プロローグ I ──それは、少し先の未来の話
【注意】
読む人を選ぶ作品です。
人外主人公と人外ヒーローなので人間の倫理観で考えてはいけない感じの行動を取ります。
かなーり先に恋愛要素(多分)があったり。乙女ゲーム関連だったりしますが、基本的に狂気や復讐がメインテーマです。
苦手な人、無理って人はブラウザバックをお願いします。
それでも構わぬという方だけお読みください。
なお、これ単品でも楽しめるかと思われますが、一応『壊れた竜達の恋物語シリーズ』です。
他作品を読むと詳しい設定なんかが分かるかも??
それでは、よろしくどうぞm(_ _)m
『はぁっ……はぁっ……はぁっ……!』
小さな白い塊が、鬱蒼とした森をかけていく。
それはとても小さな竜だった。薄汚れ、傷ついた真っ白な鱗。金色の瞳。皮膜のような翼はボロボロになっていて……ヒューヒューと、空気が抜けるようなおかしい呼吸からして、今すぐに安静にすべき状態であった。
だが、それでも仔竜は逃げていた。足を止めることなんてできなかった。
「こっちだ! 血の跡が続いてる!」
「逃がすな! 公爵様の命令を違える訳にはいかないぞ!」
「追え追え追えっ!」
追手の声に恐怖を抱く。捕まる訳にはいかない。捕まったら、終わりだ。
両親が守ってくれたこの命を、散らすことになってしまう。
(お父さんっ……! お母、さんっ……!)
仔竜はあの日のことを思い出して。もう既に生きてはいないだろう両親を想って。
…………ポロリッと、一筋の涙を溢した。
この世界では竜や魔物、亜人という存在は人間種が魔法を使うための道具として狩られる定めにある。
竜なんて特に良い、最上級の素材だ。ゆえに、竜は遥か昔から乱獲され続け……ついにはこの竜を残すのみとなった。
つまり、この竜はこの世界最後の竜なのである。
しかし、それも後少しだけの話。仔竜の状態から見ても、捕まるのは時間の問題だった。
捕まればこの竜は殺され、魔道具の素材としてその心臓を抉り出され、人間のための道具として加工されることだろう。
両親が命懸けで逃してくれたこの命を。命をかけて守ってくれた命を。無に帰させてしまう。
そんなこと、したくない。何より仔竜自身が、死にたくない。
だから、仔竜はどれだけ身体が痛くても。動くことが辛くても。呼吸が苦しくても。足を止めようとはしなかった。
でも……。
世界はどこまでも、仔竜には残酷なようで。
「《拘束》ッ!」
『キュイッ!?』
遂に仔竜は……恐ろしい追っ手達に、捕まってしまうのだった。
「このクソ竜……よくもまぁ、ここまで逃げてくれたな……!」
「随分と、手間をかけさせてくれたわねっ……」
ぐしゃりっと地面に崩れた仔竜の後方から、三人の男と二人の女が姿を現す。
荒い呼吸に、怒りに満ちた顔。仔竜にここまで手を煩わさせられたことに憤りを覚えているらしい。
彼らは大きな舌打ちを溢すと、その仔竜を蹴り上げて木の幹へと勢いよく叩きつけた。
『キュウッ……!』
「まぁ、いい。とっとと殺そうぜ。公爵様がお待ちだ」
「りょーかい」
彼らが持っていた杖の先が向けられ、光が集まっていく。
仔竜はボロボロと涙を溢す。
こんなところで、こんな風に死ぬなんて。死にたくないのに、今すぐ逃げたいのに。どうしようも、できない。
『(お父、さん……お母……さ、ん……!)』
仔竜は目を瞑る。
これから襲ってくるであろう痛みと死を堪えようと、強く強く目を瞑る。
だから、見逃してしまったのだ。
彼らの背後に、〝それ〟が現れた瞬間を。
「もぉぉおっ! なんでそんなつまんない状況になってるのーっ!」
「「「…………は?」」」
──ザシュッ!! バタンッ……。
『…………?』
変な音がした。くるはずだった痛みがない。
恐る恐る目を開けた。そこにあったのは……崩れ落ちた、首無しの、死体。
「なぁに簡単に殺されそーになってんの!」
『キュイィッ……!』
いきなり首根っこを掴まれて、仔竜は悲鳴をあげた。
地面から足が離れる。視界に、それが映る。
「もぉぉ〜……竜の癖に人間風情にここまで追い込まれて〜! 情けないんだから〜!」
地を這うほどに長く伸びた若草色の髪。煌々と輝く金の瞳。彫刻のような均衡のとれた身体が纏うのは、身体のラインがよく分かるタイトな深緑色のドレス。
ゾッとするほどの美貌を誇る人型の〝化物〟は、にっこりと。その悍ましい気配に相応しい狂気に満ちた笑顔を浮かべた。
「ねぇ、小さい仔竜さん? こんなところで簡単に死なないで? 無抵抗で殺されるなんてつまらないことしないで? 貴方は竜なんだから! どうせ死ぬなら! 周りに災厄を振り撒くような! もっと私を楽しませてくれるような死に方をしてよ!」
…………この出会いが、全ての始まり。
運命を変える、出会い。
けれどそれを……この時の仔竜──アルフォンスは知る由もないのだった。