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宴の夜、界竜は楽しむ。

 




 カルディアは時々、何か面白いことはないかと。アルフォンスが展開している《箱庭》を訪れては、アリス達から自立のための教育を受ける亜人達を観察していた。

 勿論、亜人達には関わらない。手出しはしない。ただ見ているだけだ。亜人達の教育なんて面白くなさそうだし、やる気も出ないのだから、この対応は当然と言えば当然だった。

 だが、カルディアのセンサーが〝面白いこと(何か)〟はありそうだと反応を示していたから、こうやって定期的に訪れてはいた。

 そして、そのセンサーは今のところ外れた試しがない。

 だから、カルディアは気づいた。


 あの最初に助けたエルフ親子の娘──ルルがアルフォンスに分かりやすい視線──アルフォンスに対して恋情を抱いていることに、気づけたのだった。


(まぁ、恋情を抱くようになるのも当然かぁ〜。自分を助けてくれたヒトだもんね。王子様みたいに思っちゃうよね〜)


 そんなことを思いながら、カルディアは笑いが止まらなくなる。

 今までの経験上、恋愛が絡んだ事案は大体が面白いことになりがちなのだ。物語のような甘い展開になれば、地獄のような修羅場ともなる。できればヒトの欲望が剥き出しになる修羅場になって欲しいが、どちらに転んでも面白いこと間違いなし。

 それも相手であるアルフォンスは、そんな分かりやすいエルフからの感情に気づいていないような鈍感具合。

 これは面白くなりそうだとウキウキしていたら。


 実際に宴の夜に、面白いことになってカルディアは楽しくて楽しくて仕方がなかった。





「何故ですっ、アルフォンス様っ! 後から来た堕天使と淫魔は側に置いているのに、何故先にいるわたくしを側に置いてくださらないのです!」

「ですからね、ルル。わたしは誰も置く気が──」

「それにっ……わたくしならば、アルフォンス様に尽くされるだけのその女と違って貴方様の役に立ってみせます! それこそ、貴方様のためならばなんだってして──」

(ひぃぃ〜! サイッコー!!)


 カルディアは真剣な空気を壊さぬように、頑張って笑い声を堪える。

 若干堪え切れずにぷるぷると震えていたが、皆の視線は言い争うアルフォンス達に向かっているから気づかれないだろう。…………《全知》を持つアリスぐらいにしか。

 けれど、こうなるのも仕方なかった。だって、あのエルフの本心は……アルフォンスの役に立ちたいなんて殊勝なモンでは、全然なかったのだから。


(あははは! 気づいてる子はどれぐらいいるかな? アルフォンスの側にいたいの忠誠心からなんかじゃなくて……ただ〝好きなヒトの側にいたい〟っていう、我儘でしかないことに!)


 側にいたいという言葉に嘘はないだろう。けれど、その言葉の本心は〝好きだから側にいたい〟だ。

 このエルフの少女は、アルフォンスに恋をしている。

 恋をしているからこそ、誰よりもアルフォンスに近い距離にいて、彼から尽くされているカルディアに敵意を抱いているし。隠れ里に向かわされる自分と違ってアルフォンスと共にいれるアリス達にも嫉妬の感情を向けている。


(でも、そんな風に本音を隠してたら……アルには絶対、伝わらないよ? なんせ初心だからね!)


 ドロドロとした負の感情を向けられていることを、嫌というほど感じ取る。肌がピリピリとする感じが面白い。

 普通、竜に逆らう奴なんていないのだ。竜は大体の世界で圧倒的な強者であるのだから。

 だが、弱者側であるエルフが、竜に敵意を向けるなんて。なんて身の程知らずで愚かしいのか。なんて怖いもの知らずなのか。

 恋心程度で強者に敵意を向けるなんて。逆らうほどの反抗精神を見せつけるなんて……なんて、なんて愉快なのだろうか?

 そんな風に楽しんでいたら、エルフの両親が飛び出してきて土下座していた。


「うふふっ……あはははははっ!」


 あぁ、面白い。両親は竜に対する恐れをよくよく理解しているというのに。娘は本当に分かっていないらしい。なんで、二人が謝罪しているのか。分からないと言わんばかりの顔をしている。

 そんな親子が面白かったから。カルディアは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、告げた。


「んふふっ……許してあげなよ、アル」

「…………カルディア様」

「折角の楽しい時間に水を差すのもよくないし? それに……私的には()()()()()()()()()()()。結構満足、してたりするよ?」

「!」


 自分が言えば、簡単に許すアルフォンス。

 そんな光景にエルフの少女の憎しみに満ちた視線がより強くなる。


(んふふ……んふふふふっ! アルが私の言うことを聞けば聞くほど、面白い反応をしてくれるね! エルフちゃん!)


 きっと彼女の中で、カルディアはこの世で何よりも憎むべき相手になっていることだろう。

 好きなヒトが尽くしている恋敵。好きなヒトを好き勝手従える悪女。

 …………アルフォンスと恋仲になって、彼の子を産みたいと思っているあのエルフにとって、カルディアほど邪魔な存在は、いない。


(あぁ〜……本当、楽しい♪君は私にどんな攻撃を仕掛けてくるかな?)


 だから、ワザと煽る行動を取った。

 もっともっと面白い反応をして欲しくて、両親に連れ去れるエルフに、〝アルフォンスは私のモノだよ?〟と自慢するような笑顔を向けた。



 恋情──愛憎が伴う事案は面白いことになりやすい反面、面倒なことにもなりやすい。

 面白さを優先して、面倒さのことを失念してしまったことが、カルディアの失敗。


 だから、これが原因で竜の命が奪われるような事態になった時──未来のカルディアは……ほんのちょっとだけ、この時のことを後悔することになった。




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