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狂った竜達は女神すら穢す。


前話に続き狂気マシマシ、マッドサイエンスで、びっくり状態です。

苦手な人はお逃げください。


 




 《渇愛の邪竜》ゼイスは……以前、ヒト(マキナ)を借りるために顔を出しに行った《破滅の邪竜》とその花嫁の長男である。

 得意なことは改造。いじくることに長けては、カルディアの知る限り彼以上の存在はいない。

 そんなゼイスもちょっと会わなかった内に、花嫁を娶っていたらしい。それも《破滅の邪竜》の系譜が物凄く好みそうな、尋常ではない壊れっぷりの花嫁を。


「ちなみに……君の花嫁ちゃんは無事なの? 取り込んじゃってたけど」

「うん?」


 暴れる検体を大人しくさせるために鎮静剤を打ち込んだゼイスは、意識を混濁させ始めた女神の様子を確認しながら答える。


「あぁ、全然大丈夫。リーシャを閉じ込めたのは《愛牢》──俺の花嫁を可愛がるための固有(閉じた)世界だ。今は()()()()で、()()めいいっぱい可愛がられてるよ」


 どうやら、あの真っ黒な世界は彼が作った、一種の《箱庭》のようだった。

 現実世界のゼイスの体内ナカに、小さな世界を作る。そして、そちらの世界に現実の花嫁を引き摺り込んで。閉じた世界の中にいるもう一人のゼイスが、彼女をどろんどろんに愛でているらしい。

 それを聞いたカルディアは思わず感心したように肩を竦める。


「うーん、流石は兄様の息子。相変わらずのイカれっぷりだね。さり気なく私が兄様に教えた《箱庭》を改造してるみたいだし」

「ははっ、気づいたか?」

「当然。私は《界》を司る竜だよ? 《界》に関わることにかけては自信あるよ」


 とはいえ、流石のカルディアも……《箱庭》を改造して、こんな使い方をするとは思ってもなかった。

 自分のナカに《箱庭》──ゼイスの言葉を借りるなら《愛牢》──を展開して、そこにもう一人の自分を作り出すとか。多分、自分の力を切り離して分身を作る術を応用してるんだろうけれど、それでも意味が分からない。

 …………が。意味分からないことをやるのが邪竜の系譜だ。つまり、考えるだけ無駄。


「それで? 改造は出来そう?」

「あぁ、問題ない。幸いなことにご注文の自己繁殖の機能を作るための素材は揃ってるからな。とはいえ可能であれば……この世界の竜を産む母体として最適化するために、この世界の竜の情報が欲しいところだけどな。血とか、体毛とか。まぁ、無理には──」

「いいよ〜。今、連れてくる」

「相変わらずの話の早さだな、おい」


 カルディアは《ゲート》を開き、痴呆のように固まるアルフォンスを女神の空間に引きずり込む。

 だが、そんな雑な扱いをされてもアルフォンスは今だに心ここに在らずのまま。

 どうやら女神の干渉による繋がりが影響しているらしい。女神の意識が落とされているからか、繋がっているアルフォンスも引きずられて……停止状態になっているようだった。


「ねぇ、ゼイス君。アル──……この竜への女神からの干渉も、解くことできる?」

「ちょっと待ってくれ。確認する」


 ゼイスは懐から二つ折りにした本のようなモノ──小型の電子辞書を思わせる魔道具──を取り出すと、パカリと開く。側面の部品を弄って紐状のモノ(コード)を伸ばすと、先端のカバーを外して、針状の部品をブスッと女神の腕に刺す。

 すると、魔道具の内側の画面に色々な文字や画像が表示される。画面を指先で弄って色々と確認をしたゼイスは問題ないと答えるように、カルディアに頷いた。


「うん、大丈夫だ。俺でも問題なく解ける。というか先にとっとと解除しておいた方がいい。じゃないと、改造の影響が干渉のために繋がってる接続回線コネクトを通って、そいつにまで派生する」


 ……実のところ。アルフォンスと眷属契約をしているカルディアにも、多少の影響──探知の鈍化など──が出ていたようだが。

 それを言ったら彼女は怒りのあまり世界をぶっ壊してしまいそう──世界を壊されるのは結構面倒なのだ。《破滅》を司るゼイスの父の仕事が増えて、母親とイチャつく時間が短くなると機嫌が悪くなるので──なので、敢えて黙っておくことにする。黙って、カルディアへの影響も解除しておく。


