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幕間 好奇心が猫を殺す。


次が長めなので、今回は短め一話でお送りします。


 




 外から訪れた亜人達を皮切りに、沢山の住人が増えた隠れ里。

 それに伴って……マナトの外の世界に対する好奇心は尽きることなく、ドンドン増していく。

 そのため──彼が歳が近くて、更には外の世界から訪れたエルフのルルに興味を抱くようになるのは、ある意味必然の流れであった。



「ルル!」


 隠れ里の端にある果樹園を歩いていた彼女を見つけて、マナトはパタパタと駆け寄った。

 声をかけてきたのが彼だと分かったからか、ルルは嫌そうに顔を歪める。なのに当の本人は嫌がられているのを気にすることなく……ニコニコと彼女に話しかけた。


「ルル! また外の話を聞かせてよ!」

「…………嫌よ。何故、わたくしがそんなことをしてやらねばならないの」

「なんで? 前はお話ししてくれたじゃん!」


 マナトはルルがこの隠れ里に来た時のことを思い出す。

 あの時の彼女はもっと付き合い易かった。好奇心が赴くまま、何でもかんでも聞くマナトの問いかけに一つ一つ丁寧に答えていてくれた。

 しかし、今は違う。忙しくしているロロ夫妻──保護された元奴隷のエルフ達はその見目の良さから性奴隷にされていたモノも多く……同じ亜人でも叫び出したり泣き出したりしてしまうため、同胞エルフであるロロ夫妻がメンタルケアや諸々の面倒を見てやっている──に変わって、彼女の面倒を見ていた偏屈なエルフことファールレンの影響か……ルルは随分と意地悪な性格になってしまった。

 まだファールレンほどマナトが存在していないかのように無視してくるようなことはないけれど。このままではルルも、自分マナトを無視するようになりそうだ。

 だからそうなってしまう前に、色々と外の世界のことを聞いておきたい。


「ねぇねぇねぇねぇ! 教えてよ教えてよ教えてよ! 外の世界のこと! 知りたいんだよ、僕!」

「…………」

「ねぇねぇねぇねぇ!」


 足を止めないルルの周りをくるくる回りながら、マナトは声をかけ続ける。しつこいぐらいにかけ続ける。

 先に限界がきたのはルル。彼女は思いっきり顔を歪めるとその場に立ち止まり、般若のような顔でマナトを怒鳴りつけた。


「煩いわっ! そんなに外の世界のことが知りたいのなら自分の足で見てくれば良いでしょう!」

「ふみゃっ!?」


 ルルが発動させた魔法がマナトに叩きつけられる。

 魔法を叩きつけられた衝撃に驚いて。威嚇するかのようにぶわりっと毛を逆立てた。


「ふしゃぁぁぁー! 何するんだよっ、ルルッ!」

「はぁ……喧しい。目眩しの魔法をかけただけでしょうに」

「………へ? 目眩し?」

「後ろをご覧なさい、お前の背後をね」


 マナトはパチパチと目を瞬かせながら、後ろを見る。

 そこには……いつもあるはずの猫尻尾が、存在しなくて。


「!? 尻尾が失くなっちゃった!? なななっ、何してくれちゃってるんだよぉぉぉぉ! ルルゥッ!」


 半泣きになったマナトは、大きな声でルルに詰め寄る。

 この騒ぎの元凶たる少女は心底嫌そうに顔を歪めながら、面倒そうに告げた。


「違う。目眩しだと言ったでしょう。お前の耳と尻尾は単に見えなくなっているだけよ」


 そう言われたマナトは、慌てて自身の耳と尻尾があるだろう場所に手を伸ばす。手の平に当たる、ふわっふわした毛の感触。どうやらその言葉の通り──本当に耳と尻尾を失った訳ではなかったらしい。マナトは「あっ、本当だぁ……」と心の底から安堵の息を溢した。

 …………とはいえ。それでもいきなりのことで驚かされたのには変わりない。なんせ獣人にとって獣の耳と尻尾はとっても大事なもの。これを失うということは、獣人としての尊厳を失うも同然。

 だから、マナトは……恨めしそうなジト目で、ルルのことを睨みつけた。


「…………ルルゥ……」

「何? お前が外の世界外の世界と煩いから、わざわざ目眩しの魔法をかけてやったのよ」

「…………?」

「はぁ……馬鹿ね。猫獣人としての特徴がなければ、お前の姿は人間も同然なのだから。それで外の世界を見てこれるでしょう」

「!!」


 マナトは目を見開いた。


 外の世界を、自分で見てくる──。


 そんなこと、一度も思い浮かんだことがなかった。だって、外の世界に興味は尽きなくても。外の世界には出てはいけないと、ずっとずっと、そう強く言いつけられて育ったのだから。

 でも、それは亜人だからだ。亜人は人間に狙われて危ないからと、隠れ里の外には出てはいけないと教わってきた。

 けれど、亜人としての特徴が隠されている今ならば──?


「っ……!」


 マナトの目が爛々と輝き始める。好奇心が抑えきれぬかのように頬が赤くなって、ウズウズと落ち着かなくなる。


「じゃあね。もうわたくしを煩わせないで」


 ルルはマナトが今にも飛び出して行きそうなのに気づきながらも、それを無視してその場を去った。

 一人残された猫獣人は、ついに我慢出来なくなって走り出す。


(行きたい行きたい行きたいっ……! 外の世界へ……! 見てみたいんだ、里の外を……!)





 ある意味……タイミングが良くて悪かった。


 この時期とき──隠れ里の里長であるジェットが、種族的な理由から一ヶ月ほどの眠りについていた。

 一応、里長が欠けても隠れ里自体は問題ないような運営が行われていたが……それでもジェットという存在が、皆の心の支柱であることには変わりない。彼が動けない今、隠れ里のモノ達は外からの襲撃に限界まで警戒心を高めていて。その意識の殆どが、外敵に向けられていた。

 だから、見過ごしてしまったのだ。今までが平和だったから。そんなこと起きたことがなかったから。……油断していたとも言える。

 まさかあんなにも外の恐ろしさを教え込んだというのに。それでも好奇心を抑えきれずに。隠れ里から……飛び出して行ってしまうような仔が出るなんて。思いもしなかったのだ。


 そんな理由から……隠れ里のオトナ達は、猫獣人の仔供が姿を消してことに気づくのが遅くなってしまった。

 たった五日。されど五日。

 彼がいなくなったことに気づくまでの五日間──それが運命を大きく分けた。



 隠れ里は大きな悲劇に見舞われることになる。


 それまで後──……。





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