異界の竜の狂気は、止まるところを知らず。
【注意】
同シリーズ他作品のキャラが出てきます。なので、ちょっと分かりづらいかもしれません!※キャラの説明は次話の予定。
そして、特殊プレイ(!?)になります! 多分グロ……。
自分でもなんでこうなったか分からない……。プロットの段階じゃこうなるはずじゃなかったのに……。書き終えてから頭を抱えちゃったよ、おい……。
ついでに言うと、唐突な狂気度アップ。狂気マシマシです。
これには島田もビックリ。こちらもプロット時にはなかったからな……!
えっと……とにもかくにも!! 苦手な人はお逃げください!
よろしくどうぞ!
「…………ふぅん。そーゆーことね」
女神の記憶を漁り、全てを識ったカルディアは……侮蔑と、怒りの視線を女神に向けていた。
カルディア達の教育を受けたはずのアルフォンスが甘ちゃんになったのはやはり、この女神の干渉──女神の思想が原因だったのだ。
もしも。もしもこの女神からの干渉がなかったら。復讐計画はもっと早く終わっていたはずだ。亜人達を巻き込むなんて面倒なことをしなかったはずだ。彼らを守るなんて甘い計画にならなかったはずだ。
なのに、この女神の所為で……復讐計画は過保護に守られた亜人達による、人間どもから主導権を取り戻すための戦いへと変えられかけていたのだ。
そんなの──。
「全然、面白くないよね」
カルディアは無表情のまま呟く。
竜によって絶対に傷つかないように守られた亜人達が頑張って、下剋上する? 本来の在り様を取り戻す?
そんなの、全然面白くない。全然唆られない。
干渉される前のアルフォンスだったら、カルディア達の薫陶を受けて、もっともっと血で血を洗うような苛烈で、凄惨な、面白い復讐を計画してくれたであろうに。随分とつまらない路線へと、修正しようとしてくれたものだ。
とはいえ……女神の思惑は既に途絶えたと言っても過言ではないだろう。
だって、こうしてカルディアが気づいたのだから。最後の竜に干渉してつまらないことをやろうとした女神を捕らえたのだから。
最後の竜の復讐計画は……カルディア達の望むカタチへと、戻ることになる。
「…………とにもかくにも。アルへの干渉は止めてもらおうか? だって、タニンの意思を無理やり歪めるとか……神様だってやっちゃいけないことだからね。人権侵害ならぬ竜権侵害だよ?」
「…………っ! お前が! それを言うの!」
「やっだ。逆ギレ? 禿げるよ、女神様」
「黙れ!! お前の教育も! わたくしの竜を歪めたようなモノでしょうに! どの口がそんなことを言うの! 狂った異界の竜め!」
確かに、カルディア達の教育もアルフォンスを歪めているだろう。〝この世界の竜としての在り様〟ではなく、〝カルディアの世界の竜としての在り様〟を教え込んだのだから。
だが、先も言ったように……アルフォンスが殺されそうになっていたところを助けたのはカルディアだ。死にそうなところを救い上げたのは異界の竜だ。彼の生殺与奪権は、カルディアにあると言っても過言ではない。
それに……好奇心ありきとはいえ、彼には生きるための術を与えてやったに過ぎない。その教え方が間違っていたのだと言われても、そうやって生きてきたのだから他の教え方などしようがないじゃないか。
「だからね? 何度も言うけど、お前が文句言う権利はないんじゃないかな? アルを自分の都合良く育てらんなかったのはあの時、お前がアルを助けなかったからなんだし。私より先にアルを助けらんなかった女神が悪いよ」
「っ……!!」
そう、カルディアが嘲りながら告げると。女神は憎悪のこもった目で、こちらを見上げてくる。
そして、ギリギリと歯を噛み締めたかと思うと……見事なまでの自爆を、竜の逆鱗に触れてみせるのだった。
「お前ぇぇ……! この世界にいる竜が愛し子と、お前しかいない所為でお前を選ぶしかなかったとはいえ……! お前以外の選択肢があれば絶対に……! あの子の仔を産むための胎になど、お前を選ばなかったものなのにっ……!」
「………………は?」
「こんなモノが……! あの子の苗床だなんて! なんてっ……なんて最悪なの!」
「ねぇ、ちょっと待ってよ」
カルディアの、冷たい声が響いた。
聞き捨てならない言葉に、台詞に、彼女は何度目か分からない無表情になる。
「今、なんて言ったの? 私が、アルの仔を産むための胎だって?」
「えぇ、そ──」
「なんで、そんなことになってんの? 一から説明して」
「っ……!?」
カルディアの、竜の威圧に気圧されて。女神はそこでやっと、自分がとんでもないことをしたのかもしれないと悟る。
「早く。説明、して」
女神は声を震わせながら告げた。
