幕間 変わっていくシナリオは、見えない未来に繋がって
(やっぱり……悪役令嬢sideのイベントだったの……!?)
〝彼女〟は爪を齧りながら、窓の外を睨みつけていた。
今回のイベントのヒロインsideでは……ヒロインは芸術の月を締め括るパーティーで、演舞を披露できなくなった旅一座の代わりに声楽を披露することになる。
その旅一座が披露できなくなった理由は、簡単。主軸の踊り子であるシェヘラが怪我の所為で踊れなくなるからであった。
ディアナ一座はパーティーに参加する直前まで、今後の旅の資金を得るために公演に出ていた。その公演でシェヘラの舞に心底惚れ込んだ男爵家の子息が、彼女を拉致監禁してしまうのだ。
残された一座と友人として手を貸したヒロインと攻略対象の奮闘──勿論、国の騎士達も協力している──と……シェヘラ自身も頑張って脱走した甲斐もあって、なんとか事件は解決するのだが……。それが原因でシェヘラは足首を捻って満足な踊りを踊れなくなってしまう。仲間達に心配をかけてしまったからと、パーティー当日まで怪我を隠してしまったのもいけなかった。
シェヘラは本番直前で……動けなくなるほどに怪我を悪化させてしまうのだ。姉の怪我に動揺する妹達は、満足に踊れるような状態ではなくなってしまう。
それを見かねたヒロインは、代わりに出演すると自ら名乗り出て……シェヘラを医師の元へ連れて行くように手配してやるのだ。
だが、ディアナの踊り子を狙うような拉致監禁事件なんて起きやしなかった。
それどころか──……。
(まさか、当のシェヘラ自身が公演に出なくなるなんて……。これは、ヒロインsideにも悪役令嬢sideにもなかった展開だわ……)
まさか、このイベントの重要人物となるシェヘラ自身が公演に出なくなるなんて。思いもしなかった。
こんなの、自分が知っている乙女ゲームのシナリオには、存在しなかった。
(一体……何が起きてるの……? 悪役令嬢は何をしようとしてるの……?)
愚かな彼女はまだ、気づいていない。
本来の役柄らしからぬ行動をする悪役令嬢を見て、自分と同じように彼女が転生者であると思い込んで。
全て、悪役令嬢の行動の所為で乙女ゲームのシナリオ通りになっていないのだと考えている彼女は……第三者が関わっている可能性に現時点では、一向に辿り着けない。
それに気づくのはパーティーの最中。
ゲームには出てこない、美し過ぎる女性の舞を見た時で……。
その所為で事態は更なる混迷を極めることになるのだが……この時の彼女はそんなことになるなんて、微塵も思い至らないのであった。




