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悲哀、絶望、狂気

狂気はうねりにうねって人に伝播していく。この狂気はもはや誰にも止められない…

 1938年4月26日、彼に戦争以外の新たな道を教えてやるため、ドイツ第三帝国はベルギーに戦線布告。ベルギーは即座にイギリス、フランスが主導国となっている連合国に加盟。ドイツの度重なる侵略行為にしびれを切らした「英・仏」がドイツに宣戦布告したことにより、第二次世界大戦が本格的に開始した。


 開戦と同時にグデーリアン率いるドイツ中戦車師団16個師団16万人がベルギーに向けて進軍を開始。ベルギーは30個師団30万人もの大軍でドイツを迎えたが、それは小銃一つを渡された新兵であり、歴戦の戦車部隊には敵わなかった。そのためベルギー軍はドイツ軍の快進撃を止められず、開戦からわずか1週間で全面降伏。救援に向かおうとしていたフランス軍はドイツ軍のあまりの進撃速度に驚愕し、慌ててフランス本国に逃げ帰った。


 続いてドイツ軍はフランスに進軍を開始した。南はスペインからマンシュタイン将軍が引き連れる精鋭歩兵師団が、北からはベルギーを破壊して破竹の勢いのドイツ機甲師団が。フランスの運命は最初から決まっていた。開戦からおよそ1ヶ月後の1938年5月24日、フランスは南北から挟み込まれるように攻撃を受け、フランスの首都であるパリが陥落。フランスはその後もブレストを臨時首都として抵抗を続けようとした。しかし…


 「どうだ、フランス戦線の方は」


 ヒトラーが側近に現在の状況を尋ねる。それに対し側近は、


 「はい。ベルギーが予想以上に早く降伏したため、フランス軍の指揮系統が一部混乱。その隙突いてドイツ軍が攻撃を開始。連戦連勝でフランスのパリを落としました」


 側近の答えを聞いたヒトラーの顔に笑顔がともる。実はフランス軍は数年前から密かに軍拡を続けていたためその軍事力は強力であり、正直なところ、フランス軍がマジノ線と呼ばれるドイツとフランスの領土が接している部分にある要塞を利用してベルギー方面からベルギー軍と同時にドイツ軍に攻撃を仕掛けていれば、こちらが敗北する可能性もあった。彼は博打に勝ったのだ。


 「それは結構。早急にフランスを降伏させ、即座にイギリス空軍との戦闘を開始せよ」


 ヒトラーが命令を発した瞬間、入ってきたその情報によって彼は再び国をかけた博打をしなければならないことになる…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「…情報を整理する。元々連合国に加盟していたフランスだったがパリが陥落したことによって戦意を喪失。降伏に舵を切ろうとした政府達にドゴール率いるフランス軍が政府を攻撃し、軍事政権が樹立。フランスのいいなりになっていたユーゴスラビアを巻き込み新陣営である「フランス連合」を形成し、我々枢軸国と休戦を模索しようとしていたところ、ユーゴスラビア軍が独断で我々ドイツ第三帝国に戦線布告。現在我々は連合国、フランス連合の2カ国と戦っている、というわけか」


 ヒトラーの回答に幹部達が重々しくうなずく。この事態はドイツにしてもユーゴスラビア政府にしても寝耳に水だったため、戦争状態であるのにもかかわらず、両国の国境線に兵が1人もいない異様な事態が発生していた。


 「致し方ない。即席ではあるが対イギリスのために用意していた空挺兵師団(輸送機を用いて、空からパラシュートを展開して敵国の領土を侵略する師団。敵国が島国であり、敵国の港を獲得したい際に主に用いられる)をユーゴスラビア戦線に割り当てろ。時間稼ぎくらいはできるだろう。その間に我々は総力を挙げてフランスを降伏させにかかる」