「へぇ〜……。そこまで分かるんだ、それ?」

「あぁ。なんせこれは、俺とリーシャの力作……特製品だからな。色々と仕込んでるから、結構自信作なんだ」

「へ〜そうなんだ〜? …………(スッ)」


 …………画面を後ろから覗き込んだカルディアは、そっと目を逸らした。

 決して、画面の隅にちょっと彼の花嫁のアレな姿が映っていたからではない。違うったら違う。


「完了。そいつへの干渉状態は完全に解除したぞ。ついでだから今後、その竜へ回線コネクトを開けないように回路閉鎖プロテクトもしておいた。当然、その他諸々への干渉もできないようにな」

「わ〜! 流石ゼイス君! しごでき〜」

「後はその竜をぶっ叩けば再起動す(起き)る……はず」

「りょーかーい」


 ──スパゴォンッ!!


「ふぎゃっ!?」


 カルディアは勢いよく、容赦なくその頭をぶっ叩く。

 地面に頭をめり込ませたアルフォンスは慌てて頭を引っ張り出して、辺りをキョロキョロと見渡す。

 そして主人の姿に気づくと……呆然とした顔で、彼女の名前を呼んだ。


「カル、ディア……様……?」

「やぁ、アル? 状況は分かってる?」

「…………?? あ、れ……? 俺ら……温泉に、向かって……?」

「おっと〜? なんかすっごい記憶が失くなっちゃってるぞ〜?」

「????」


 困惑するアルフォンスを尻目に、考え込むゼイスの方を見る。

 彼は「うーん……」と顎を撫でながら、アルフォンスをマジマジと観察した。


「干渉をかけた本人が自主的に解除した訳ではなく……第三者である俺が接続解除をしたから不具合が出たのかもな。その温泉(?)に入った時辺りからコレからの干渉が強くなったからで、そこから記憶が飛んだとか。まぁ、そういうこともある」

「雑ぅ〜」

「取り敢えず血液もらうぞ」

「痛っ!?!?」


 ゼイスがどこからか取り出した注射器を腕にブッ刺して、アルフォンスから血液を採取する。刺されたホンニンは意味が分からな過ぎて絶句していたが……説明してくれそうにない主人達を見て、仕方なく黙っておくことにした。


「こんなもんか」


 ゼイスはアルフォンスの血がたっぷりと入った試験管を上下に軽く振った後、蓋の部分に特殊な針部品パーツを取り付けて、コードとは反対の側面に差し込む。すると、試験管から血液が流れ込んでいき……画面に様々な情報が表示され始めた。


「…………おっと〜? ゼイス君……まさかそれ、遺伝子解析しちゃってる?」

「? あぁ。してるが?」

「うわぁ……。そんなちっさいのに技術過剰オーバーテクノロジー、詰め込みまくってるとか……。いっそ変態の域に達してるねぇ……」

「失礼な。使わなくてもやろうと思えばできるが、使うと便利ラクなんだぞ、これ」


 面白いこと・モノが大好き竜なカルディアだが、流石にここまで制限セーブなしのとんでもない魔道具を見せられると……逆に引く。

 だが、この邪竜は加減を(セーブ)するという言葉を知らない。彼の自作した魔道具の本領を発揮したのは、この後直ぐのことだった。


「……と。そんな話をしている間に、この世界の竜の情報解析が完了したな。ほぅ……この世界の竜は《方舟はこぶね》なんだな」

「? 何それ」

「ん? あぁ……どっかの世界の話を借りて、俺が勝手にそう呼んでるだけなんだが。言うなれば……この世界の遺伝子情報の保管庫??」

「より説明が分かりづらくなってない??」


 ゼイス曰く。

 《方舟》というのは、その体内にあらゆる種族の遺伝子情報を保存──なお、保存方法は各々違う。血液や肉体に遺伝子が刻まれていたり、魂や精神に霊的情報として刻まれているらしい──している存在のことを示すらしい。


「ちなみに……《方舟》が遺伝子を保有してる理由も様々だ。その種族が滅んでも後々にその種族を甦らせるためだったり。あらゆる種族の遺伝子情報を保有させることでその種族を支配下に置けるようにするためだったりと。今回の場合は……後者っぽいな。竜という種ではあるが、遺伝子情報を持っている以上、その保有する情報の種族でもある。…………その効果こころは?」

