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公爵令嬢が自分が生き残るために巡らせた策


悪役であることに納得する悪役令嬢が出てきます。よろしくどうぞ。

 




 カルディアは気になっていた。

 何故、アルバートは身代わりを見つけるために召喚魔法を用いたのか──?

 それが気になって気になって仕方がなかった。


 普通なら、そのお嬢様(ケイトリン)に顔立ちや体格などが似ている少女を見つけ出して身代わりにするものだろう。所謂、影武者というやつだ。

 なのに、彼は、召喚魔法という手段を選んだ。普通なら選ばない方法を選択した。

 この状況で、どうして召喚魔法を選んだのか? それがカルディアは分からない。

 先ほど話した感じでは、アルバートは覚悟は決まっている人間ではあるようだが……特別頭が良い、という印象は受けなかった。偏見の可能性もあるが……どうにも、アルバートが()()召喚魔法を選んだとは思えなかったのだ。

 となれば……そうなるように、仕向けた者がいる。


 なら、その仕向けた犯人の候補に上がるのは?


 これがハズレだったらまぁ、少しだけ落ち込むかもしれないが。

 これがアタリだったら。事態は思ったよりも面白くなるかもしれない。


 カルディアはアルバートの主人に会う時を、今か今かと待ち侘びる。

 そして、その時がついにやってきた……。





 夜の帳が下りた頃──。

 カルディアは事前に聞いていたケイトリンの容姿を頼りに、その部屋に姿を現した。


「こんばんは。いい夜だね」


 飴色の高級そうな家具で統一された部屋。流石は公爵令嬢の私室だ。品が良い。

 ソファ前のローテーブルの近くにはどうやら夜のお茶を給仕していたらしい、カルディアに驚くアルバートの姿。

 そして、そのソファに腰掛けているのは……燃え盛る炎のような赤毛を持つ少女。

 彼女はゆっくりと、立ち上がる。流れるような動作で夜分に相応しい派手すぎないドレスの裾を摘むと、優雅なカーテシーを披露した。


「ご機嫌よう。お待ちしておりました」

「…………ふぅん」

「……如何されましたか?」


 カルディアはマジマジと観察し、困ったように目尻を下げる彼女──ケイトリン・マジェットを見て、〝成る程〟と納得する。

 それから、未だ固まっているアルバートに向けて、部屋を出て行くように命令した。


「ねぇ。この子と二人っきりで話したいから出てってよ」

「……はぁ!? お嬢様と二人っきりだなんて! そんなことさせられるはずがないでしょう!?」

「アルバート」

「!」


 鋭い声で名を呼ばれて、アルバートが再度固まる。

 そんな彼に、主人であるケイトリンは柔らかく微笑みかけた。


「大丈夫ですわ。わたくしもえっと……」

「カルディア。私はカルディアだよ」

「失礼いたしました。カルディア様と二人でお話ししたいので。それに……貴方はお茶を運んで来ただけですもの。あまり長いすると邪推されてしまうわ」


 確かに、従者とはいえ夜分に淑女の部屋にいたら邪推されてもおかしくない。

 給仕という目的があっても、それ以上の時間、部屋にいるのは外聞が悪いだろう。

 それらは全て、ケイトリンへの悪評へと繋がってしまう。


「…………承知、しました。失礼、致します」


 アルバートは渋々と言った様子で部屋を出て行く。

 しかし、部屋を出る直前、その目が〝お嬢様に何かしたらタダじゃおかない〟と念押ししていた。

 これにはカルディアも驚きだ。ただの人間が、恋情だけで上位種である竜に喧嘩を売ってきたのだから。

 多分、他の竜だったら苛立って首を刎ねていただろう。怒りを爆発させて、大暴走する奴もいたかもしれない。

 ……だが、逆に面白くなってしまったカルディアはそんなことはせず。ただただケラケラと、楽しそうに笑っていた。


「アルバートが失礼な態度を。謝罪いたしますわ、カルディア様」

「いいよ〜。ここまでくると逆に面白かったからね」

「寛大なお心に感謝を」


 笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭いながら、カルディアがクイッと指を動かすと、ドレッサー前に置かれていた丸椅子が近くにくる。

