番外編 遠い邪竜の《箱庭》で、堕天使と淫魔は語り合う。
本日二話目。
読まなくても大丈夫な、設定説明回。
説明役に最適(?)な同シリーズ他作品のキャラが今話の担当になりました。
どうぞよろしく。
「はわ〜! はわ〜! 凄いですー!」
邪竜の《箱庭》にある庭園で日向ぼっこしていた金髪碧眼の少女──堕天使のアリスが、唐突にそんなことを言う。
彼女の隣でだらぁ〜んっと寝っ転がっていた金髪に、金色混じりの碧眼の青年──淫魔と毒竜のハーフであるエイスは……興奮する少女に向かって心底不思議そうにしながら問いかけた。
「アリス? どうしたんだ? そんなに興奮して……何が凄いんだ?」
「あのですね? あのですね? カルディア様が異界の竜さんを眷属化したのです! 凄いですよー!」
「…………うん?」
「あっ。よく分かってないですね? でしたら、このアリスちゃんが解説するのです!」
──ドヤァ!
……という効果音が似合いそうなほどに胸を張るアリス。見た目十五歳、実年齢ざっと百歳以上。
なのに未だに幼さ全開のその姿ではあるが、全てを知ることができる特別な能力を持つ堕天使は……ついこの間会ったばかりの《渡界の界竜》が異界の竜を眷属にしたその凄さを説明するのであった。
「竜は基本的に、世界が違おうがなんだろうが支配する側の存在なのです。種としての強者であるのです」
「そうだろうなぁ」
先もいったがこのエイスという青年は淫魔の血だけではなく、毒竜の血も引いている。
しかし、半分の血しか引いていない自分でも、国を容易く滅ぼせるというのだから……それが完全なる竜ならばどうであるか──?
そんなの、想像に容易い。
ゆえに、竜という種がどれほどの強者であるか。彼はそれを身を以て知っていた。
「そんな竜が眷属──僕として従うなんて、本能が許容するはずないのですよ?」
眷属関係は、言わば主従関係を契約を基により強固な関係したモノだ。
主人は僕に力を与え、守る義務があり。僕は主人に忠誠を誓い、絶対に裏切ってはいけなくなる。それを破れば只では済まない。
そして、竜は基本的に主人側の存在だ。竜でありながら下僕に成り下がるなど、本能が許すはずがない。
そう説明を受けたエイスは「成る程なぁ……」と納得したように頷いた。
「だから、マキナ様はラグナ様の配下ではあれど眷属ではなかったのか」
「そもそも竜なのに主人に尽くしたいなんて思うマキナ様は特殊な例外なのです」
「ん? じゃあ俺は?」
「んぅ? エイス?」
「俺も竜の血を半分引いてるけど、ラグナ様の眷属だぞ?」
ふと疑問に思ったのだろう。
竜の血が僕になることを許容しないというのなら、竜の血を半分引いている自分は何故眷属なのだろうかと。
アリスはその質問に、分かりやすく答える。
「竜の血が半分だからこそ、と言うべきですかね? 純血の竜ではないからこそ、本能の抵抗力も低く。当時のエイス自身も、ラグナ様の配下へ降ることを良しとしていたので……上手くいった感じです。後、淫魔は専ら隷属する側の種族なので。その影響もあるかも?」
「…………あ〜。つまり、俺も特殊例だってこと?」
「ですです! もしエイスが純血の竜だったら、穴という穴から血を出して、血反吐を吐いて、激痛に苦しむぐらい本能が抵抗すると思うですよ? カルディア様が眷属にした竜さんがそうなったみたいに!」
「うっわ……そうなんだ……(竜同士の眷属化ってそんな物騒なのか……淫魔の血が混じっててよかった……)」
そこまで竜の本能が隷属することに抵抗することを知れば、そうならなくて良かったと思わずにはいられない。本当に、ハーフで良かったと思う。
「カルディア様の眷属になった竜は災難だったな、そんな痛い目に遭って」
「ん〜? でも、マキナ様の教育のおかげで精神的には下僕根性が付いてたんで、幾分かマシだったみたいですよ?」
「げ、下僕根性……」
「それに、眷属化は避けない方がいい過程でしたから。どちらにせよ仕方ないかと」
過去も、現在も、未来も。この世界のことも違う世界のことも。ありと凡ゆる全てを識る特別な能力──《全知》を有する堕天使は、クスクスと笑う。
どうやら彼女が識っている最良の未来に辿り着くには、眷属化は必要な過程だったらしい。
…………痛みを伴う先にある《渡界の界竜》達の物語は……一体どんな結末を迎えるのやら?
確実なのはただ一つ。
狂った竜が関わった以上──。
この物語は〝幸せで(が)終わる〟で、終わることだろう。




