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最後の竜の協力要請には、適材を。


ep10に伏線追加しました。


 




 聖雪祭後──学園は直ぐに、冬季休暇に入った。

 冬季休暇は約一ヶ月。学園に通うという時間が省かれて、更に自由に動き回れるようになったカルディアは冬季休暇の間に何をしようかと頭を働かせていたところで……。

 鬼気迫る眷属から縋り付くように、あるお願いをされるのだった。



「お嬢様! 誰か魔族──特に淫魔サキュバスについて詳しいお知り合いの方とかいないでしょうか? いたらどうか紹介してもらえないでしょうか。お願いします……!」


 飛び込んできたかのように《ゲート》から現れたアルフォンスが、ケイトリンの私室でこれからの行動を考えていたカルディアの足元に縋り付く。

 鬼気迫る顔。あまりにも必死に懇願するその姿に、これは只事ではなさそうだと……カルディアは彼に問いかけた。


「なんで?」

「…………あの、ですね。エルフの親子の後も……何人か、逃げ惑っていた他種族を回収したんです」

「うん」

「その中に魔族……正確には淫魔サキュバスがいましてね?」

「ほうほう」

「…………今日、彼らがいる《箱庭》に顔を出したら……なんか、凄いことになってて……。それはもう、ぐっちゃぐちゃでっ……!」


 顔を真っ赤にして叫ぶアルフォンスに、何が起きたのかを察した。明言化しなかったけれど、淫魔が関わってるというだけで理解できてしまった。

 カルディアは〝あ〜〟という顔をして、顔を両手で覆って叫ぶアルフォンスを見る。


「もうアレ!! どうしたらいいかが分からなくて!! 淫魔なら淫魔のことを!! どうにかできるかなって!!」

「……あ〜、うん。アルには荷が重かったんだね。うん」

「助けてください、お嬢様ぁぁぁぁ……!!」


 ピャーピャー仔供のように喚くアルフォンスに、カルディアはちょっと同情した。なんか幼児退行化するぐらいには凄い状況だったらしい。言葉にするのが憚られるぐらいには、アレな感じの。

 だが、多分それは不可抗力だったのだろう。淫魔が生きるためには精気が必要不可欠。今まで逃げ続ける毎日毎日ではまともに精気を摂取する機会もなく、いつも気を張り詰めて生活していただろうからそれどころじゃなかっただけで。

 竜の庇護下に入ったことで緊張の糸が切れて。足らない栄養(精気)を求めて本能が暴走──結果、催淫が撒き散らかされて、とんでもないことになってしまっているのだと思われた。

 とにもかくにも。ソファに座った自身の膝に顔を埋めて呻くアルフォンスの頭を撫でながら、カルディアは考える。


(……確か、兄様のとこにいた気がするなぁ? 双子の淫魔。また兄様のとこから借りてくるべきかなぁ〜…………って、そういえば……。前回マキナ君に手伝ってもらった時……)