この世界において、竜とは女神の補佐役であることを。世界を繋ぎ止める、世界を維持するための楔であること。
そんな竜が、アルフォンスただヒトリだけになってしまっている現状──彼が死んでしまえば、世界はどうやったって終わってしまう。
だから、竜を増やすしかなかった。
そのためには、アルフォンスの仔を産む胎が必要だ。都合が良いことに異界生まれとはいえ、竜がいた。──カルディアだ。
だから女神は世界のために……アルフォンスの本能が、カルディアに向くように調整した。
「………………」
それを聞き終えたカルディアは、完全に黙った。
独特な雰囲気を放ちながら、薄らと笑っている。その不気味さは今までの比ではないくらいに、恐ろしい。
だが、それも当然だろう。なんせ女神は……素晴らしいぐらいに。カルディアの地雷を容赦なく、踏み抜いてみせたのだから。彼女が本気でブチギレるのも当然の話であった。
「お前さぁ……そこまでアルのこと歪めてたの?」
「!?」
女神の動きが不自然に止まる。
カルディアはそこに、追い打ちをかける。
「世界を守る女神としては正しいかもしれないけどさ。でも、アル自身の尊厳はなぁんにもないんだね? アルは自覚がないまま、知らないまま。ホンニンの許しもなく。アルフォンスっていう竜はお前の、自分の思い通りになる人形にしても構わない存在なんだ? 愛し子なんて言っておきながらさ?」
「っっっ……!!」
そう言われて、やっと気づいたのだろう。自分がしたことの非道さを。
彼の意思を無視して、自分の都合が良くなるように歪めて、調整して。それは紛うことなく、アルフォンスの尊厳を貶める行為だった。アルフォンスをアルフォンスでは失くす行為だった。自分ために、動かし易いお人形を作る行為だった。
それを、自身が愛おしむ子供に、してしまった。
女神の補佐役とはいえ身守るべき命、慈しむべき命には変わらないというのに。本来のアルフォンスから、歪めてしまった。他ならぬ、女神自身が。
「…………」
女神はやっとそれに気づいて。顔面蒼白となり、言葉を失くす。
「それ以前に。これが一番、許せないんだけど」
しかし、カルディアが本気でキレているのはそれじゃない。
「私、自分よりも弱い奴に、私の意思を無視して面白くないことを強制されんのが……だぁぁぁぁぁぁいっきらいなんだよねぇ〜。そ・れ・も! 二回目とか! どんだけこの世界の奴は繁殖させんのがお好きなんですかねぇ!?」
そう……カルディアが一番受け入れられないのはそこだ。
愚かにもこの女神は、あの隠れ里の代表であるジェットと同じようなことをしたのだ。
他人からカルディア好奇心が唆られないことを、強制されること。それも、自分よりも弱い奴に。
それはカルディアが何よりも嫌うこと──地雷だ。
「まだ、アル自身が自分の意思で私を伴侶にしようとするなら面白いと思ったよ? でも、アルの意思に少しでも他人の介入があったとなっちゃあ……面白くもなんともなくなるに決まってるよね? 不快でしかないよね?」
カルディアは面白いことが好きだ。好奇心で生きている。
だから、身の程知らずにもアルフォンスが自分を伴侶として求めてきたら……きっと直ぐにその愚かさを思い知らせてやったであろうけれど。それでも彼が諦めなければ。最後にはこの身を与えてやるのも悪くないと、そう判断する可能性も少なくない程度にはカルディアらアルフォンスという存在を面白がっていた。気にかけてやっていた。それなりの情を移していた。
しかし、今の彼では駄目だ。今のアルフォンスはこの女神の意思で動いているのだから、アルフォンスだけの意思で行動している訳ではない。竜を増やすために、感情を強制されているも同然だ。
ゆえにカルディアの好奇心に、刺さらない。
「なぁんでどいつもこいつも自分の都合を私に押し付けて。私が望まないことを強要しようとするかなぁ? 本当、ムカつく」
隠れ里のために竜の血を取り入れたかったジェット。
世界のために竜を増やしたかった女神。
目的があったとはいえ、それを異界の竜にまで押し付けるのは……間違っている。
だから──。
「…………うんうん、そうだよね。そうだよねぇ? お前の世界のことを私に押し付けるのは間違ってる。他を犠牲にするのは間違ってる。なら、お前自身が責任を持って、果たせばいいんじゃないかな?」
狂った竜は薄らと笑った。
その瞳に狂気を滲ませて。創造主譲りの異常性を発揮させて、笑顔を浮かべた。
「お前達がそんなに竜を増やしたいって言うなら……お手伝いしてあげるよ。丁度、いい知り合いがいるからさ。きっと嬉々として、お前の願いを叶えてくれるよ〜?」
──ぞわりっ……!!
