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老いた賢者

作者: 草鹿午午

昔々、あるところに。幸せを願い者がおりました。

 昔々、あるところに。小さな少年が住んでいました。

 いつも空を見ながら畑を耕す、そんな普通の、少し小さなだけの少年でした。


 ある日、畑を見ていると、小さなネズミが走りました。

 畑のものを齧られていたら大変です。

 少年はすぐさま畑に飛び込み、小さな黒いネズミを捕まえました。


「待った、待った、待ってくれ。僕は悪いネズミじゃない。」


 手のひらの中で、黒いネズミはしゃべります。


「なんでも一つ願いを叶えてあげよう。そうすれば、すぐにこの畑から、この村からも出ようじゃないか」


 少年は悩みます。

 だって、ずっと畑を耕していたから。

 そんなことを言われても、急に畑が育っても困ります。

 空を見ながら考えていると、クロネズミがいいます。


「空を見ていたいのかい?

 なら毎年寿命を延ばしてあげよう。

 一年老いても、一年寿命が延びれば、いつまでも空を見ていられるさ」


 少年は、何か願うこともなかったので、寿命を伸ばすように頼みました。

 すると黒ネズミは手のひらから抜け出し、腕の後ろに隠れると、どこかへ消えてしまいました。


 慌てて探しても、畑のどこにもネズミはいません。

 少年は仕方なく、どこも齧られていないか、畑のものを確認しました。




 畑を耕して、おいしいものを育てて、食べて。

 何年もそうして、大きな大人になって、お嫁さんもできて、子供もできて。

 子供に畑を教えながら、お手本のように畑を耕して、おいしいものを育てて、食べて。


 クマもイノシシも、鹿も羊も、畑から追い出して。

 子供も結婚して、孫ができて、孫にも畑を教えました。

 クマの嫌いなもの、イノシシの捕まえ方、シカの驚かせ方、羊の追い払い方。

 フクロウのこない匂い、猫を追い払うもの、蛇の倒し方。


 ある日、おばあさんになったお嫁さんと一緒に、ふと自分も()()()と感じます。


 結局、あのネズミも嘘つきだったのかな、なんて思いながら、孫の末っ子にも畑を教えました。




 おじいさんになっても、ずっと畑を教える彼は、いつしか他の村でも噂になりました。

 貧しい家にも畑を教えて、時々貧しい街にも教えます。

 体が動かなくなって、馬車に乗るようになっても、おばあさんが死んで、孫の子供、ひ孫ができて、子供が死んでも、いつまでもお爺さんは死にません。


 ある日、おじいさんは気が付きました。

 あのネズミの願いは、一年若返るのでも、一年老いなくなるのでも、一年若いままでもありません。

 老いても、おじいさんになっても、どんなに体が痛くて、動けなくなっても、ずっと、願った時のまま、寿命は遠いままなのです。

 もし、あの若い日に寿命が50年あったなら、50歳の時も100歳まで生きますし、100歳の時も150歳まで生きますし、150歳の時も200歳まで生きますし、200歳の時も150歳まで生きます。

 たとえ、1000歳まで生きても、1050歳まで生きますし、20000歳まで生きても、20050歳まで生きて、ずっとずっと、300050(さんじゅうまんごじゅ)(っさい)まで、4000050(よんひゃくまんごじゅ)(っさい)まで生き続けるのです。



 孫が死んで、ひいひい孫ができて、ひ孫が死んで、ひいひいひい孫ができた時。

 クロネズミが現れました。


「やあ、元気そうだね。幸せに暮らしているようで何よりだ。」


 おじいさんは捕まえようとしますが、体は指一本動かず、ネズミはひょいっと目の前に登ってきます。


「そうだよ。君は老い続けるけど、死ぬことはない。

 でも、いいじゃないか。君は幸せに暮らせるんだ。」


 恋人も、子供も、孫が死んでも、それが幸せだとネズミは言います。


「だって、君は幸せに生きているだろう?家族もいる。

 いいじゃないか。」


 友達が死んでも、他人が死んでも、生きているなら幸せだと、それは言います。


「幸せだろう?だって、いつまでも暮らしているんだから。違うのかい?」


 おじいさんはもう喋れませんが、しかし決して、それは良いものではないのです。

 少なくとも、200年も生きられない人間には。


(わけ)()からないよ。それが幸せじゃないなら、どうして「いつまでも幸せに暮らしました」だなんて言うんだい?」


 その過ちを、もうおじいさんはどうにもできません。



 ネズミが去っていくと、おじいさんは昔畑を教えた街の兵士の孫に、自分を殺すように頼みました。

 寿命があっても、殺されてしまえば、事故で死んでしまえば、死ぬからです。










 昔々、あるところに。人魚のお姫様が泳いでいました。

 腕の中には王子様が。

 人魚姫は、人間の王子が溺れないように抱えていました。


「ハハッ、僕と契約して、幸福になって(義務を果たして)よ!」


 例え恩人を悪者にしても、無関係な人を悪者にしても、人を笑顔にできなくても、天国へ行けなくても。いつまでもいつまでも、幸せに暮らせばそれが良いと、その黒い、赤いパンツの、白い前足の靴下と、黄色い靴を履くネズミは、そう思っていました。









 昔々、あるところに。人魚の肉を食べれば不老不死になると、伝わっていました。


         ーーー続くーーー
















         ーーー終わらないーーー




ありもしないことで悪者にする、そんなものが、人気なはずがないでしょう。


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