令和6年能登半島地震②
その避難所では、発電機からの電気をタコ足で繋げてスマホを何台も充電していた。
「スマホ充電させて貰っていいですか?」
「ああ、どうぞここ空いてるわ」
親戚のОさんは人あたりが良くて、話しやすかった。
ちなみに3歳くらい上の男性である。
Оさんの家は地盤が強く、皿が少し落ちただけの被害だったとの事。
地盤の強さで、揺れがかなり違うらしい。
「震度6弱なんて絶対嘘ですよね。」
と自分。
「うん、みんな言ってるわ。多分、震度計設置した場所の地盤が強いんやわ」
「ああーなるほど、納得しました」
地盤って大事ね。
「自衛隊はいつくるんですかね?」
「多分もうすぐ来るよ」
「まじですか?」
「うん、あの人ら徹夜で来るからね。大抵3日位で来るよ」
「え、この道路状況でも来ますかね?」
「徹夜で道路工事しながら来るよ。交代しながら」
「自衛隊、そんなことまでするんですね」
「うん、部門ごとに分かれているからね。めっちゃ仕事早いよ。交代しながら徹夜でやるし」
「えー、めっちゃ優秀ですね。自衛隊、国の宝やわ」
自衛隊の優秀さを懇々と説明され、心が軽くなる。
早く来てくれないかな。治安的にも自衛隊が近くに居ると思うと心強い。
県外ナンバーのハイ○ース3台に乗り、2人組とか3人組とかの男女が窃盗やら、
誘拐、レ○○など犯罪行為をしているという情報が、LINEで知り合いから送られていたので。
「なんか給水来るらしいですよ」
「あ、本当?ここに?」
「ええ、18時頃の予定で。時間通りには多分来れないと思いますが」
給水車を待つ。普段ミネラルウォーターなんて買わないし備蓄がない。
深層水なら前は買ってたけど。
暫くОさんと喋ってたら、工事用のヘルメットを被ったガタイのいいあんちゃんが来た。
時々Оさんとの話に共感して頷いたり、感じのいいあんちゃんだと思った。
そのあんちゃんが
「珠洲や輪島の方は酷いです。壊滅状態ですよ。鵜飼の方も壊滅状態です」
「そうなんですか?」
「はい、珠洲の方の現場に行ってましたから」
鵜飼も壊滅状態なのか……珠洲だからな。でも震源からは少し離れているのに。
地盤なのか、津波なのか、それだけとんでもない揺れだったという事か。
「給水来るらしいですよ」
と言うと
「本当ですか!? うち、子供にミルクを飲ませたいんですけど水が無くて」
と言う。
本人も朝からろくに食べてないらしい。
避難所ではストーブの上に鍋を置いて、その地区の人達が時々そのお湯を飲んでいた。
「事情を話して、貰えばいいんじゃない?」
とОさん。俺も同意する。
「いやー。俺、ここの生まれじゃないんで、あ、でもここの○△さんの娘さんと
結婚してるんですよ」
「え?それならいいんじゃない?」
「いやー。言えないですよ」
とあんちゃん。
「多分事情を話せばくれますよ」
と俺。
しかし、いや言えないですと、あんちゃん。堂々巡りだ。
俺が言ってあげたいけど、ここの地区じゃないしな……。
仕方ないので、給水を待つ事に。
しかし、時間は18時どころか20時になり。
「遅いですね……」
と言ってたら余震が来て、揺れた。
TVで速報されるが、メガネを車に置いてきて震度が見えない。
「今の震度いくつですかね?」
と他の人に聞いてみたけど、分からないと言う。
TVに近づいて目を凝らしてみると、震度4と表示されていた。
今頃家でローソク使ってるだろうな、と心配になり一旦家へ帰る事にした。
家に帰ると、やはりローソクを使っていたけど大丈夫そうだった。
そうだ、来たついでに給水車が来ているか見てくるか。
と思っていると、消防車が回って来て、給水車が来たと拡声器で知らせて行った。
避難所へ再び戻って、給水車が来た事を告げる。
「え、ほんと?」
「ええ、こっちに先に来るっていう話だったんですが。でも、多分もう少ししたら来ますよ」
しかし21時になっても来ない……おかしい。
と思っていると消防車が来た。お、ようやく来たか。
消防団の方々が中に入って来て
「あれ?給水車来てない?」
と言う。
給水車が行方不明だとの事。嘘やろ……。
何かの手違いで、別の場所へ給水に行ったようだ。
そのあんちゃんは帰ると言う。
自分も諦めて帰ることにした。
家に帰り、後からあーやっぱ、事情を話してその赤ちゃんのミルクの分だけでも
避難所で貰えば良かった……と後悔した。
1月四日。
消防車が回って来て、給水車が来ると知らせて行った。
行かねば。
焼酎の4ℓ容器2本を持って向かった。
空の容器が沢山置いてあって、別に何人も並んでいる。
貰えるのは、1家族2ℓだという。
何故か空の容器から先に給水している。
容器には名前が書いてあるのだが、何故か苗字だけの容器が多い。
そして同じ苗字が多い。主に2つ。
確かにその苗字は多いんだけど……少し疑ってしまう。
それでも自分の番になり、
「4ℓの容器なんで、半分くらいで」
と分かりやすいように言ったのだが、あれ? 多くね?
「はい」
と9割近くまで入った容器を渡された。
「え? 多くないですか?」
と言ったら隣の人が
「いいがいね(いいじゃないですか)」
と言うので
「ありがとうございます」
と頂いてきた。良く見たら給水してくれたの、同じ小学校の先輩だった。
消防団に入っていて、昨日の事があるから多めに入れてくれたんだろうか?
家に帰り、その水を神棚と仏壇に供える。ようやく供えられた。
頂いた水を大切に、川水と併用しながら使った。感謝。