なんとまぁ……肉食ですね
『……あ!! 見つけたー!!』
『ええ!? ちょっとアーチェさん!! 危ないですよ!?』
想い人の住んでいる村にやってきて以来、キョロキョロと忙しなく周囲を見回していたアーチェさんが箒から急に飛び降りました。
恐らくその想い人さんを見つけたんでしょうけど……こんな高さから降りたら流石にひとたまりもないような……。
『アリス、セシリア〜! 早く降りてきてよ〜!』
『ほう……? あれはすごいね』
『……え? あんなこと出来るの!?』
ふわふわと風魔法を地面に逆噴射して落下の衝撃を完全に殺していたアーチェさん。
あんぐりと口を開けて驚く私とは対照的に、セシリアは興味深げに笑っていました。
「時にアリス。 ひとつ提案があるんだが……」
「ねぇセシリア。 私今ものすっごく嫌な予感がするんだけど……」
「嫌な予感? ふふっ。 そんなものは杞憂にすぎないさ」
そう言いながらも私をグイッと抱き寄せたセシリア。
あぁ……これはアーチェさんと張り合うやつだ。
私はそう諦念して目を閉じました。
「さぁ……行くよっ!」
「やっぱり!? い……いやぁぁぁぁぁ!!!!」
案の定ひょいっと軽い感じで箒から飛び降りたセシリア。
身体中に感じてる重力……重力……重力!!!
目を閉じているのにもかかわらず否応なしに襲いかかる恐怖に苛まれながら、私はどちゃくそに叫びまくりました。
「……ふむ。 こんなものかな?」
「……一気に寿命が縮まった」
ふわふわと浮遊しながらゆっくりと地面に足を着けたセシリアによって、ようやく私は重力という地獄から解放されました。
「心外だね。 私が失敗するとでも思っていたのかい?」
「……そーいう問題じゃなくてね。 怖いものは怖いの!」
「ふむ……なるほど?」
「あ。 絶対に理解してないでしょ!」
「それはそうとして……彼女がいないぞ?」
「……へ?」
芳しくない反応を返したセシリアを問い詰めようかとも思いましたが……アーチェさんがいないことに気がつきました。
一体何処へ!?
キョロキョロと周囲を見渡しますが……やはり見つかりません。 そんな折……少し離れた場所から「ギャー!」という人間の男性の声が聞こえてきました。
その声は悲鳴に近く……何かが起こったことは火を見るより明らかでした。
「セシリア! あっち!」
「分かった。 行こう!」
先程までのふざけた空気を払拭して真面目な雰囲気を漂わせるセシリアが箒を呼び、低空飛行をするそれに乗って一人足早に駆け抜けていきました……。
私を乗せてはくれないんですか!?
「ちょっ……待ってぇぇぇ!!!」
先導するセシリアの後を必死に走って追いかける私。
魔法使いとして非常に残念な事ですが、多分自分で箒を操縦するのと同じくらいの速さです。
セシリアを夢中で追いかけるうちに……何かの上に鎮座するアーチェさんの姿が見えてきました。
『えっへへ〜。 もう離さないよ〜!』
何やら満足気な顔を浮かべた彼女が乗っていたものは……。
「……む? これは……」
「えぇ……」
それを見て困惑する私たち。 それもそのはず、アーチェさんが乗っていたものは押し倒された一人の男性。
恐らくはアーチェさんの想い人である彼でしたから。




