ダンス成功ですっ!
「……さていよいよだね」
「うん! 頑張ろうセシリア!」
回復魔法で傷をすっかり治療し、特別な衣装に身を包んだ私にもはや緊張はありませんでした。
むしろあのいけ好かない三人組に目にもの見せてやるとばかりに意気込んでいます。
「……さてお嬢様。 私と一緒に踊ってくださいますか?」
「……えぇ勿論」
男装したセシリアから差し出される腕に思わずドキッとしてしまいました。
「それでは参りましょうか?」
「……はい。 よろしくお願いしますわ。 ……なんてね。 頑張ろうセシリア!」
「あぁ、無論だとも」
そう言って私たちはゆっくりとステージに登り……深く一礼。
チラリと見ると先程の三人組が最前列で「なっ……なぜあの落ちこぼれが……」と驚きを隠せていない様子でした。
そして私はセシリアのリードに合わせて、優雅に見えるよう気をつけつつ……ゆっくりと踊り始めます。
セシリアの足を踏んだりしないよう細心の注意を払いながら。
「ふふ。上手くやるじゃないか。 何があったかは知らないが……いい集中だね」
「まぁね。 ちょっと見返したい相手がいてね……ってセシリアも知ってるか」
踊りながら演奏を邪魔しないよう注力してコソコソと話をします。
「あの三人組だろう? 覚えているさ。 なんなら……私が懲らしめてあげようか?」
「うーん……それはいいかな? これは私がどうにかしないといけない問題だし」
セシリアが三人組をボッコボコにする場面が想像できてしまいます。 へへっざまぁ。
でもそれをやっちゃったら私はきっと満足しません。 やはり自分でどうにか彼女らを言いくるめたいのです。
だからここは私に任せて欲しいです。
「そうかい? ならば何も言わないが……くれぐれも無理だけはしないでくれたまえよ?」
「うん! 任せて!」
そうこうしているうちに曲の終わりが見えてきました。
「……よし終わりっと!」
「ふぅ……これで一曲目終了だね。……どうだったアリス? 満足のいく出来栄えかな?」
「もちろん大満足だよ!」
いやー! 久しぶりに最後まで踊りきることが出来ました! 気分がいいです!
「まさか……そんな……」
「ふっ……ふん! たかだか一曲踊っただけじゃないの!」
騒ぎ立てる三人組を見て思わず嘆息します。 それと同時に次の曲の演奏が粛々と始まります。
「まぁ……見てなさい。 完璧ダンサーアリスちゃんの踊りを!」
私は余裕綽々でそう宣言すると再びセシリアの腕を取り踊り始めるのでした。
その後……私は見事にミス一つなくダンスを終えることが出来たのでした。
「おぉアリス。 見ていたぞ? まさかお前にこんな才能があったとはな……」
「ふっふーん! こちとら何事においても天才のアリスちゃんですから!」
来賓としてやって来ていた魔王さんがステージを降りた私たちに声をかけてきました。 ……ってあれ? いつの間に魔王さんは人間語を話せてるんでしょうか?
「おや魔王くん。 私が教えた魔法をマスターしてくれたようだね」
「おおセシリア! お前が教えてくれた魔法のおかげで勇者とも仲良くなれたぞ!」
……ん? セシリアが教えた魔法……?
よくよく思い出してみると、あの思想強すぎ勇者さんの時にセシリアが魔王さんに何やら話をしていたような……。
「魔王くん程のレベルなら私の『自動翻訳魔法』を使いこなせると信じていたよ!」
「……じどうほんやく?」
よく分かりませんがセシリアが何か入れ知恵をした様ですね。
「そんな事より……さっさと金払ってください」
「………………なんの事だか」
そっぽを向く魔王さん。 こいつ……絶対踏み倒すつもりですね。
「……まぁいいですよ。 また今度お伺いします。 セシリアと一緒に」
「うっ……うぅ」
にっこりと笑みを浮かべて魔王さんに言い放つと俯いてしまいました。 まぁいいや。 とりあえずご飯を食べましょう。
「……ねぇあなた。 なんで魔王様と親しげなわけ?」
「……うん?」
振り返るとそこに居たのは顔を青くした同級生ABCでした。
「……おや? 知りたいですか? 私がこの学校を去ってから何をしていたか」
そして私は卒業してからの異種族通訳者の活動について話すのでした。
同級生ABCはセシリアにびびったようで掌を返すように私への態度を変えたのは言うまでもありませんでした。
ざまぁ。