 ヒトラーの意見に将軍全員がうなずく。そしてフランス戦のために行動し始めたその瞬間、事件は起きた。


 「伝令です!チェコスロヴァキア政府が秘密裏に連合国に加盟していた模様であり、ギリシャ、ユーゴスラビアを経由してフランス、イギリス機甲師団計15個師団12万人程がチェコスロヴァキア内で展開。先ほどチェコスロヴァキア軍40個師団40万人、イギリス・フランス機甲師団15個師団の合計55個師団52万人がドイツ第三帝国に向けて進軍し始めました!」


 お互いの首元にナイフを突きつけた戦いが始まったのである。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「なんと言うことだ…ギリシャの動向に目を向け損ねたのか…」


 ヒトラーが顔面蒼白な表情で言葉をこぼす。現在ドイツ本国には防衛師団が20個師団20万人ほどしか存在せず、その情報が筒抜けであったのか、連日チェコスロヴァキアの攻撃が続いていた。戦線は至る所で崩壊し、ドイツ軍は連戦連敗。戦場での士気は著しく下がり、敵に背中を向けて逃げる部隊も現れ始める始末であった。チェコスロヴァキア軍はベルリンのすぐそこまで迫っていたのである。しかし、既にこの時パリは陥落しており、南と北で更に挟撃すればフランス本国は降伏に持ち込める状況であった。


 ヒトラーの性格が史実のようであればベルリンを守り通そうとするあまりにフランス侵攻が疎かになり、フランスを降伏させることはできなかっただろう。しかし、彼の存在が、ここでの運命をねじ曲げた。


 「…この美しいベルリンが敵の手に渡ることなどあってはならない。偉大なるアーリア人が敵に背を向けて逃げることなどあってはならない。なぜなら我々は神に選ばれた偉大なるアーリア人だからだ…


 しかし今はそんなことを気にしている余裕はない!ベルリンが落ち、私の身がどうなろうとも、たとえ後世に『子供一人のために国を売った愚か者』と評されようとも、あいつだけは何としてでも守り通す!後のドイツを担う人材を失うわけにはいかないのだ!」


 そうヒトラーは叫び、新たな指示を出す。


 「緊急の指令を出す。現在侵攻中の機甲師団並びに歩兵師団はそのまま攻撃を続行。そして残りの歩兵師団に加え、訓練途中であった歩兵師団と機甲師団4個師団ずつ、トラック師団12個師団の計20個師団20万人は緊急でチェコスロヴァキアに向かい、一秒でも長く本土の防衛を維持せよ。フランスが降伏するまでこちらが耐え抜ければこちらの勝利だ!」


 ヒトラーの咆哮に将軍達はうなずく。偉大なるドイツ、その面影がこの時見えた。


 ベルギーが降伏した後のドイツ軍の動きは素早いものだった。機甲師団と歩兵師団は鬼の形相でフランス内部に食い込み、例え真横にいた同胞が倒れようとも一瞥することすらせずひたすらに前進した。何人撃ち殺されようともひるむことなく進み続けるドイツ軍はさながら黒い津波のようであり、その津波に襲われる感覚に陥ったフランス軍はこの時辺りから小銃でまともに敵を狙えなくなり、戦闘能力は落ちることとなる。結局戦況は好転せず自由フランスは1938年6月29日に全面降伏を宣言。時を同じくして数的に有利であったはずのユーゴスラビア軍も、何としてでも母国を守り通すと決意したドイツ軍の命を捨てた猛攻撃に押し返され、各地で分断され包囲殲滅を食らい続け国土をどんどん喪失し、これ以上抵抗しても意味が無いことを悟り全面降伏。フランス軍の海軍力を枢軸国のものにするためドイツの傀儡国であるヴィシーフランスを建国し、そのほかのフランスの領土全てとユーゴスラビアのほぼ全てがドイツの一部となった。