 それに座った彼女は首を傾げながら、同じように改めてソファに腰掛けたケイトリンに問いかけた。


「一応確認。貴女があの従者君が話してたお嬢様?」

「……失礼しました。遅ればせながらご挨拶を。わたくしはマジェット公爵家が長女ケイトリン・マジェットでございます。どうぞ今後ともよしなに」

「うん。よろしくついでに、もうあの従者君もいないんだし。本音で喋ってくれて大丈夫だよ?」

「…………まぁ。なんのことかしら?」

「え? あの従者君を好きなように動かしてるの、貴女でしょ?」


 ケイトリンが大きく目を見開き……それから、真っ赤なルージュに彩られた唇が弧を描く。

 彼女の纏う空気が変わった。下がっていた目尻が持ち上がり、橙色の瞳が爛々と輝く。さっきまでの淑女然とした態度が嘘のよう。凶悪な雰囲気を全開にしたケイトリンはまさに、カルディアが知る傲慢な貴族そのものであった。


「あら、バレてましたの。えぇ、そう。アルバートを動かしているのはわたくしですわ。とはいえ、本人にその自覚はないでしょうけどね」

「あの従者君から聞いた話は嘘?」

「うふふ、まさか。そこは本当ですわ。確かにわたくしは、変な夢を見たのです。観衆達の前で見せ物のように、王太子に殺される夢を」

「そこは本当だったんだ?」

「えぇ。偽ったのは目覚めてからの態度、ですわ」


 アルバートの話だと、ケイトリンは死にたくないと泣くようになったとのことだった。アルバート以外の人間に怯えるようになったとのことだった。

 しかし、どうやらその姿は偽りだったらしい。

 カルディアはニンマリと笑って、話を続けた。


「やっぱりねぇ。どうもおかしいと思ったんだ。貴女の身代わりを見つける方法に召喚魔法を使ったことが。それ、貴女が誘導したでしょ?」

「あぁ、そこからお気づきに? えぇ、そうですの。だってわたくしそっくりな影武者を見つけるなんて、どれほど時間がかかるか分からないでしょう? それにアルバートは所詮、一侍従です。彼がわたくしに似た人間を探そうものなら、王宮にも知られてしまうでしょうし。なら、わたくしの身代わりを務められるモノを召喚して呼び出してしまった方が手っ取り早いですもの」

「貴女のために頑張ってる従者君、そんな雑に扱っちゃうんだ?」

「あら。アルバートはわたくしの侍従ですわよ? どう扱おうとわたくしの勝手では?」

「ふはっ……あははははっ!」


 カルディアは笑った。

 腹を抱えて、ついつい大きな声で嗤ってしまった。

 あぁ、面白い。面白過ぎる! あの侍従なんかよりも遥かに面白い人間だった!

 要するに……アルバートの行動は全て、この少女の手の平の上だったのだ。

 ケイトリンは自身が殺される夢を見た。それはとても生々しくて、嘘だと思えなかったのだろう。死にたくないと思ったのだろう。

 だから、生き残るための策を巡らせることにした。

 それが、アルバートを利用することだった。


「貴女、王太子の婚約者に選ばれるだけはあるねぇ?」

「甘っちょろいだけでは、貴族なんてやってやれませんわ」


 アルバートが彼女を連れてここを出て行くと決心したのは、さり気なくケイトリンが誘導してのだろう。〝怖い、死にたくない……ここから逃げたい……〟なんて言ったら、彼は簡単に騙されてしまいそうだ。

 召喚魔法の方は、詳細が書かれていた本でも目につく場所にでも置いておいたのだろうか? 代償を払うタイプでも、アルバートが術者であればケイトリンはなんの痛手も負わない。

 この女は自分のために。自分の目的のために。それが悪いとも思わずに、アルバートを利用しているのだ。

 それはとても、欲深くて。とても、人間らしい。

 カルディアはケラケラと笑いながら、ケイトリンに告げた。


「あははっ! 貴女、すっごいね! 従者君を利用してるの、全然悪いと思ってないんだもん! 逆に潔いよ! 貴女、悪女の才能があるんじゃないかな!?」

「まぁ! そんな人聞きの悪いこと、言わないでくださいな! わたくしが誑かしているのは()()()()()()アルバートだけですわよ? なんせ、わたくしを好いている男ほど都合よく動いてくださる方はいませんもの」


 ケイトリンは薄らと、婀娜っぽい笑みを浮かべながら答える。

 きっとこの女は、ここから出て行った後も、アルバートを都合よく使うつもりなんだろう。自分の世話を全て彼に押し付けるつもりだろうか? 幼い頃から世話されるのが当たり前なお嬢様だ。それぐらい普通だと言って、やらせそうだ。アルバートの方も、それを嬉々として受け入れている姿が簡単に想像できてしまえる。

 そして、彼が使えなくなったら。ケイトリンは簡単にアルバートを捨て、他の男を利用して生きていくのだろう。

 きっとこの女は、これぐらい容易くやってのける。


(はぁ〜……すっごい。本当に典型的な悪女みた──……ん?)


