ。全部全部〝僕〟の所為。


同じタイミングの話になるので、3日連続更新にします!

本日は1日目! よろしくどうぞ!


 




 手首を拘束されたボロボロな亜人達が、一列に並んで歩いている。

 絶望に染まるモノ。涙を溢し続けるモノ。憎悪に満ちたモノ。そして……敵意を向けるモノ。

 肌を刺すような視線に晒されながら、マナトは領主コルティオの部下と共に馬に揺られる。

 きっと、最後まで裏切り者として利用するつもりなのだろう。こうして、ヒトリだけ優遇することで。裏切り者であるという印象を更に強めているのだろう。

 現に、捕まりながらも未だに敵愾心を抱く亜人達が向けてくる怒りは、徐々に増している。

 だが、それも当然だった。自分マナトは紛うことなく〝裏切り者〟だ。皆が怨むのも、当然だった。


(…………どうして、こんなことに……)


 マナトは静かに、後悔の涙を溢す──……。



 ◆◆◆◆



 強い衝撃から目覚めた時にはもう、マナトはジメジメとした薄暗い地下牢の中にいた。

 何がどうしてこうなったのか──? ここは一体どこなのか──?

 動揺する彼に、牢屋にやってきた人間は言う。


『まさか真昼間からあんな堂々と、それも王族のお膝元でもあるメーユに亜人が現れるなんて思いもしなかったぞ。お前、とんだ間抜けだな』


 どうやら、マナトは猫獣人としての特徴──耳と尻尾を明け透けにしたまま、人間の街に入ってしまっていたらしい。

 ルルがかけてくれた目眩しの魔法は、短時間で解けてしまうモノだったのだろう。そんなに直ぐ解けるものだとは思わなかったから、人間の街に入る前に魔法がかかったままかどうかなんて確認なんかしなかった。そんなことよりも、人間の街というものに対する好奇心が強過ぎて。自分の姿なんて、気にすることもなかった。

 だが、それこそが失敗。過ぎた好奇心によって、マナトはこうして人間に捕まり……領主館の地下にある牢に囚われてしまった。


『ま、こうして鴨がネギ背負ってやってきてくれたんだ。吐いてもらうぜ、情報をな』


 獰猛に笑う人間が手にしたのは……見たこともない多種多様な器具。けれど、臭いに敏感な猫獣人である彼はその器具にこびり付いた沢山の血の匂いに、気づいてしまった。理解してしまった。

 …………これから、自分の血もこの器具にこびり付くことになるのだと。



 分かったところでもう手遅れ。

 男からの容赦ない拷問に屈したマナトは、全ての情報を吐いてしまった。

 自分の出自。隠れ里という存在。そこで暮らす人々。どんな暮らしを送っているか、その場所がどのようにして外敵から守られているのか。ついこの間増えた住人達のことさえも全部、話してしまった。

 そして──……一番言ってはいけなかった、隠れ里がある場所も……暴露して、しまった。


『…………はぁ。まさかそんな近くにあるだなんて。灯台下暗しとはこのことかね』


 拷問器具についた血を拭き取り、片付けをする男が小さく呟く。

 その声にさえ、マナトは酷く怯えていた。牢屋の隅で、ボロボロと涙を溢しながら、壊れたように震えていた。

 それほどまでに凄まじい拷問だった。今までの人生で一番の、苦痛だった。

 爪と肉の間に針を刺されて、魔法で治されて。爪を剥がされて、治される。舌を千切られて、治されて。目と瞼の間に目打ちを打たれて、治された。傷つけられては治されて、千切られては治されて、火傷を負わされては治される。

 何より恐ろしかったのはその笑顔だ。拷問を受けて泣き叫ぶマナトを見て享楽の笑みを浮かべた、男。その姿が何よりも、怖かった。それが一番、マナトの精神に異常をきたした。

 今は治癒の魔法であらかた治ってはいるが……きっと、一生忘れることはできないだろう。目の前にいる男から与えられた、拷問の痛みは。

 だが、こんなことになったのも。こんな目に遭うのも。全部が全部、自身マナトの好奇心の所為なのだ。

 好奇心に負けて、いけないと言われていたのに外の世界に飛び出してしまった自分マナトの……自業自得。


『じゃあな。また聞きたいことがあったら()()()()()からよ。精々、元気でいろよ。亜人』


 ──ギィィィ、ガチャン。

 男が牢屋から出て行く。重い扉が閉められ、鍵がかけられる。

 薄暗い、黴臭いその場所に残されたのは……壊れかけた猫獣人。


 だが、本当の地獄は拷問これではなかったのだと……マナトは、これから知ることになる。



 ◆◆◆◆



「…………」


 目の裏に浮かんだ光景を見たくなくて、マナトはそっと瞼を持ち上げた。

 ……嫌でも、焼きついたしまった。故郷が燃えていくその光景が。

 捕えられていく仲間達。殺される仲間達。破壊されていく隠れ里。

 そして……焼き殺されたアイヴィーと、全てが灰になった里。


「っ……!」


 マナトの目から再び涙が溢れる。泣く資格なんてないと思いながらも、涙が止まらない。

 拷問の所為だなんて言い訳にならない。だって、好奇心に負けなかったら。隠れ里から飛び出さなければ。こんなことには、ならなかったのだから。


 この結末を招いたのは紛れもなく──自分マナト自身。


(悪いのは……僕。全部全部、僕の所為だ)


 後から悔やむから後悔という。



 マナトは、自分が永遠に背負い続けなくてはいけない罪を犯したのだと……後悔し続けた。





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