プロローグ Ⅱ ──きっとこれは、運命の出会い
はっきり言って……仔竜は困惑していた。困惑せざるを得なかった。
『ねぇ、小さい仔竜さん? こんなところで簡単に死なないで? 無抵抗で殺されるなんてつまらないことしないで? 貴方は竜なんだから! どうせ死ぬなら! 周りに災厄を振り撒くような! もっと私を楽しませてくれるような死に方をしてよ!』
唐突に現れた人の姿をした災厄は、簡単に人間達を殺して。更にはこんなことを言ってきたのだ。これに困惑するなという方が無理がある。
それに……。
(……私を楽しませるような死に方を、してよ??)
特に意味が分からないのは最後の言葉だ。
なんで初対面の人からそんなことを言われなくはいけないのか……。意味が分からなすぎて、どうすればいいか分からない。
唯一わかるのは、このヒトがとても、怒っているということだけ。
「…………はぁ〜……なぁに、その顔。僕、ちょっとよく分かりませんみたいな顔しないでくれる?」
「そ、そんなこと言われても……」
「とにかく! 同じ竜として人間風情にいいようにされるだなんて許せないから! 君、今日から私の下で修行ね!」
「うぇっ!?」
「拒否権ないから。竜として相応しい振る舞いを叩き込んであげる。で……こんなつまらないモン見せたお詫びに、さいっこーに私を楽しませて。じゃなきゃ許さないんだからね?」
「…………」
にっこり。
有無を言わさない笑顔に、仔竜は黙り込む。
どうやら拒否権がない、というのは嘘ではないらしい。
「私はカルディア。渾名は《渡界の界竜》、司るは《界》。狂った竜達が生きる、異なる世界からきた竜のヒトリ。そして……今日から貴方のご主人様だから。覚悟してね、仔竜さん?」
これから自分はどうなるのか……。
仔竜は不安に震えずにはいられなかった。
◇◇◇◇◇
竜である癖に、人間どもにいいようにされるなんて許せない。その気持ちに偽りはなかった。
…………が。
つい、本音も溢れた。
〝どうせ死ぬなら! 周りに災厄を振り撒くような! もっと私を楽しませてくれるような死に方をしてよ!〟
面白くなかったのだ、この状況が。
竜だけじゃない。獣人もエルフもドワーフも、それ以外の種族も。なんで遥かに人間なんかよりも強者であるというのに、弱者の立場に甘んじているのか。虐げられているのか。
こんなの、全然、面白くない!
しかし……。
「…………はぁ〜……なぁに、その顔。僕、ちょっとよく分かりませんみたいな顔しないでくれる?」
「そ、そんなこと言われても……」
〝何言ってるのか分からない〟と言わんばかりに……ただプルプルと怯えるだけの仔竜を見ると、この仔竜自身の力でどうにかすることはできなさそうだった。
精神的にも肉体的にも、この仔は自分は人間には勝てないなんて思い込んでる気がする。
きっとそれは、この仔竜だけじゃない。他の種族の奴らも同じ。
(これは根本的な教育が必要かも?)
カルディアは頭の中で、仔竜の教育計画を積み立てる。
目標はこの竜に、竜として相応しい振る舞いを身につけさせること。竜らしい強さを身につけさせること。
そして……自分を楽しませることができる駒へと育て上げること。
(こういうの育成プレイって言うんだっけ? 前からちょっとやってみたいと思ってたんだよね! 面白そうだから!)
…………とはいえ。実のところ、この仔竜を教育する本当の理由は、カルディアの好奇心からだったのだが。
生憎とそれを、仔竜が知ることはなかった。今、この時はまだ──……。
「とにかく! 同じ竜として人間風情にいいようにされるだなんて許せないから! 君、今日から私の下で修行ね!」
「うぇっ!?」
「拒否権ないから。竜として相応しい振る舞いを叩き込んであげる。で……こんなつまらないモン見せたお詫びに、さいっこーに私を楽しませて。じゃなきゃ許さないんだからね?」
「…………」
にっこり。
有無を言わさない笑顔を向ければ、仔竜は黙り込む。
どうやら拒否権がない、というのを嫌でも理解したらしい。
「私はカルディア。渾名は《渡界の界竜》、司るは《界》。狂った竜達が生きる、異なる世界からきた竜のヒトリ。そして……今日から貴方のご主人様だから。覚悟してね、仔竜さん?」
かくして……。
カルディアは恐怖から逃げることもできない小さな仔竜の首根っこを掴んだまま……自身の《箱庭》へ強制的に、拉致するのであった……。