 そこでカルディアの勘が、何かに反応した。

 貴族、公爵令嬢、王太子の婚約者。

 ケイトリンの見た夢。一人の少女と親しくする高位貴族。彼らに忠告する王太子の婚約者。

 明らかになる身分、処刑。悪女。

 それらの要素が繋がって、カルディアの脳裏にある言葉が思い浮かぶ。


(あっれ〜? これ、もしかしなくても乙女ゲーム的な感じか〜?)


 そう……〝乙女ゲーム〟という言葉が。

 乙女ゲームとは他人の恋愛模様を、動く絵物語で疑似体験できるものだ。

 今まで、カルディアは直接ソレに関わったことはなかったが……他所の世界では何度か、面白そうだったので乙女ゲーム案件を観察していたし……。知り合いの竜が乙女ゲームの悪役令嬢を花嫁に娶ったりしていたため、カルディアは乙女ゲームという存在を認識していた。

 そして今の状況、明らかにその乙女ゲーム案件に似ている気がする。

 というか、ほぼほぼ間違いない気がする。


(うん。この子、実のところかなーり極悪っぽいけど。一応は悪役令嬢ってヤツなんじゃないかな?)


 そう考えるとこの容姿も納得する要素の一つになる。

 真っ赤な髪に吊り目気味な橙色の瞳。きつめの顔立ちに、メリハリのついた扇状的な身体つき……。どっからどう見ても典型的な悪役令嬢だ。


(ってことは……つまり私は、悪役令嬢の身代わりになるってこと?)


 その考えに至ったカルディアは大きく目を見開いた。

 身代わりとはいえ、今まで見ているだけだった乙女ゲームに、今度は自分が参加するということだ。

 それはとても、面白そうじゃないだろうか?

 カルディアの好奇心がどんどん、湧き上がっていく。


「それで? カルディア様は受けてくださるの? わたくしの身代わり。とはいえ……召喚魔法はこちらが求める条件に適した方を呼び出すのに特化してますから。受けてくださるでしょうけれど」

「あっは……。あはは! あはははは!」


 カルディアは笑う。心底楽しそうに笑いまくる。

 急に笑い出した彼女を、ケイトリンは怪訝な顔を向けた。少しだけ心配そうだ。受けてもらえないと思ったのだろうか?

 けれど、それは杞憂でしかない。


「うん、うん! いいよぉ! 受けてあげる! だって面白そうだからね!」

「…………そう。それは良かったですわ」

「疑ってる? ううん、面白そうなんて理由で受けられて大丈夫なのか心配? でも、安心していいよ! だって私にとっては面白いか否か、〝好奇心〟が一番重要だからね!」


 カルディアの異常性は〝好奇心〟。

 面白いこと。そのためならば命を賭けることすら厭わない。誰かの命が失われることすら構わない。

 それを知らずにカルディアに身代わりを頼む彼女達は、とても愚かだと思うけれど。こちらからそれを教えてしまって、この件を白紙にされてはつまらない。

 だから、カルディアは自身の異常性を隠したまま受け入れる。

 まぁ、いつかは……ケイトリン達もカルディアの異常性を知るだろうが。

 全てを知った後──彼女達がどう思うだろうか? どう、後悔するだろうか?

 …………それもまた、楽しみだ。


「本当……楽しめそう。今までで一番、楽しくなりそう。うふふっ……」


 そう言って微笑んだ竜は、この物語の結末が幸福でも破滅でもどちらでも構わないと思っていて。紛うことなく、狂った竜のヒトリであると、実感させるもので。


(…………どうしましょう。わたくし、頼む相手を間違えた気がしますわ)



 狂った竜(カルディア)の笑みを間近で見てしまったケイトリンは、若干の後悔を抱かずにはいられなかった……。





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