 ふと、思い出す。

 そういえば……屋敷を案内してくれた子が、〝必要になったら呼んでくださいね〟と言っていたな、と。


「アル。アルを助けてくれそうなヒト、いたよ」

「……います??」

「呼んでみる?」

「お願いしますぅ……」


 パチンッと指を鳴らすと、《ゲート》が開いた。

 相手の都合を考えない行動だったが、どういう訳だが。向こうは準備万端だったらしい。

 金髪に金色混じりの碧眼の美青年と、この間は会った金髪碧眼の少女が。ニコニコと笑いながら、こちらが何かを言う前に《ゲート》を通って来る。


「こんにちは、カルディア様。お久しぶりです」

「こんにちは! この間ぶりです!」

「…………」

「カルディア様?」


 青年が首を傾げながら、界竜の名を呼ぶ。

 それでハッと我に返ったカルディアはギョッとしながら、淫魔であったはずの彼の目を指差して、思いっきり叫んだ。


「えっ、ちょっ、淫魔君!? 君、目ぇ、金色!? 竜の血混じってる!?」

「あ〜……そういえば、ご存知なかったでしたっけ。どうやら俺、淫魔と竜の混血ハーフだったみたいです」

「っていうかオネエ言葉ですらなくなってる!?!?」

「かな〜り前に卒業したので。アリスのおかげです」

「えっへん!」

「うっわぁ〜……兄様といいマキナ君といい……誰も彼も変わり過ぎじゃない!? ついてけないよ!!」


 思わず叫んだカルディアに、彼らはクスクスと笑う。

 それから困惑したように主人と来訪者を見るアルフォンスに向かって、恭しく一礼を披露した。


「初めまして、この世界最後の竜様。わたしはエイス。異なる世界出身の、毒竜の血を引く淫魔です。そしてこちらは──」

「アリスはアリスというのですよ! 過去、現在、未来、ありと凡ゆることを知る《全知》の力を持つ堕天使なのです! どうぞよろしくです!」

「《全知》ぃ!?!?」


 アルフォンスではなくカルディアの方が驚いた声をあげた。

 それも仕方なかった。だって、《全知》だ。この少女はその力によって森羅万象──()()()()()()()()のだ。

 面白いことが好きなカルディアにとって、《全知》の保有者はとても興味深い存在であって……。それと同時に、酷くつまらない存在だとも、思う。

 だって──……。


「界竜様のお気持ちも分かるのです。面白いことを好む界竜様は、全てを分かってしまうなんて……そんなことつまらないと思いますものね?」

「…………心の声も分かっちゃうの?」

「ぜ〜んぶ分かっちゃうですよ。でも、安心して欲しいのです。アリスはこの力を自分のためにしか使わないので。未来を誰かに教えるつもりも、ないです。だってそうしたら本当に……貴女様の不況を買ってしまうのでしょう?」


 〝その通り〜〟と心の中で思いながら、カルディアはアリスを見つめる。

 もし全てを先に教えられでもしたならば、カルディアは我慢できずにこの少女を殺すだろう。だって、何も分からないから面白いのに、全てを知ってしまっていたら()()()()()()()()ではないか。

 だから、この少女がつまらなくさせるつもりなら、容赦なく。彼女を殺すことに躊躇ためらいはない。

 …………そんなカルディアの本心が分かっているから、アリスは先に《全知》を自分のためにしか使わないと言ったのだろう。ある意味肝が据わっている。


「褒め言葉として受け取っておくですよ」


 また心の声を読まれて、それに答えられた。

 カルディアの顔が不満に歪む。


「……も〜。喰えな〜い奴だな〜!」

「仕方ないのです。これがアリスなので」

「はぁ〜……なんか話すの疲れてきた。分かってるなら説明はいらないよね? とにかく教育よろしく」


 アリスとの会話が嫌になったカルディアは、アルフォンスの《箱庭》に繋がる《ゲート》を開いて、犬猫を追い払うかのように二人に向かってしっしっと手を払う。

 エイスは「では、行って参ります」と丁寧に挨拶をし、アリスは「三週間後にお迎えよろしくです。あっ、他種族を送るのは良いですけど、最後の竜様はその間はこの《箱庭》に顔を出さないでくださいね!」と言い残して《ゲート》に消えていく。二人が完全に潜り切ったのを確認してから、カルディアは《ゲート》を閉じる。

 それから心底不服そうな顔をしながら。大きな溜息を零すのだった。


「お、お嬢様……大丈夫でしょうか? あの二人に、任せてしまって」

「まぁ、さっきの淫魔君は昔馴染みだから大丈夫だと思うよ。あの堕天使は何するか分からないけど」

「…………僕の駒に、余計なことしないですかね?」


 ──きゅるりっ。

 アルフォンスの瞳孔が狭まり、《ゲート》があったところを睨みつける。

 竜らしく自分本位な考えをするようになった彼に、カルディアは「あはっ」と、楽しそうに笑った。


「大丈夫じゃない? 何か余計なことをしようもんなら……私が黙ってないって。《全知》を持ってるなら分かるだろうからさ?」

「…………だと良いんですけど」


 不安そうな様子を隠さないアルフォンスは、駒に何かをされることを恐れている。

 正確には──自分の復讐劇に利用できるよう。都合良く育てていた駒に、復讐劇が頓挫してしまうような、下手な細工をされないかと不安を抱いているのだ。


「心配?」

「……三週間、顔を出すなと言われたので」

「まぁ、それだけの間、自分の駒をタニンに預けるってなったら心配になるだろうけど……きっと大丈夫だよ。アルの復讐を私は楽しみにしてるからね。それを邪魔するなら本当に私、黙ってないよ? 誓ってあげる」

「……お嬢様の言葉は、信じられます。でも、わたしだけ……」

「う〜ん……多分、淫魔的な解決方法をするからじゃない? アル、もう既にかなり動揺してたみたいだし。解決方法はもっと過激だろうから……初心なアルは見ない方がいいって判断になったんじゃない? 多分だけど」

「…………どんな解決方法ですかっ!!」

「淫魔的な解決方法だよ〜。言葉には出しにくい感じのね」



 そう言われると反論しにくいらしい。彼は本当に悔しそうな顔をして、押し黙った。

 勿論、アルフォンスの心配は杞憂に終わる。

 それどころか……何故か堕天使の手腕でエルフ達は斥候に。獣人達は戦士に。魔族──は各種族特性に合わせた立派な間諜にまで育て上げられていたのだから、なんか唸るしかなかった。


 しかし、それを知るのは三週間後のこと。


 今はただアルフォンスは不安がるしかなく。

 そんな彼をカルディアは「多分大丈夫だよ〜」と無責任な言葉で、励まし続けるのだった。





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