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幕間 蘇る記憶

 




 特別授業中に起きたのは──……ある意味、公爵令嬢による殺人未遂とも言える事件だった。

 命の危機に晒されたからだろうか? その瞬間、〝彼女〟の頭の中には……膨大な記憶が流れ込んだ。


(え……? えっ!? まさかここっ……《銀の乙女は恋に煌めき、赤の乙女は戀に溺れる》の世界……!?)


 《銀の乙女は恋に煌めき、赤の乙女は戀に溺れる》とは──今までにない斬新なシステムで人気を博した有名な乙女ゲームである。通称は《銀赤乙女》。

 タイトルと通称にあるように……この作品は学園に入学したフィオナとケイトリン、正当なヒロインと敵対する悪役令嬢。そのどちらかを主人公として選んで、七人の攻略対象を攻略していくシステムになっている。

 正規ルートであるフィオナsideでは、王道なストーリー展開となる。学園で攻略対象達と出会い、交流して想いを育み、悪役令嬢に邪魔されながらも心を通わせていく……という典型的な乙女ゲームの道筋だ。

 反して、ケイトリンsideは邪道をいく内容になる。婚約者や高位貴族と親しくなる少女。貴族社会の規律を乱す異分子を排除するために暗躍し、目的のために攻略対象を堕としていく……まさに悪役令嬢らしい物語ストーリーなのである。

 正規ヒロインのみ、悪役令嬢のみ。どちらか片方が主人公という乙女ゲームや物語なら沢山あったが……辿る道筋は大体同じでも、異なる過程を進む二人の主人公を選べること。

 二つのルートをプレイすることで、この二人がどちらも善と悪であること。つまりは、善悪の基準は自分次第、或いは表裏一体。視点が変われば自分が正義となり、相手が悪となる──そんな風に思わされるシナリオになっていることから、この乙女ゲームは人々の注目を集めた。

 〝彼女〟もまた、そんな《銀赤乙女》を隅から隅までプレイしたプレイヤーの一人であった。それも、関連グッズを全て集めるほどにヘヴィな。

 だからこそ、気づく。いや、気づかずにはいられなかった。

 ケイトリンの行動が、ゲーム通りではないことに。明らかに、おかしいことに。


(まさか……悪役令嬢も、転生者?)


 そう考えれば、ケイトリンが悪役令嬢らしくない行動をしているのにも納得がいく。

 本来あり得ない授業免除を受けて、殆ど授業に出ていないことも。

 正規ヒロインであるフィオナに対して、陰湿な攻撃をしていないことも。

 攻略対象を凡ゆる権力と手練手管を用いて籠絡していないことも。

 悪役令嬢が前世の記憶を思い出して、自分の破滅を回避するために行動しているのならば……今の状況にも、納得できるのだ。


(悪役令嬢が前世の記憶を思い出すのも……ある意味は王道だよね)


 前世でも、こういう展開の物語や乙女ゲームは沢山あった。

 この世界──《銀赤乙女》の悪役令嬢ケイトリンは、攻略ルート次第で国外追放、処刑、奴隷・娼館堕ち……様々なエンディング、バッドエンドを迎えることとなる。〝悪役〟令嬢という名に違わない、血も涙もない行動をしていたからこそ、彼女はその行動に見合った罰を受けることになるのだ。

 そんな終わりが待っているとなれば、回避したいと思うのは必然。きっと彼女は破滅しないように、行動を改めて、悪役令嬢にならないように積極的に動いているのだろう。


(それに……悪役令嬢も転生者なら、下手したら逆ざまぁされる可能性もあるってことだよね?)


 更に、昨今の物語ではヒロインが悪役令嬢にやり込められる──所謂いわゆる〝逆ざまぁ〟をされるのがテンプレート化している。

 逆ざまぁとは、悪役令嬢の代わりにヒロインが破滅──バッドエンドを迎えることだ。

 この乙女ゲーム(世界)の正規ヒロインはフィオナ。つまり、下手をしたら彼女が国外追放、処刑、奴隷・娼館堕ちになるかもしれないということになる。


(そんなの駄目に決まってる……! ただでさえ、()()()()()()だってあるんだしっ……!)


 困ったことに、懸念すべきなのはバッドエンドだけじゃない。

 攻略の進捗状況によっては、攻略対象だけでなく主人公──……それどころか無関係な人々も死にかねない、地獄のようなイベントが、この先に待っているのだ。


(……折角生まれ変わったのに……! 死んでたまるもんですかっ……! 絶対にっ、乗り越えてみせる……!)


 〝彼女〟の瞳に宿るのは強い決意。



 前世の記憶を思い出した転生者の存在は、吉となるのか凶となるのか……。

 その結果は《全知》を知るアリスぐらいしか分からないけれど。



 けれど……〝彼女〟の選択が後に大きな影響を及ぼしそうなのは。もうこの時点で、間違いなさそうで、あるのだった。





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