幕間 担当教員の期待は、純粋で。
本日二話目。
学園の教師であるミゲル・レイヴンズは、自身が受け持つクラスの生徒──ケイトリン・マジェット公爵令嬢の専属侍従から申し込みされた免除試験に、目を丸くした。
「マジェット嬢が免除試験を? それ別に、構わないんですけど……あの、これは本気で?」
ミゲルはその濃紺色の髪を掻きながら、困惑している。
それもそうだろう。確かに免除試験を申し出る生徒は何人かいるが……〝全ての授業〟の免除試験を受けようとするなんて、生徒は今までいなかった。
前代未聞のことだったのだから、彼が困惑するのも当然だった。
しかし、アルバートのフリをしたアルフォンスはにっこりと笑って頷いた。
「えぇ。お嬢様は未来の国母として幼い頃から厳しい教育を受けてまいりました。ですので一度学んだことを再び学ぶのは時間が勿体無いと……。授業免除制度を受けて、空いた時間をこの国のために役立つ研究や人脈作りに使い、貢献できればと仰ってまして」
「おぉ……!」
「それに、免除試験を受けることで、未来の王太子妃としてきちんと学んでいる姿を生徒達に見せて信頼してもらえればとも」
「成る程……。確かに免除試験は通常の試験よりも難しいですから。それに合格したとなれば、その優秀さは保証されたも同然。そうなれば確かに、未来の国母に対する信頼に繋がるかと思います」
「えぇ、そうでしょう?」
キラキラと目を輝かせて感激するミゲルの姿は、どうにも教師に見えない。
童顔なのも相まって、余計にそう見えてしまう。
「ですので是非、全ての免除試験を受けさせてくださればと」
「えぇ、えぇ。分かりました! 授業免除試験を受けれるよう、手続きを進めますね!」
ミゲルは完全にケイトリンが将来のことを。国のことを考えて、免除試験を受けようとしていると勘違いしたらしい。
満面の笑顔で、試験を受けることを了承した。
「一応、こちらの冊子を渡しておきますね。免除試験を受けるに当たっての諸注意です」
「ありがとうございます。お嬢様にお渡ししておきますね」
「よろしくお願いします。それで……いつから試験を受けますか?」
「可能であれば最短で、と」
「でしたら……うん。明日から受けれますよ。どうしますか?」
「承知しました。そのようにお願いいたします。……では、失礼しますね」
職員室から退出する彼を見送って、ミゲルは早速免除試験の準備を始める。
校長に報告し、各教科の教員達に伝達をしなくては。
(もしも全教科免除となれば……マジェット嬢の評価はこの上なく高まることでしょう……! 彼女には是非、合格してもらいたいものです……!)
ミゲルは未来の国母への期待を抱きながら、そう心の中で呟いた。