「…………成る程ねぇ。上位存在へ服従かぁ」

「そのとーり」


 よくある話だ。狼で例えると分かりやすいかもしれない。

 狼は群れの中で一番強い雄がリーダーとなり、弱いヤツほど下っ端扱いになる。弱肉強食、弱者は強者に従うしかない。所謂いわゆる、ヒエラルキーである。

 この世界はそれを利用していたのだろう。アルフォンスは紛れもなく竜であるが、狼でもある。他の亜人でもある。だから、亜人達は強者たるアルフォンスに従う──……。

 これが、女神が言っていた〝竜は亜人達を導くモノでえる〟という言葉の、正体なのだろう。紛うことなく、竜は亜人達を導く主導者リーダーであったという訳だ。


 …………ほんの少しの歯車が、狂うまでは。


「とまぁ、そんなどうでもいい話は置いといて。取り敢えず、これで竜の生態は分かった。遺伝子情報これを真似て、女神の根源(ベース)を竜に変換してっと……」


 ──パキパキパキパキッ……。

 皮膚に真っ白な鱗が浮き、こめかみ辺りにも白い角が生えた。当然、変化はそれだけでは止まらない。

 ゼイスが魔道具を操るたびに女神の姿が変わっていく。

 普通ならばもっと時間も、力も必要だというのに。容易く、改造されていく。


「まずは自己複製で繁殖する悪魔の要素エッセンスを追加。ただ自己複製だけだと遺伝子が劣化していくから……そうだな……。他の遺伝子を保有してるという竜の特性を利用して、不定期ランダムに亜人の遺伝子を純化させて取り込むことで遺伝子の劣化を防ぐ機能システムを構築しておくか」


 それはあのディアナの舞姫シェヘラこと──《悪魔フェイク》の本来持つ能力だった。

 自己複製で子を作る《悪魔フェイク》は、遺伝子の劣化を防ぐために外部から新たな遺伝子を取り入れるが……今回は多種多様な亜人の遺伝子を保有しているこの世界の竜の特性を利用して、上手く調整してくれるようだ。


「ついでに生殖機能を強化するために自己愛強めの淫魔の要素エッセンスも入れといて……。自分のことが一番好きなら、自分ヒトリで子を成すのも積極的になるだろ」


 女神の胸元と臀部が女性らしい膨らみを得た。まさに安産体型だ。

 淫魔は誰も彼も色っぽい身体つきをしているため、淫魔の要素が追加されれば、この様に変化するのも当然であった。


「…………全体の要素割合パーセンテージはこんな感じで……。うん、こんなもんだろ、多分」

「終わったの?」

「いや、最後に機能確認をして終わりだ。制度システム起動──《竜産みの女神》」


 ──ポゥゥ……。

 女神の身体に黒い紋章が浮かぶ。

 全体が白いからか……その紋章は酷く禍々しく、感じられた。


「第一段階、妊娠。……異常なし。第二段階、発育。異常なし。今回は特例につき発育過程加速っと」


 女神の腹が大きく膨れ始めた。

 それは直ぐに、臨月間近の妊婦同然となる。


「第三段階、出産。…………異常検知。何々……? あぁ、充分育ってるのに胎から()を押し出す動きが起きてないのか。確か陣痛はホルモンが影響してるから……その量を調整すれば……。──再始動」

「ぐぅ、ぅぅぅぅっ……!」


 女神が苦しみ出す。意識は戻らぬまま、腹を抱えて呻き声をあげる。

 けれど、それは直ぐに終わる。

 ──パシャッ……!

 女神の衣服──股の間から羊水が溢れた。その後メキメキと音がして、血と共に小さな真っ白な卵が転がり出る。


「うぐぅぅぅぅぅぅう……!」

「おぉ、立派な卵。姉ちゃん、そっちは任せた」

「はいはい」


 カルディアは卵を手に取り、状態を確認した。

 どうやら特殊な産まれではあるが、間違いなく竜として産まれ落ちているようだ。

 これで、この世界の竜を増やさなくてはいけないという問題は解決した。


「出産後の母体は……ふむ。胎児として産むよりは遥かに負担が少ないはずなんだが、それでも損傷が激しいな。竜としての機能を必要最低限にして、出産と自己回復に特化させるか」

