それって私のやる必要あります?
「……落ち着きました? 全く……暴れすぎですよ」
「面目ない……」
しゅんと落ち込む校長さん。 以前までは取り付く島もないような堅物だと思い込んでいましたが……こうして見ると、若々しい年相応の普通の女性ですね。
「この様子だとお相手はいなさそうですけど(ボソッ)」
「……聞こえてるわよ」
ギロッと私を睨みつけてくる校長さん。 図星ですか。
手入れされた黒髪は見るからに出来る女感を出しているのに……残念ですねー本当に。
「しかしセシリアさん。 貴女……本当に強くなったわね。 在学中から目を見張るものがあったけど……少し目を離しただけでここまで強くなっているなんて……」
「まぁ色々とあったからね。 そもそもの話、私にはカリキュラムに従った勉強というものがあっていなかったようだ。
アリスと旅をする間に、色々なところで実戦経験を積むことが出来たというのも一因だろうけど」
「なるほどねぇ……。 これはセシリアさんを『飛び級卒業者』にして正解だったわね。 しかし……それに比べて貴女は……」
ぼんやりと突き破った窓を眺めていた私を忽然と見つめる校長さん。
な……なんですか!! 言いたい事があるんなら言ってください!
「……貴女は全く成長してないわね。 というより……退化してない?」
「うぐっ……!!」
そんな風にドスンと構えていた私の心を打ち砕く一言。
思わず膝からがっくりと崩れ落ちます。
そりゃあそうでしょうよ! さっき校長さんを落ち着かせる時も私はずーっとセシリアの後ろで隠れていましたし!?
「うっ! うるさいですっ!! そもそも魔法なんて普段使いませんし!? 戦いなんてセシリアがぜーんぶやってくれますから!!」
「そ……それはそうなんだけど。何と言うか……セシリアさん頼りのところはあの時から変わってないのね……」
やれやれと頭を振りながら校長さんがちらりと視線を寄せたのは棚に飾られた一枚の写真。
誘導されるように注視すると……そこに映っていたのはカメラに向けてピースをする長い銀髪の美少女アリスちゃんと、その横でクールに青髪をかきあげているセシリアの姿でした。
「ふむ……これは……」
「うわぁ懐かしい! これって入学したばっかりの頃の魔術対抗大会の時のやつですよね?? 私とセシリアが優勝した」
「……セシリアさんとついでに貴女が、ね!」
ついでという部分を偉く誇張しての校長さんの一言でした。
ぐぬぬ……納得はいきませんがその通りです。 私がこの大会に優勝したのはセシリアのおかげと言うほかないのだから。
例のごとくセシリアの後ろにコソコソ隠れて逃げ回り、相手が疲れたところで牽制するという今ふりかえってもセコい立ち回りをしていましたし。
しかし形はどうあれ優勝は優勝ですから。 しっかりと私のキャリアに組み込まれております。
「まぁ貴女の魔法使いとしての能力にさして期待はしていないけど……異種族通訳者としての貴女には期待しているわ」
「……あ。 そうでした」
「貴女ねぇ……」
そーいえば依頼を受けていたのでしたと思い出した私にがっくりと椅子から崩れ落ちる校長さん。
「むふふん! 忘れてはいましたが任せてください! 私なら完璧に依頼をこなしてみせますよ!」
「……なんか不安なんだけど。 まぁいいわ。 それで今回の依頼なのだけど……結構面倒くさいから金貨二枚でいいわ」
「……げ。 それって相当に面倒くさい依頼じゃないんですか?」
通常料金の二倍支払うって……よっぽど難しい内容じゃないですか……。
「そう? まぁ一応渡しておくだけよ」
「なーんか怪しいですけど。 それで? 依頼の内容とは?」
一応メモとペンを取り出した私は聞き耳を立てます。
コホンと一つの咳払いの後、校長さんは口を開きました。
「エルフの民族に伝わる伝統舞踊。 今度やってくる、この魔法学園の創立百年を祝う歓迎祭で踊るために……それを学んできて欲しいわ」
「……???」
まさかの通訳業でない依頼に困惑する私なのでした。