女神の背筋に悪寒が走る。目の前にいる竜に、言いようのない恐怖を覚える。
漠然と。何か、何か致命的な失敗を犯してしまったと思った。
きっとそれは……女神としての本能が、感じ取った真実。
「《渡界門:開放》」
『…………んぁ?」
真っ白な空間に、空間の歪みが生じた。あり得ないことに、異なる世界と繋がってしまった。
歪みの向こうにあったのは……必要最低限の家具しか置かれていない、質素な部屋。そこにいたのはその部屋唯一のソファで睦み合う、美しい男女。
右側の一部だけが蒼銀色に染まった、漆黒の髪を持つ男がギロリッと金色の瞳をこちらに向けていた。
夜空を思わせるような黒髪を持った、血色の渦が浮かんだ黒曜石のような瞳を向ける少女が、部外者への殺意を滲ませていた。
美しいのに禍々しい、そんな男女。女神は恐怖のあまりその場でガクガクと声なく震えていたが……同胞たるカルディアは動じることなく。それどころか軽い調子で彼らへと声をかけるのだった。
「やっほー。ゼイス君、ちょっと協力してくれない?」
「…………久しぶりに会っての第一声がそれかよ、カルディア姉ちゃん」
「…………は? 何? どういうこと? ゼイス、この女のヒトと知り合いなの? 私、そんなの知らないよ?」
「おっとヤバい。リーシャに説明するの忘れてた」
──ブワリッ!!
青年と抱き合っていた少女の身体から漆黒の粒子が溢れ出す。瞳の奥で渦巻く血色が、どんどんどんどん、ドス黒くなっていく。
「私とゼイスの時間を邪魔するなんてゆるせないユルセナイ許せない許せないゆるせないユルセナイ許せないゆるせないユルセナイ許せない赦さないゆるせないユルセナイ許せないユルセナイ許せない。私のゼイスと親しいなんて許さないゆるさない赦さない許さないゆるさないユルサナイ許さないゆるさない赦さない許さないゆるさないユルサナイ赦さない許さないゆるさないユルサナイ許さないゆるさないユルサナイ。────殺すね?」
「!!」
意識せずに、ほぼ反射的に手を竜化させて振るったカルディア。
──ギャインッッッ!!
金属と金属が擦れるような音がした。
カルディアはこんな時だというのに思わず笑ってしまう。
後数秒。コンマ一秒でも遅かったら。少女の背に集まった黒い粒子──宛ら蜘蛛の脚のようだった──による攻撃を防げなかっただろう。きっと、手遅れだった。
だが、そんなのどうでもいい。
「ふはっ!? 何この子! 竜相手に容赦なく殺しにかかるとか! 面白過ぎるよ!?」
カルディアは少女からの猛攻を防ぎながら、ケラケラと笑った。
想定外過ぎる展開に、興奮と好奇心が爆上がりだ。
「煩い。死んで?」
それが不快だったのだろう。少女の殺意が増した。猛攻が更に激しくなった。
お淑やかそうな見た目に反したそのギャップが、益々カルディアのツボに刺さる。
「ごめんね! 流石に死なないかなぁ! まだ好奇心を満たし切ってないし! という訳でゼイスくーん! うっとりしてないで止めてくれるかなぁ!? この子のこと!!」
「私のゼイスに話しかけないで! 死んで!」
「あはははは! また! 殺意が増すの!? もうやだこの子、サイコーッ!」
爛々と、金色の瞳が輝いた。カルディアの肌に浮かぶ鱗の面積が一気に増えた。
《渡界の界竜》の纏う雰囲気が変わる。少女の殺意に呼応するように、残虐な竜の本能が騒ぎ出す。
「おっと……そこまでだ、リーシャ。それ以上はリーシャが危ない」
だが、流石に本気になられたら困ると判断したのだろう。二人の殺し合いに割り込むように、制止する声がかけられた。
──ピタリッ。
少女の身体が止まった。向こうが止まったとなればカルディアも止まらざるを得ない。
「…………なんで。止めるの、ゼイス」
無防備にも、今まで殺そうとしていたカルディアに背を向けた少女は、胡乱な目で青年を見つめていた。狂気と嫉妬と、疑いを込めた目で。
けれど、そんな恐ろしい視線を向けられながらも。美しい青年は相変わらずのうっとり顔。