こっちは問題ないよ、ゼイス君」

「そうか。…………よし、こっちも終わったぞ。完成だ」


 そう言ったゼイスは、変わり果てた女神を見て満足げに微笑んだ。

 凹凸のなかった身体には、母の温もりを思わせるような曲線が描かれるようになり。両手両足には鱗が生じていた。こめかみから生えた捻れた竜角。尻尾と翼はとても小さく……一応竜ではあるのだろうが、どうにも竜らしくないなと。カルディアは思わずにはいられなかった。


再起動させる(起こす)ぞ」


 ゼイスが魔道具を操って、コードを女神の腕から抜く。

 それから数秒後──ぴくりと、彼女の瞼が震える。


「う、ぁ……」


 ゆっくりと開かれた瞳。

 後天的な竜だから、この世界の由来だからか。その瞳は金色ではなかったけれど……それでも紛うことない、竜の瞳。

 カルディアは卵を抱えながら、器用にパチパチと拍手を送った。


「おめでと〜、女神様。これで無理やり私達を番わせて竜を増やそうとしなくても良くなったよ。お前ヒトリで竜を産めるからね!」

「…………何、を……? あ…………?」


 女神は大きく目を見開いて固まる。

 自身の視界に映るのは、ほんの少し前の自分とは丸っ切り違う、異形の姿。


「な、な……何が!? わたくしに、何が起きたの!?」

「だから、竜を増やしたいみたいだからお前ヒトリで竜を増やせるようにしてやったんだって。実際にやったのはゼイス君だけど。何はともあれ嬉しいでしょ?」

「こんな……こんな! わたくしのっ……女性の尊厳を貶めるような行為を! なんだと思っているの!」

「あははは! 忘れたの? お前が言ったんじゃん、私達のことを。狂った竜だって。私達には倫理観も道徳心も持ち合わせてない最低最悪、生きた災厄。壊れた竜。だから容赦なく。お前だけじゃなくて凡ゆる生命の尊厳を貶められるんだよぉ」

「っ……!! っっっ……!!」


 獰猛に笑うカルディアの言葉に、女神は反論の言葉を失う。目の前にいる龍には、何を言っても無駄だと、理解したからだ。

 そんな女神を観察していたゼイスは、もう一度満足そうに頷く。


「うん。覚醒後の言動とかにも異常はなさそうだな。これで完全に確認作業も終了だ」

「お疲れ様。ありがとね、ゼイス君」

「いや。こっちも久しぶりに思いっきり改造して(遊べて)楽しかったさ。…………では、そろそろお暇させてもらう。いい加減、俺の花嫁を可愛がるのに専念したいしな」

「おっと。それなら直ぐ帰んなきゃだね。ほんと〜にありがとね! また力を貸して欲しい時は声かけるから、その時はよろしく!」

「ははは。楽しみにしてるぜ」


 カルディアが《渡界門ゲート》を開くと、ゼイスは「じゃあな」と一言残して元の世界に帰っていく。本当に、呆気なく。後腐れなく。

 残されたのは卵を抱えたカルディアと竜に改造された女神、そして今だに状況を把握できていないアルフォンスの三人。

 流石にこれ以上は何が起きたか聞かないとついていけないと判断したアルフォンスは恐る恐るといった様子で、主人へと声をかけた。


「あの……カルディア様」

「なぁに?」

「一体、何が?」

「この世界の女神がアルを操って亜人達に下剋上させようとしたり、アルの好意を歪ませて私を胎にして竜を増やそうとしたりしたんだよ」

「…………。…………は!?!?」

「んで。女神からのアルの干渉を解いたら、その副作用でアルの記憶が飛んじゃったみたい。どんまい」

「……………」


 アルフォンスも絶句してしまう。

 彼に残っている最後の記憶は温泉に入ってアイスを食べたところなのだから、こんな意味が分からない真っ白な空間にいる時点で紛うことなく。記憶が飛んだというのは確かなことなのだろう。

 だがそれがこの世界の女神が原因とか。女神が色々としていたとか。想像の遥か上をいき過ぎていた。


「ちなみにさ? アルはなんで亜人達を隠れ里に預けたの?」

「……? それは勿論、彼らを保護するための《箱庭》の維持が面倒だったからというのと。…………詳細を詰めていた訳ではないのですが」

「うんうん」

「元奴隷の亜人達が足枷になって、隠れ里の場所とかバレて襲撃されないかなぁなんて思ったりしました」

「へぇ〜。その心は?」

「襲撃されてある程度()()()、安穏と暮らしてる彼らも人間に怨みを抱くでしょう? そうしたらわたしの駒として都合よく動いてくれるようになるかな……と。……やっぱり見通しが甘いですかね?」