 続いて即座にフランスの航空基地に戦闘機を配備、二次大戦開始前から量産していた航空機を全て投入し、制空権を奪った上で1938年7月5日にグレーターロンドン、サセックスに空挺兵が降り立った。その後即座に中戦車師団を海上輸送し、戦線を張ることに成功した機甲師団の攻撃の前にイギリス軍は手も足も出ず、同年7月14日、ロンドンが陥落した。その後イギリスは首都をひたすら北に移したがそのたびにドイツ軍に蹂躙され、イギリス本土の8割が占領されたとき、モズレー率いる帝政イギリスを掲げるファシスト国がイギリス北部でクーデターを実行。北部にいた政府司令官室を攻撃し、壊滅させた。これによって指揮系統を失ったイギリス軍は蜘蛛の子を散らすように逃亡し始め、同年8月9日にイギリス含む連合国は無条件降伏した。


 講和会議で独壇場だったドイツはイギリスの国々を全て併合し、ジブラルタルに帝政イギリスを建国。扱いは属国である。またカナダは対アメリカ戦に必要ということから全土がドイツに併合され、チェコスロヴァキアはヒトラーの強い恨みにより女性のチェコスロヴァキア人を皆殺にし、男性のチェコスロヴァキア人の9割を収容所に輸送し、残り1割のみが爆撃機によって徹底的に破壊され尽くしたチェコスロヴァキア国内のみでの生活を許された。しかし、残りの1割の人々はドイツに殺された愛妻や仲間のことが頭から離れず後日集団自殺を決行。ここにチェコスロヴァキアという国は跡形もなく消え去った。しかし、ニュージーランドやオーストラリアといった細かな国々は連合国に加盟しながらも一切交戦しなかったことから降伏せず、今も連合国盟主となったポルトガルと共に戦闘を継続する構えを取った。しかし、連合国の主要国であったイギリスとフランスが降伏したため、連合国の戦力は一気に低下。劣勢に傾くこととなる。


 これにて講和会議が終了し、ドイツの新秩序が定まる…ハズだったのだが、本国に帰国したヒトラーが目にした光景は、想像を絶するものであった。何せ、元々存在していたルーマニア、ハンガリー、ギリシャ、ブルガリアの国土の9割がなくなっており、そこには青白い顔をしながら働くそれらの国民で溢れかえっていたのだから。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「なんだ…この光景は……」


 いくらヒトラーであったとしても眼前の光景はキツいものがあった。なにせそこら中にかの国々の人達の死体があったのだ。とても戦勝国のようには見えない。ドイツの本土が広がっている。そうであるのにも関わらず、ヒトラーの心は気持ちのいい物ではなかった。むしろ、恐怖で支配されていた。誰がこのようなむごいことをしたのか。ヒトラーの頭の中にはもう答えが出ていた。しかし、それを決して認めたくない自分がいた。自分の美学を捨ててまで、国を捨ててまで守ろうとした、戦争のなくなった将来を見せてやりたいと思い続けた小僧が、バルカン併合の号令を出したとは思いたくなかったのだ。


 「ポルトガル戦争に便乗してスウェーデン、バルト3国、トルコに攻め入る。スウェーデン攻略が終われば次はノルウェーとフィンランドだ。偉大なる大ドイツの建国はまだまだ終わらない。諸君達の健闘を祈る」


 私のかけ声に無言で返事を返す将軍達。なぜかその表情は悲しそうに見えたが、そんなことはどうでもいい。あの人が帰ってくるまでに、また頭をなでてもらうために、


 何トシテデモミトメテモラウタメニ。


 少しでも国土の拡張を行わないと。大丈夫。バルカンの国々を一部傀儡国にしたことによって人的資源はまだまだたくさんある。そいつらをどんどん消費して、更に工場の増築を行おう。


 戦争とも呼べない虐殺劇が始まった。1938年9月1日、ドイツ第三帝国はポルトガル、スウェーデン、バルト3国、トルコに宣戦布告。各地で戦闘が始まった。


 まずはマンシュタイン率いる歩兵師団24個師団がポルトガルに向けて一斉攻撃を開始。ポルトガルにいたわずか14個師団12万人は押しつぶされるように全方位から攻撃を加えられ、開戦からわずか1週間で降伏した。