それどころか頬を赤く染めながら……愛おしむように少女の身体を抱きしめて、その頬に口づけを送った。
「そりゃあ止めるさ。あのヒトは邪竜の系譜たる俺でも敵わぬ数少ない上位の竜だ。じい様が造った特別製、だからな。嫉妬からあのヒトを殺そうとするリーシャは本当に本当に愛らしいが……あのまま好奇心を刺激し続けたら、〝つい〟で殺されるのはリーシャの方だ。俺の大切な花嫁が殺されると分かっている以上、止めないはずがないだろう?」
「…………むぅ」
「それと……お前の嫉妬は無意味なモノだよ。俺は絶対にリーシャだけを愛しているし、リーシャ以外を愛するつもりもない。それを俺は、お前に嫌というほど伝えたつもりだったんだが……まだまだ伝え切れていないみたいだな? 俺の愛が、足りなかったんだな?」
「…………!」
青年の瞳がドロリと蕩ける。
それと同時に彼の胴体もパクリと真っ二つに開いて。本来ならばあるべき臓器がない青年の真っ黒な体内から……何本もの触手が、這い出てきた。
「…………あっ♥」
その触手達は少女の身体に巻きついて、彼女を青年の体内へと引きずり込む。
「ちょっと俺の〝ナカ〟で、愛し合おうか。リーシャ」
「…………うん♥」
うっとりと、恍惚とした少女が彼の真っ黒な体内に沈んだ。そして、何もなかったかのように閉じられる割れ目。
シンッと、静まり返った空間に……三人だけが、取り残された。
少女を体内に収めた青年と。異常過ぎる光景に気絶しかけている──気絶したかったが、無駄に神な所為でできなかった──女神。そして……ついに我慢し切れなくなって笑い出した、カルディア。
「ふ、ふ、ふはははは! あはははははは! ちょっとゼイス君!? 何、君まで少し見ない内にそんな面白い感じになってるの!? 後でさっきの子、紹介して! 私も仲良くしたい!」
「あははは。父上の妹分だろうが、俺のリーシャと仲良くさせる訳ねぇだろ。殺すぞ」
──ぎゅるり。
穏やかに笑ったかと思えば、完全にイッテる目で見つめてくる青年。
それが余計に、カルディアの笑いを誘う。
「あははは! もう駄目……! 笑い過ぎてお腹が捩れちゃう! どうやら君も、自分だけの花嫁を見つけたんだねぇ?」
「……あぁ。愛しい愛しい、愛を渇望する俺の花嫁だ」
胸の辺りを撫でながら、青年は狂気と愛情に満ちた満面の笑みを浮かべる。きっと彼の脳裏に浮かんでいるのは……今まさに、自分の体内に収めた愛しい存在のことだけ。
「…………んで? なんで前触れもなく俺のことを呼んだの、カルディア姉ちゃん。碌なことじゃないなら帰ってリーシャとイチャイチャしたいんだが?」
「おっとそうだった。ゼイス君やい。君のお得意の改造をやって欲しいんだよねぇ〜。この女神様に」
「…………へぇ?」
そう聞いた青年──竜は嗤った。邪悪に、楽しそうに。
黄金色の、爬虫類を思わせる瞳が女神を貫く。
「っ……」
それを見た女神は、反射的に逃げ出そうとした。
だが、行動が少しだけ、遅かった。
「逃がさないよぉ?」
「ヒィッ……!」
女神の足を、カルディアは竜の手で掴んだ。
バタバタと、女神は暴れるが。恐怖に怯えるが。そんなの関係なしに。無理やり女神を引きずり戻す。
「いや、いやぁ!!」
「改造って……どういう風にして欲しいんだ?」
「あのね? この世界は竜が絶滅の危機に瀕してて。でも、この世界には竜が必要不可欠なんだって」
「…………へぇ?」
「それで、竜を増やすためには苗床が必要なんだってさ」
竜達の視線が、女神に向かう。
蛇に睨まれた蛙のように。それだけで彼女は動けなくなる。
「だから、改造で女神様の願いを叶えてあげて欲しいんだよ」
「…………あぁ、成る程。そういうことか?」
「うんうん」
そして、どこかが壊れてしまっている竜は告げる。
あまりにも狂った、恐ろしい計画を──……。
「この女神様を竜を生み出すための苗床──竜の母体に改造してあげて欲しいんだよ。たったヒトリで竜を生み出すことができるように、特別な性能をつけて……ね?」