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良き友にまた会わんことを

「……え……ええと……」


 地獄のような修羅場が終わってから約十分後。

 勢いのままにジーナさんが荷物をまとめて飛び出て行った後、あまりにも気まずい沈黙が私たちの間を支配していました。

 その気まずさに耐えかねてつい口を開いた私ですが……そこから続くような話題もなく再びの沈黙が訪れました。


「いや……まぁ……これからはどうにか頑張っていくよ」

『うんうん! 邪魔者もいなくなったからね!』

「おいおい……あまりくっつくなって……」

『えっへへ〜! もう私だけのものだよ〜!』

「「……」」


 ぐぬぬ……少し目を離したうちにまたすぐイチャコラしやがって……。

 別に羨ましくなんてないですが……少しばかり腹が立ってしまいます。 別に羨ましくなんてないですが。

 でもまぁ……先程の沈黙よりはいくらかマシですね。

 そんな風にやれやれと呆れながら、イチャコラする二人を眺めていた私ですが……大事なことを思いました。


「……あ。 そういえば今回の依頼の料金をお願いします」

「……? 料金?」

「あぁ……失礼しました。 カムラさんではなくアーチェさんに」


 普通に話しても結構意思疎通が出来るものだから、アーチェさんが異種族であることをすっかり失念しておりました……。

 アーチェさんに向き直った私は頭の中で「エルフさんの言語」にベクトルを合わせて……口を開きます。


『アーチェさん? 代金お願いしたいんですけど……銀貨三枚くらい』

『……え? タダじゃないの!? ご飯食べさせてあげたじゃん!』

『いやいや……そんな甘い話があるわけないでしょう!』

『えぇ〜。 でもほとんど手持ちないしなぁ……』


 うーん……と口元に指を当てて首を傾げるアーチェさん。

 男性ならばその可愛らしい仕草にコロッと許してしまいそうですが……私には効きません。

 尤も私の近くにいるカムラさん(アホ)には効果的面のようですが。


『……あ! ねぇアリス! アリス達ってエルフの伝統舞踊をやるんだよね?』

『……? えぇ。 そうですが……』

『だったらこれあげるからさ! これで勘弁して?』


 そう言ってアーチェさんがカバンの中から取り出したのは、可愛らしい花の髪飾りと……綺麗な花のブローチでした。

 聞くところによると、エルフさん達がお祭りの時に身につける伝統的な装飾品なのだとか。

 正直私としてはお金の方が嬉しいですが……まぁいいでしょう。 前回のクソ勇者のように払おうとする魂胆がないよりはよっぽどマシですので。

 オークさん達との取引でお金には余裕がありますし……校長さんからの報酬もあることですので、私はこの装飾品を今回の報酬とするのでした。



「さて……それではそろそろお暇しますね?」

『え〜? もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしてこうよ〜?』

「いや……あまり長居は良くないですし。 そもそも勝手に決定してはいけないでしょ」

「その通りさアーチェ。 それに……すぐに会うことも出来るさ」

『……ん? それはどういう……』


 小首を傾げるアーチェさんにセシリアが「これを見てくれ」と渡したのは一枚のメモ。

 ちらりとそれを覗くと……何やら魔法式のようなものがビッシリと書き連ねられていました。 先程から一言も発さないと思っていたら……どうやらこれを書いていたようですね。


「これは私たちの家の座標さ。 君ならこの式を読み取って魔法を発動させられるさ。 そうすれば後はこの座標に従って……私たちの家の前へと転移できる」

『ふ〜ん? まぁよく分からないけど……とにかくアリスとセシリアにまた会えるんだね!?』

「まぁそういう事になるね」

『やった〜!』


 キャッキャウフフと喜んで見せるアーチェさんはまるで子どものよう。

 そういえば……友達がいなかったとか言ってましたね……もしかしたらアーチェさんに取っては私たちが大切な友達なのでしょう。 もちろん私たちにとっても、ですが。

 そんなことより……ですよ。

 なんでアーチェさんはこんな高度な術式が理解出来るのですか!? 私は一文目すらよく分からないのですが……。


「それともうひとつ……。 ゴニョゴニョ……」

『……え!? 本当に!?』


 私がセシリアのメモを分かったかのように振舞っていたところ……何やらセシリアがアーチェさんへと耳打ちをしました。

 一体何を……と思った時にはもう終わっていました。

 結局よく分からないまま……すっかり日が沈んでしまった家の外へと出るのでした。


『本当に! また会おうね!』

「ふふっ。 大丈夫さアーチェ。 すぐに会えるよ」

「そうですね。 ……あ! カムラさん! また浮気しちゃダメですよ?」

「うぐっ……分かってるって! 約束するよ」

「本当に頼むよ? もしもの時は……分かっているね?」

「分かりましたッ!」


 セシリアに睨みつけられてビシッと背筋を伸ばすカムラさん。

 本当にですよ、と念を押すと同時に……セシリアが操縦する箒が宙に浮かびました。


『じゃあね〜! アリス〜! セシリア〜!』

「「また会える日をー!」」


 見えなくなるまで手を振っていたアーチェさんに、私たちもまた全力の笑顔で返すのでした。


「ふふっ。 寄り道というのも悪くないものだね。 いい友に出会えたよ」

「そうだねぇ……。 そういえばセシリア? さっきアーチェさんに何を教えてたの?」

「うーん……。 まぁ直に分かるさ」

「え〜? 教えてくれてもいいのにー!」


 ぶーっと膨れる私に笑ってみせるセシリア。

 和やかなそのムードは「魔力をケチって転移魔法を使わなかった訳だが……時間が惜しいね。 できる限りのスピードを出して帰ろうか」というセシリアの提案によってぶち壊されるのでした。

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