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幕間 そして恋情は、後戻り出来ない選択をさせる。


こちら、本日二話目の投稿になります。

読む順番にはご注意を。



 




 嫉妬に、胸が焼け焦げそうだった。

 なぜ、何故、ナゼと、何度も何度も心の中で愛しいヒトに問いかける。



 ルルは何も間違ったことはしていないと思っている。

 アルフォンスは竜だ。亜人達を導く、王たる存在だ。

 そんな彼が誰かの下について従うのはおかしいし。彼の側にいるのは自分のような優れたエルフであるべきだ。

 だからあの夜、そう彼に申し出たのに。

 何故、アルフォンスは理解してくれはい?

 何故、こちらが諌められなくてはいけない?

 何故、なぜ、ナゼ。


「ふむ。安心せよ、ルル。お前は間違ってはおらん。わたくし達は選ばれしモノ。高貴なるエルフじゃ。竜の側に侍るモノは、お主のような尊い血を引くモノこそが相応しい」


 けれど、隠れ里に昔から暮らす白金色の髪を持つエルフは、そうルルの考えを肯定してくれた。賛同してくれた。

 彼女は基本的に無表情な顔にほんの僅かな憂いを滲ませて、呟く。


「きっとアルフォンス殿はその女に騙されておいでなのじゃろう」

「騙されて……?」

「でなければエルフたるお前を、邪険にしまい?」


 …………ルルは、知らない。ルルの両親も、この里のモノ達も知らない。

 色々と忙しくしているルルの両親に変わり、ルルの面倒を見ているこのエルフ──ファールレーヌ・ゼリアーネン・リリーゼート……(略称レーヌ)。同じ同族だからと無条件に信用してロロ夫妻が娘を預けたこの女は、所謂いわゆる古代(エンシェント)エルフと呼ばれる存在で。

 隠れ里に暮らせど殆ど他の住人と関わろうとしない──エルフは高貴な存在であるため、下々のモノと関わっては格が下がると彼女は考えている──レーヌは、長命種ゆえに時代の流れに沿って価値観や生活を変えようとしない石頭であることを。昔の価値観に基づき、空よりも高い自尊心プライドと選民意識を持っていることを。

 ゆえにエルフでありながら見窄らしいルルの、エルフとしての矜持の低さに怒りを覚え。時代錯誤なエルフたる心得なんてモノを教えてしまった所為で、幼い少女を愚かモノに変えてしまったことを。それがどんなに〝とんでもないこと〟であるかを、ロロ夫妻も他のモノ達も分かっていない。


「そうじゃ。お主にもこれをやろう」


 ヒラヒラと薄い衣を何枚も重ねた服の袂から、レーヌは小さな小瓶を取り出す。中に入っているのはドス黒い、粘着性を持った液体。

 ルルはそれを受け取り空に翳し、一切太陽の光を通さないその液体に首を傾げた。


「これは……?」

「ヒュドラの毒ぞ」

「ヒュドラの、毒?」

「うむ。エルフの嗜みじゃ」


 レーヌの言葉に、ルルは大きく目を見開く。


「我らエルフは尊きモノ。我らが身を穢されるなどあってはならぬが、万が一の際にはこれを飲めば良い。さすれば誇り高きエルフがまま大地に還ることとなるじゃろう」

「大地に、還る……」


 大地に還るというのはエルフ風の表現であり、〝死んであの世に行く〟と同じ意味である。


「この毒に逆らえる命なし。神すらも剋するとされる猛毒ぞ。苦しむ間も無く命絶ゆる。ゆえに、いつ何時も懐に忍ばせておくが良い」


 レーヌがこの毒を渡したのは……もしもエルフとしての矜持が穢されるようなことがあれば──実際にそうなる前に死ねという意味であった。

 しかし、幼いエルフはふとある考えを思いついてしまっていた。この毒を違う用途で使うことを、考えついてしまっていた。


(神すらも殺せるなら……アルフォンス様を()()()()()()()()()ことも……できるかもしれない……?)


 歪みそうな口元を押さえながら、ルルは手にした小瓶を手放さないように強く握り締める。

 彼女は素晴らしいモノを授けてくれた古代エルフに向かって深々と、頭を下げた。


「ありがとうございます、ファールレーヌ様。大事にさせていただきます」



 竜が死ぬまで後──……。





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