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竜教育計画そのさん。力の使い方を教えましょう。/竜裏教育計画そのさん。外部に頼むのも一つの手です。


同シリーズ他作品を読んでる方だと、キャラの性格変わってない?と思うかもしれませんが……。

そういう仕様ですので、ご理解ください。


 




 ──ずっと、戦い続けている。



「はい、おっそい」


 腕を振るった。

 でも簡単に避けられて、膝蹴りを打ち込まれて気絶した。


「防御もしっかりしようね」


 ぺたりと、鱗に触れるだけ。

 けれどズゥンッと、全身に響くような衝撃が走って意識を失った。


「いい加減、そろそろ魔法を使うことも意識しようよ。なんのために魔法術式教えたと?」


 確かに、魔法の発動の仕方は教わったが。

 彼女の説明は感覚的過ぎて、上手く活かせない。


 けれど、少しずつ。少しずつ。

 自分の動きが洗練されていっていることに気づいていた。

 昨日一昨日できなかったことが、今日はできている。

 攻撃を受けても直ぐに立て直して、反撃に出れている。

 そして、ついに──……。


『ギャウッ』

「!」


 ──ザシュッ!

 鋭く突き出した尾の攻撃が、その白い頬に傷をつけた。

 ぱっくりと避けた裂傷から、たらりっと赤い血が流れる。


「……………」


 彼女は親指でその傷を拭い、赤く染まった指先を見つめた。

 次の瞬間にはその傷は消え去り。残されたのは獰猛に笑う……ヒトの姿をした竜だけ。


「よく、ここまで成長したね」

『…………』


 何故だろう。褒められているはずなのに、背筋が凍りそうなぐらいに震えが止まらない。恐怖が止まらない。


「そろそろ、もう一段階、あげてみようか?」


 そう言って笑う彼女の腕が、パキパキと鱗に覆われていく。

 一部分だけ竜化させたカルディアの攻撃は。さっきとは比べ物にならないぐらい強く、速く、鋭くなっていて。

 先ほどの攻撃が嘘のように、またついていけなくなる。


「あっ。言っておくけど……これに慣れたらどんどん竜化させる部分を増やしていくから。完全に竜型になった私と戦えるようになってもらうから。頑張ってね?」


 そして、そう告げるカルディアの言葉を聞いて……。



 ──竜は自身が死ぬことを、覚悟した。





 ◇◇◇◇◇




 今日も今日とてカルディアにボッコボコにされると思っていた竜は……先にその場に佇んでいた存在ヒトを見て、その分かりにくい竜の顔に困惑を滲ませていた。


「初めまして。わたしの名前はマキナ。《迷霧の幻竜》マキナと申します。本日より貴方の教育係を任されました。一端の竜かつ侍従になれるよう、容赦なく教育させていただく所存ですので。どうぞよろしくお願いいたしますね」