 場所は北へ移動してスウェーデン戦、こちらは多少苦労した。何せ橋頭堡がないため海峡を陸上戦力で乗り越えなければならなかったからだ。勇敢にもドイツ機甲師団は輸送船に乗りながらスウェーデンの港に攻撃を加えたが、慣れない中での戦闘、主砲を一発撃てば輸送船がひっくり返るような環境、さらに自分たちが連合国の最期の砦なのだと自覚したスウェーデン兵達の死をいとわない攻撃によって、そのほとんどが有効な攻撃ではなく逆にこちらの被害が膨れ上がっていった。


 これによって海峡を挟んでの戦闘は困難と判断した私はイギリス戦の時に活躍した空挺部隊を呼び出し、スウェーデンの港が集中している南に投下した。港にはしっかりと警備隊がいたため空挺兵による制圧は失敗したが、無事に港のないところへ空挺兵8個師団8万人が着地。降り立った地点にある真横にあった港に進軍し、そこを警備する沿岸警備隊2個師団1万人との戦闘になった。沿岸警備隊はしっかり戦闘したが、さすがに自軍の8倍もの数には勝てず、港を明け渡す事となる。港を確保できたことを確認した私は機甲師団16個師団16万人のうち4個師団4万人を制圧した港へ輸送。輸送完了後にユトランド方面から海峡を挟んで戦闘している部隊に側面から奇襲を仕掛けた。


 既に現状の戦闘で手一杯だったスウェーデン軍は側面からの攻撃に対応できず、防衛していた8個師団を包囲、殲滅した。これによって海峡での戦闘が不可能になったことによってスウェーデン軍の士気は崩壊し、それまで完璧に統治されていた指揮系統に一瞬の陰りが見えた。それを見抜いた私は機甲師団16個師団16万人、トラック師団24個師団24万人の計40万人に総攻撃を指示。ついでに国境が接したノルウェーにも宣戦布告し、長いスウェーデン戦に終わりを告げさせた。平地になればスウェーデンに勝ち目はなく、友軍として駆けつけたフィンランド軍を轢き殺しながら機甲部隊は快速に進軍し、ついに1984年4月4日に降伏。これにより連合国は壊滅し、連合国という陣営がなくなった。ちなみにバルト3国はスウェーデンが降伏したときであってもリトアニアとエストニアは無事であった。しかし主要国の敗北により降伏せざるを得ず、バルト3国の首相達はその場で泣き崩れていたらしい。


 これにて連合国の残党もいなくなり、私は最期の仕上げに取りかかる。


 1940年5月14日。全ての準備は整った。対オーストラリア、ニュージーランド戦用の強襲上陸部隊とその後詰め。そしてカナダ南部に配置した歩兵師団72個師団と機甲師団24個師団。加えてありとあらゆる傀儡国達からかき集めた100万人を超える沿岸防衛部隊。そして機動的な防御をするためのトラック師団36個師団。これにて民主主義の終わりを告げる準備が完了したのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 …あれからあの人を見ていない。しかしどこかにきっとおられる。私一人の力でアメリカを破壊し、総統閣下から再び認めてもらうのだ。「私にはお前が必要だ」。と。「大ドイツを建国するためにはお前の力が必要不可欠なのだ」。と。私の存在意義は、数センチでもいい。少しでもドイツの国土を増量させ、一つでもいい。民需工場だろうが軍需工場だろうが造船所だろうが、ドイツの国力を増強させ、一人でもいい。少しでもドイツ陸軍、空軍、海軍を増強させることだ。私が戦争の座から降りるということは、それは私に「死ね」と言っているようなものなのだ。まさか、総統閣下がそんなことを言うわけがない。あのとき聞いた言葉は、私の勘違いだ。そうだ、そうに違いない。だからこそ完璧な状態にドイツを仕上げ、総統閣下にもう一度聞くのだ。「対連合国戦に私を参加させてくれないか」。t


