幕間 異界の竜と堕天使の密談
【お礼】
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公爵令嬢に呼び出された侍女が、令嬢の私室に入る。
そこにいるのは二人っきり。パチンッと令嬢が指を鳴らすと世界がズレて、この部屋は隔離される。
同時に糸が解けるように本来の姿に戻る──竜。
異界の竜はその金色の瞳を獰猛に輝かせながら、全てを識る堕天使に問いかけていた。
「ねぇ。なんでアルフォンスはあんなことになってんの?」
怒っている様子を隠しもしない《渡界の界竜》に睨まれたアリスは、ついにこの時がきたかと頭の中に浮かび上がる未来に繋がる行動を選ぶ。
彼女は困ったように笑いながら……その問いかけに答えた。
「なんのことです?」
「…………あっははは。知らばっくれないでよぉ、《全知》の堕天使ちゃん? 分からないはずないでしょ?」
勿論、全て分かっている。
何故、壊れた倫理観を持つカルディア達がアルフォンスに、自分達と同じような考え方をするように教えてこんだのに。アルフォンスは甘っちょろい──……亜人どもを守護するような行動を取っているのか。
当然ながら、アリスは識っている。
…………が。
「お忘れですか? 界竜様。アリスはアリスのためにしか自分の力を使わないのですよ」
「それで私の不況を買うって識ってても?」
「はいです。だってその存在のことを〝口にしたら〟向こうにもバレて、余計に介入されちゃいますもの」
カルディアの力で界がズレていなかったら、ここまで危ないことは言わなかっただろう。
けれど、彼女に伝えるにはそれで充分。カルディアはぱちくりっと目を丸くすると……悟ったように大きな溜息を零した。
「あ〜……アレかぁ〜。〝深淵を覗く時は〜〟ってヤツ」
「さっすが界竜様なのです。大正解ですよ!」
だからアリスは黙っていたのだ。
最初の頃は間違いなく、異界流の流儀に染まって、亜人達の命がどうなろうと構わないと思っていたはずのアルフォンスが……いつからか亜人達をとても大切にし始めたのも。
竜である以上、自分の力だけで復讐を果たすことなんざ容易いのに。わざわざ亜人達を巻き込んだのかも。
メーユに人を集めたい、という理由も確かにあったけれど。隣国を動かしてまであの銀髪の少女を助けさせようとしているのには……自分が亜人達を助けるために、付きっきりになりたいからだとか。
主人と眷属、という一種の繋がりの影響で。カルディア自身にも多少の影響が出ていたことにも気づいていながら、
彼の復讐心がどうにもおかしな方向に進み始めている理由も。全部全部の原因が分かっていたけれど。
それでも黙っていたのは……こちらが向こうに気づいたら、向こうにも気づかれてしまうから。気づいたとバレたら、向こうが余計な手を打ってくると分かっていたから沈黙を守り続けていたのだ。
でも──……。
「だいじょーぶなのですよ、界竜様」
「…………ん?」
「チャンスは、直ぐにやってくるのです。地獄の炎と共に」
カルディアが怒っているように、アリスだって。それこそエイスだって。〝コレ〟には流石に頭にキているのだ。
だってそうだろう? アルフォンスをここまで育てたのは異界の竜達だ。異界の堕天使と淫魔だ。
なのに育て終えてから、無理やり意思を捻じ曲げるような介入をしてくるなんて。
自分達が頑張って育てた手駒を、何もしてない部外者に横から掠められたようなものではないか。
──そんなの、許せるはずがないに、決まっている。
「見つけたら、直ぐに飛んでくださいね? じゃないと、もっともっと邪魔されちゃうのです。一発、喰らわすことができなくなっちゃうのですよ」
「……………」
「アリス達の邪魔をしてくれたんですから。ここらでいっぺん、解らせとかないといけないですよね?」
可愛らしい顔立ちをした少女が嗤う。堕天した天使に相応しい、邪悪な笑顔で。
壊れた竜も冷酷な笑顔を、浮かべる。
それが、堕天使への……無言の答えだった。