悪いな雌豚、この箒は二人乗りなんだ
「あのですねぇ? 貴女仰りましたよね? 下手な騒ぎは起こさないって。 本当に……あんまり調子に乗っていたらセシリアがとっちめますよ?」
「……こういう時に他力本願とは如何なものかと。 だが、私は早く帰りたくてね。 もしこれ以上無駄な用事でことを荒らげようものなら……分かっているよね?」
セシリアが指先でバチバチと電流を発生させる。
軽い感じでセシリアは扱っていますが……無詠唱魔法は卒業試験にもなるくらい高度な術式なのですが……今更ですね。
まぁとにかく、人を殺すのには十分すぎる魔法の威力に充てられて「ヒッ!」と金切り声を上げさせて、雌豚さんの口を噤ませることに成功しました。
『……こほん。 こちら側の雌豚さんが失礼致しました。彼女には後できつく言っておきますので……』
『いえいえ構いません。 それはそうとして……我々の誤解を解くにはどうすれば良いでしょうか?』
『そうですね……こう言っては失礼ですが。 貴方方の祖先は昔にそういった事を行っていますしねぇ……』
今からはるか昔のこと。
未だに人類と魔族が戦いを続けていたそんな戦乱の時代での話です。 オークはその高い戦闘能力を買われて、人類の領地侵略作戦において積極的に採用されていきました。
長い戦いの中、人間を殺すことで昂った感情のはけ口は……人間の女を辱めることだったと言われております。
もっとも、平和になったこの世の中では決してそのような事は行われていないようですが……やはり固定概念というものは消えないようで、戦乱の世から数百年が経過した現在においてもオークを敵視する声は一定数存在しております。
私の言葉に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるオークさん達一同。
『まぁ……そうですね。 イメージアップというならば一つだけ考えがあります』
『……考え? それを伺っても?』
『ええと……そうですね。 色々と話したいことがありますので……また明日にここを訪れるので、今日のところは一度帰ってもよろしいでしょうか? セシリアが不機嫌そうなので……』
『……ふむ。 まぁこちらが急に頼んだ事ですし、そう致しましょうか。 そろそろ夕飯時ですから』
うんうん。
とりあえずそんな感じで話がまとまっていきました。
今日のところはお開きにして、さっさと帰宅致しましょうか。
「さてセシリア。 帰りますよ?」
「分かった。 それにしてもお腹が空いたね……帰りは私が操縦をしようか」
「え? ほんと? それだったら早く帰られるね!」
私としてもお腹が空いて早く帰りたく思っていたので、セシリアの申し出は願ってもない程でした!
そんなこんなで建物から出ようかとした折……例のごとくあの人が騒ぎ始めました。
そう、雌豚さんです。
「ちょっと! 私はどうしたらいいのよ!」
「え? そうですね……オークさん達の村にこのまま泊めてもらうのはどうでしょうか?」
「はぁ!? 何言ってんのよアンタ! それで私が襲われたらどう責任とってくれるのよ!」
「……だったら野宿でもしたらどうですか? とりあえず私たちは帰りますので勝手にしてください」
雌豚さんは未だに騒ぎ散らかしておりますが……私たちが知ったことではありません。
箒にまたがった時にも「私も乗せなさいよ!」とか文句を垂れてきましたが……やっぱり無視をします。 悪いな雌豚、この箒は二人乗りなんだ。
「……あ。 そういえば雌豚さん。 オークさん達のお料理って美味しいらしいですよ?」
「だから私は雌豚じゃ……ってアンタ今なんて言った?」
おおぅ……やっぱり食らいつきましたかこの話題に。
実はオークさん達の民族料理は、なかなかに絶品で私たちが生活する王都にも、そういった料理を提供するお店がちらほらと散見されます。
私が「オークさん達のお料理って美味しいらしいですよ!」と再び口にすると、ほとんど間をおかずに聞こえてきたのは「ぐぅ……」という腹の虫さん。
いやいや素直すぎでしょ、食べること大好きですか貴女は。
……と口にしたい衝動をぐっと堪えた私は、セシリアと顔を見合わせて苦笑した後に、王都へと帰還していくのでした。