 「失礼します!き、緊急事態です!本日未明、臨時で建設されていた地下総統部屋にてヒトラー総統閣下が拳銃を用いて自殺された模様!残されていたものは、この手紙を除いて何一つ無く、現在軍部は大混乱をしています!どう対応されますか!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 何が起きたのか分からなかった。総統閣下が死んだ?なぜだ。連合国戦にも勝利した。工場力も軍事力ももはやドイツがトップだ。国土も数倍に膨れ上がっている。なぜ死ぬ必要があるのだ?疑問は尽きないが、今ドイツが混乱していては残りの大国に滅ぼされかねない。まずは対応だ。


 「どうもこうもない。総統閣下がここにいないときでも普段通りにドイツは国を運営できていた。それを続ければいいだけの話。とりあえずこの話は我が国を混乱させようとしたアメリカの嘘っぱちだとテレビで演説せよ。今総統閣下はこっそり旅行しているとテレビで伝えろ。メディア達が国中を飛び回るように仕向けるのだ。軍部に関しては、マンシュタインさんを臨時司令官とし、言う必要は無いと思うが軍事行動の一切を行うな、と伝えろ。あの人のことだ。言うまで無いと思うが一応ね。OK?」


 私の話をメモした伝令兵が部屋を出て行く。それを確認した私は手紙の中身を読んだ。そこには次のように書かれていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 「小僧。やってくれたな。バルカンを統一したそうじゃないか。それも、プロパガンダを駆使して連合国が降伏した時にまとめて降伏できるように仕向けて。しかし私は知っているぞ?仮に連合国が降伏してもバルカン諸国が一致団結して抵抗を続けていたら、アメリカが参戦するぐらいにまでは戦闘が長引いていたことを。ちょび髭は詳しいんだ。


 とまぁそんなことはおいといて、私はお前に謝らなければならない。お前のあり方を見つけさせることができなかった。戦争以外にお前が生きがいを感じれるようにさせることができなかった。申し訳ない。本当に…申し訳ない。私はもうお前の道を正してやれないと判断した。同時にこれ以上ドイツが戦争を糧に生きていくことを見ることができないと判断した。だから一足お先にあの世に逝くことにするよ。最期まで面倒を見てやれずごめん。


 願わくば、現在計画しているであろうアメリカを筆頭とした残存連合国の殲滅作戦、ソ連を筆頭としたコミンテルン殲滅作戦、日本、満州国、蒙古国を筆頭とした大東亜共栄圏殲滅作戦。これらによって行われる大ドイツの建国。これらは行わず、ドイツを民主化して世界の守護者になってほしい。今までの戦争行為は世界の警察たるドイツになるための致し方ない戦争であったとし、世界からお前の功績を認めさせるようにしてほしい。「お前は必要だったのだ」と世界中から言われるような人間になってほしいんだ。


 私はそれを達成させてやることはできなかった。だからその責任を取ってここで死ぬ。

さらばだ、小僧。あのときお前に会えて本当に良かったよ」


 読み終えたとき、自分の頬に何か暖かいものが流れていることを感じた。同時に視野がぼやける。しかし、この前のように意識は失ってはいない。涙を流している。このことに気付いたころには止めどなく涙があふれ出ていた。なぜ総統閣下が死ななければならない。誰よりもドイツの発展を願い、そのために人生を捧げた人がなぜ死ななければならない。「お前が必要なんだ」、その言葉は総統閣下、あなたに言ってほしかったんだ。誰だ、ここまで総統閣下を追い込ませたのは。誰だ、総統閣下が死ぬことを考えるまで悩ませたのは。誰が…


 ―それは私なのでは?ふとそう感じた。私がバルカン併合などしなければ総統閣下はベルリンの部屋に帰ってきていた。私を見て、よく我慢したな、偉い偉いと褒め、そこからバルカン併合や北欧統一などを一緒に相談したのではないだろうか?そのように考えが巡ったとき、私の頭の中に「責任」この二文字が浮かんだ。総統閣下は責任を取って自殺した。親衛隊の連中は総統閣下の死について詳しく調べている。


