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燃え盛る炎と共に、地獄が始まる。

 




 初めて見た外の世界は、驚きに満ち溢れていた。

 綺麗な街並み。賑やかな市場。活気溢れる人々。目に入るもの全てが、キラキラと輝いていて。

 マナトは興奮しながら、街を歩く。


(凄い凄い凄い……! これが、外の世界……!)


 はしゃいでいた。はしゃぎ過ぎていた。

 だから、気づかなかったのだ。

 周りの目が、徐々に変わり始めることに。只ならぬ騒つきに。


「《闇の鎖よ、縛れ縛れ縛れ! 標的の動きを封じ込め、その意識を刈り取れ!》」

「…………え?」


 ──ぶわりっ!!

 黒い鎖が四方から飛んでくる。

 何が起きたのか、分からなかった。自分がどうなったのかも、分からなかった。

 傾く身体が、地面に叩きつけられる。薄れゆく意識の中で最後に見えたのは……武装した、男達の姿。


(…………ぁ……)


 愚かなマナトでも確実に分かることが、ただ一つ。



 きっとこの先に待っているのは……地獄に間違いなかった。





 ◇◇◇◇





 夏の二ヶ月は王都ではなくメーユが社交の舞台となる。

 社交は静かな戦いだ。美しさで殴り合い、会話で情報を引き出して弱みを握り、交流で新たな人脈を生み出して利益を得る。

 最先端の流行が真っ先に流行るのも社交界。そのため、他の貴族に舐められないように……マジェット公爵家の貴族として彼の地には(社交界に)出向か(参加し)なくてはならない。

 しかし、メーユには王太子と彼と〝仲睦まじい〟女生徒がいるからと──……公爵令嬢カルディアは理由をつけてメーユ行きを断り、避暑地に向かう家族を見送った。

 王都の屋敷に残った彼女は必要最低限の使用人を残して、彼らにも夏季の特別休暇を許す。

 そうして身の回りの基本的な世話は専属侍従にやらせるから屋敷のことだけに集中しなさいと残った使用人達に命じた後……アルフォンス達はやっと、人目を気にせず話し合えるようになるのだった。





「さて。それでは打ち合わせといきましょうか」


 公爵令嬢ケイトリンの私室。

 専属侍従アルバートの姿から本来の姿に戻ったアルフォンスは、同じく本来の姿になったカルディアと部屋で待っていたアリスとエイスに声をかける。

 全員がソファやら椅子に座るのを待ってから、カルディア達は早速、今後の予定を話し始めた。


「ひとまず、カルディア様には日中、メーユに通ってもらい……最初の内は領都内での追いかけっこをしてもらうつもりです。それでエピフィルムがこの領都にいると周りに知らしめる。それから、徐々に行動範囲を変えていき……最終的に隠れ里へ追っ手を引き連れて行ってもらいます」

「りょーかい」


 アルフォンスの作戦はその言葉の通り、エピフィルムとの追いかけっこで人間どもを隠れ里に誘導するというモノだった。

 隠れ里が見つかれば、奴隷を労働力または魔道具の道具として使用していた人間どもは彼らを捕らえようとするはずだ。

 勿論、奴らの思い通りにさせるつもりはない。アルフォンスの全てを以て、亜人達を守るつもりだ。

 それでも唐突な人間どもからの襲撃に……亜人達は人間どもへの憎悪を募らせることになるだろう。当然ながら、そうなるようにアルフォンス達が煽る。

 そして……亜人達の手を借りて、復讐するのだ。下剋上するのだ。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()──。



 だが、幾ら策を巡らせようが。全てが全て、思い通りにいく訳ではない。

 現に──……。

 ──ガンガンガンガンッ!!


「「「「!!」」」」


 勢いよく叩かれた窓。

 一番近くにいたエイスが立ち上がり窓を開けると、転がり込むように小さな影が部屋の中に飛び込んでくる。


「何がっ……」


 アルフォンスが声をあげると同時に人型に変じた。そこにいたのは……隠れ里との伝令役任されている鳥獣人。

 ボロボロになった彼は、その顔に滝のような汗が掻きながら竜達に向かって懇願した。


「アルフォンス様……! アルフォンス様……! どうか隠れ里にっ……! 隠れ里を……お助けくださいっ!」



 幾ら策を巡らせようが。意思を持って生きているモノが沢山関わっている以上、思い通りな進むはずがないのだ。個人個人の思惑が働いている以上、全てを思い通りに動かすことなどできやしないのだ。

 現に……今、アルフォンスが想定していなかったことが、起きている。


 しかし、この時点で確実に言えることが……ただ一つ。



 アルフォンスはこれから……地獄の光景を見ることになる──。

 それだけは、紛れもない真実であった。





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