「…………ふふっ。ふふふふふっ」


 ……カルディアは笑う。楽しそうに、嬉しそうに。

 彼女は愛し子の言葉を聞いて絶望の涙を溢す女神に向かって卵を放り投げる──その程度では、竜の卵は割れない──と……アルフォンスに抱きついて、思いっきり頭をわしゃわしゃと掻き回してやった。


「!?!? ちょ、カルディア様!?」

「あははははっ! いいこ! それでこそ私達が育てたアルフォンスだよ! …………お帰り、アル」

「…………」


 心底、嬉しそうな声に。どこか安堵したような声に。アルフォンスは理解する。

 どうやら、唯我独尊が似合うような主人の気を、ほどほどに揉ませてしまったようだと。迷惑をかけてしまったようだと。

 アルフォンスは無意識に抱き返す腕に力を込めながら、神妙な声音で返事をする。


「…………ただいま帰りました、カルディア様。ご迷惑をおかけしました」

「んふふ〜……いーよ。許してあげる。今回はアル、何も悪くないからねぇ」

「…………ありがとうございます」


 そう言ってくっつき合う竜達は、側から見ると……まるで〝番〟のように親しそうで。女神は自身の干渉がない方が仲睦まじそうな竜達の姿に、愕然とせざるを得なかった。

 しかし、気まぐれな竜は直ぐに話を変える。


「うん! とゆー訳で帰ろっか! もう用事は済んだし!」


 その言葉を聞いた女神はハッとして、慌ててカルディアに叫び縋った。


「…………っ! ちょ、ちょっとお待ちなさい! わたくしを! 元に戻して!」

「え? なんで」

「なんで!?」

「そう、なんで。だって、その姿になったからお前の望み──竜の繁殖は果たされるようになったんだよ? 何が不満なの?」


 そう言われると反論しにくい。

 アルフォンスの意識を歪めてでも竜を増やそうとした身だ。けれど、もうそんなことをしなくても竜を増やせるとなれば……確かに、不満を持つ方が変なのかもしれない。

 しかし──……。


「で、でも……でもでもでも! わたくしは! こんな姿に! こんな醜い姿に!」

「…………あは〜。それが()()か」

「っ!!」


 女神は息を呑む。

 冷ややかな目を向ける竜達の視線に耐え切れなくて。慌てて、目を逸らす。


「あのさ。普通、私達を見たら分かると思うんだけど。竜としての特徴はしまえるからね? 見た目、人型と変わらなくできるからね?」

「………………ぁ」

「愛し子だぁなんだ言ってるけど。アルを歪めてまで竜を増やそうとしてだけど。やっぱりお前には、そんな資格ないよ」

「…………!!」


 きっとその言葉が、最後のトドメ。

 女神はそのまま、動けなくなってしまう。


「身体の性能は自然に分かるように調整してくれてるだろーから、お前はヒトリで竜を増やし続けてればいいよ。世界を守る女神らしくね? それじゃあね! 頑張って〜!」


 カルディア達は《ゲート》を潜って、女神の空間から姿を消す。

 あの場所にヒトリ残された女神がどうなろうが、気にすることもないまま。

 あの、地獄のような状態になった隠れ里へと……戻ってくる。


「これ、は……」


 記憶を失くしたアルフォンスは、二度目の光景に目を見開いていた。

 だが、その様子には一度目ほどの動揺はない。それどころか、生き残った住人達の怨嗟の声を聞いて薄らと笑っているぐらいで。

 …………眷属のその姿を見たカルディアは心底楽しそうに、彼に話しかけた。


「さぁ、アル? 現状はある程度、アルが望んだ通りになっているよ? 記憶が失くなっちゃってるから少ぉ〜し大変かもしれないけどね? 私のこと、楽しませてくれる?」

「…………えぇ、勿論」


 アルフォンスはにっこりと笑う。

 最初の頃のように。異界の竜譲りの狂気を滲ませながら。


「お任せください、カルディア様。きっと貴女を楽しませてみせますよ」



 停滞(遠回り)していた復讐計画は、ここから一気に加速する。






下手っぴでしたが、舞姫編の(本当の)伏線が回収できました〜。

(※人も悪魔も異世界からきたくだりと、自己複製をする《悪魔》の能力)

ちょっと満足です!(笑)


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