 ―仮に総統閣下の死が私のせいだと判明すれば?その責任はどのように取らされる??まず間違いなく死刑だろう。国のトップを子供一人の我が儘で死なせたのだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

― 死 に た く な い


 今までいつ死んでも構わない。そう思って生きてきたのに。今まで楽しく暮らしてきた。楽しく人生を謳歌させてくれていた総統閣下の死によって、私の死生観は大きく歪まされていた。嫌だ、死にたくない。殺されたくない。どうすればいい。そう考えた時だった。


 違う。私のせいではない。そもそも、ポーランド戦はダンツィヒィを譲渡することをポーランド側が拒んだから発生した。オランダ領東インドを併合することをオランダ側が拒んだからオランダは攻め滅ぼされた。フランス全土が、イギリス全土が、バルカン全土がドイツの一部になることを奴らが拒んだから戦争が起きたのだ。奴らがすんなり言うことを聞いていれば戦争は起きなかった!総統閣下が死ぬこともなかったんだ!

奴らのせいだ。奴らのせいだ!世界のせいなんだ!!!!


 人は死を目前とすると性格が変わるらしい。現に私は全ドイツ国民の前で次のように演説をしたのだから。


 「偉大なるドイツ国民達よ。心を落ち着かせて聞いてほしい。昨晩、偉大なるドイツ第三帝国を築き上げたヒトラー総統閣下が亡くなられた。死因は自殺とのことだ。そしてそのヒトラー総統閣下が残された唯一の手紙にはこう書かれていた。「私は皆に隠していたのだが、もう寿命が長くはない。これから来るアメリカを筆頭とした残存連合国の殲滅作戦、ソ連を筆頭としたコミンテルン殲滅作戦、日本、満州国、蒙古国を筆頭とした大東亜共栄圏殲滅作戦。これらによって行われる大ドイツの建国。これらの道半ばで私が死んだとなれば、兵士たちの士気は下がり、国民達の士気も大いに下がるだろう。故に私は先に逝く。あの世から輝かしいドイツ陸軍達が、ドイツ空軍達が、ドイツ海軍達がその黒い津波で世界を飲み込んでいくその姿をしっかりと見る。私が死んだせいで戦争をする気力が失せた、以前のような戦いができないと、そう申す大馬鹿者は、戦争に参加しなくても良い。自分ができる精一杯のことをした後に寿命によって死に私の元まで来い。ドイツ第三帝国の恥さらし、しかし人のことを想える素晴らしい愚か者として、永遠に私の元に仕えさせてやる。遺言は以上だ。諸君達の健闘を祈る」と。

…私は総統閣下の意志を継ぎ、大ドイツの建国に取りかかる。私の後を続こうと思う者たちは、左手を腹に、右手を前に出せ。…行くぞ。ハイル!!」


 ―ヒトラー!!ドイツ国民全員が涙を流しながら、右手を前に突き出していた。その人々の咆哮は、声量や音量こそ違えどやがて一つのうねりとなり、ヨーロッパ中に響き渡った。そのうねりに飲み込まれたムッソリーニは、後にあのうねりに私は殺された感覚であった、と答えている。



 私のねつ造した総統閣下の遺言状によって全ドイツ人の目に狂気の焔が宿った。絶望などでは片付けられない、絶滅戦争が幕を上げる。


※この物語は架空戦記です。現実の世界とは一切の関係もありません。

どうも!


前回までは本物語の導入のような感じでしたが、今回からドイツ第三帝国はタイトルにもあるように絶滅戦争へと向かっていくこととなります…


今まで感情はないと思い続けていた主人公。しかし、総統閣下やその仲間達と過ごしていく内にその生活が楽しいと思うようになっており、総統閣下に対する死とその責任感の恐怖から壊れていく主人公。その恐怖心はやがて狂気となり、ドイツ第三帝国を地獄の絶滅戦争へと誘ってゆく…


今回はここまでですが、次からは地獄の戦争が待っています。それまでお楽しみに…


(随時感想やコメントは受け付けておりますので是非是非!!)

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