 いつもの荒野に立っていたのは、灰銀色の髪を持つ中性的な青年だった。皺一つない執事服に身を包み、恭しく一礼する。その瞳はよく見知った……金色。

 マキナによって用意された席に座ったカルディアは慇懃に微笑む幻竜と、ポカンッと固まる竜を交互に見て……ケラケラと面白そうに笑った。


『…………ギャウ』


 助けを求めるように竜が鳴く。

 〝コイツはなんだと。次はコイツと戦うのか〟、と問われる。問われたら答えるしかない。

 カルディアはテーブルの上に準備されていた紅茶を飲みながら、彼について説明する。


「さっき言ったように、彼はマキナ君って言うの。私の兄みたいに育ったヒトの部下?」


 このマキナという竜は、カルディアの故郷で兄妹のように育ったヒトの配下だ。昔馴染みとも言う。

 竜であるのに〝誰か〟に仕えるのを好む竜であるため、従者としての振る舞いを教えられるヒトと考えたら彼しか思い浮かばなかった。

 まぁそれなりに渋られはしたが、なんとか了承してもらい、こうして今に至る。


「マキナ君ほど従者の振る舞いに精通してる竜はいないからね。君への教育のお手伝いをお願いしたの」

「恐れ多いことでございます…………が。流石にこれはないと思います、カルディア様」

「ん?」


 くるりっ。

 マキナが信じられないと言わんばかりの顔でカルディアの方を向く。


「なんですか、彼は。言語は、言語! 後なんでいきなり戦うとかになるんです!? 脳筋か! これでは野生の竜、動物と変わらないではないですか!?」

「? 生き物は全て動物じゃない?」

「そういうことではありません! 教えるのが下手だとしましても、これはもうちょっとやりようがあったでしょう!? やりようが!」

「そんなことないよ! 私なりにちゃんと教えてたもの! 竜としての戦い方!」

「なんで先に戦い方になるんですか! だからいきなり脳筋発言……! 教える順番が間違ってるんですよ! 先に知識を教えてください、知識を!」


 普段は冷静沈着で、声を荒げることも滅多にないクールなマキナが思わず怒鳴るぐらいなのだから……そうとう頭が痛い状況らしい。

 彼は眉間に寄った皺を揉みながら、竜に声をかけた。


「……仕方ありません。引き受けた以上はなんとしてでも完遂します。で? 貴方、名前は?」

『…………?』

「貴方の名前ですよ、名前」

『…………ギャウ?』


 ……。

 …………。

 マキナが固まる。

 そして、大きな声でカルディアを叱りつけた。


「カルディア様っ!! せめて名前ぐらいつけてあげてくださいよ!!」

「あ〜……そういえば名前、聞くの忘れてたし。付けるのも忘れてたね」


 カルディアの世界の竜にとって、名前は何よりも大事なモノであるが……竜の世界ではそうではなかったみたいなので、すっかり忘れていた。というか、カルディア自身が他人の前を滅多に覚えないから意識していなかったというのもあるのだが。

 とにかく、今後は竜に名前がないというのも困るだろう。


(えーっと……あの従者君の代わりにするんだから、略称が同じ方がいいよね。あの従者君の名前……なんだったっけ? アー……アー……アル……??)

「カルディア様?」

『ギャウ?』

「…………うん、〝アルフォンス〟にしよっか! 略称はアル!」

(何故でしょう……想像よりも立派な名前なのですが、何故か適当につけた気がしてならないのですが……)

『ギュウ?』

(そしてこっちはこっちで自分の名前がアルフォンスだと分かってないっ……!!)


 マキナは凄く頭が痛くなった。

 この教育に手を貸したら自身の主人と離れることになるからと渋りはしたが、今は引き受けて良かったと思う。

 こんな竜としての誇りも、矜持も、品格もない竜を放置するなんて。同じ竜としてできるはずがない。

 こんなの放っておいたら、他の竜への風評被害になってしまう。それだけは、絶対に、許し難い。

 それに……純粋に。カルディアだけにこの竜の教育させるのは、著しく。心の底から不安で不安で仕方ない。


「ふ、ふふふふっ……分かりました。えぇ、いいでしょう」


 沸々と湧き上がる感情に、マキナは笑った。金色の瞳はさっきよりもギラギラと輝き、その顔には物騒な笑みが浮かんでいる。

 しかし、これは。マキナが本気になった証左。


「伊達に他の眷属達や、元主人のご子息を育てていた訳ではありません。えぇ、我が命を賭けて……彼に竜としての相応しい品格を叩き込んでやりましょう」


 ゴキゴキと指を鳴らす。

 急にやる気全開になったマキナに、竜──アルフォンスはビクッと震える。

 カルディアと同じ。ヒトの姿を増した化物はゆっくりとアルフォンスに近づきながら……。



「まずはお勉強から、始めましょうか。アルフォンス」



 カルディアとは違う意味で地獄に叩き落とす言葉を、告げるのだった。





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