第62話:続きは昼寝のあとで――
『許さないぞ!カニ王』
『かっきくっけこー!!街中を泡だらけにしてやるのだ!!くらえっ!あわあわ光線!!』
『うわっ!身動きが取れないっ!!』
「ほわああ……。どうなっちゃうのクマちゃんマン!」
鬼頭の膝の上に乗ったジェノワが、そわそわしながらスクリーンを眺める。
「ここはあれにゃん。かつて倒されたネコマンマ大司教が実は生きていて、クマちゃんマンにとどめを刺す展開にゃん」
豪華な法衣を身に着けた白猫のパペットを動かしながら、完全なる暇人・触爪が口を開く。
「それじゃあ主人公死亡でバッドエンドじゃないか。クマちゃんマンは、あわあわ光線から脱出してカニ王に勝つに決まっているぞ」
「そうだよね?クマちゃんマン勝つよね?それそれクマちゃんマン!!」
黒を基調とし、青をワンポイントに添えたゴスロリを着た少女が、腕を振り上げながら懸命に応援する。
が、
『ふふふははは!!無様な姿だなクマちゃんマン!!』
白い泡に包まれて動けなくなったクマちゃんマンの前に現れたのは、ネコマンマ教という独自の宗派の開祖となり、群衆を操っていた悪役の一人・ネコマンマ大司教だった。
『お、お前はネコマンマ大司教?!生きていたのか?!』
『我がネコマンマ教の秘儀を使えば、これくらいは造作もない』
「ほら言ったにゃん。作中最強クラスのネコマンマ大司教は、これくらいで死ぬようなタマじゃないにゃん♡」
「う、うえぇ……。クマちゃんマン……」
今にも泣き出しそうだ。昨日ファミレスで貰った水鉄砲を握る力が強くなる。
『おう!ネコマンマ大司教!!さぁ、憎きクマちゃんマンにとどめを刺そうではないか!』
『ふふふははは!!実に面白そうだ!だが、何か勘違いしているようだなカニ王よ』
ローブをゆらゆらと揺らしながら、地面に転がるクマちゃんマンに背を向けると、
『我はクマちゃんマンに味方するためにここに来たのだ。だから、貴様が倒さなければならない敵は我だ!』
両腕を拡げてカニ王の前に立ち塞がる。
「「「ふおおぉおーーーーう!!!」」」
熱心に『それそれクマちゃんマン』を観ていた三人の女性から、一斉に黄色い声が挙がった。
「かっこいいにゃんネコマンマ大司教!こいつ、人気投票で主人公を出し抜いて一位を取るタイプのイケメンにゃん!!」
「こういう子供向けアニメは普段観ないものだが、なかなか面白いものだな。どうなるか分からないワクワク感があるじゃないか……!」
「随分と盛り上がっているね」
プレイスペースから少し離れた場所で、適当な椅子に座ってコーヒー(角砂糖入り)を飲んでいたモウリアが、三人の反応を見ながら、こう感想を述べる。根黒教会での子供の預かりは土日は行っていないため、こうして土日になると支部に訪れる。
「今時のアニメって凄いんですね……。大人子供をあんなに作品に引き込める魅力があるなんて。思わぬ所に勉強材料が転がっているものです」
いつもブレずにブラックコーヒー(無糖)を飲みながら、冴藤が感心する。
「そりゃあそうだよ。深夜になっているアニメがあるだろう?昨今の子供向けアニメや女児向けアニメは、深夜アニメで経験を積んだ脚本家や監督がシナリオを描いている作品が多くなっているからね。逆に言えば、深夜アニメは新人の研鑽の場、みたいな感じになって、残念な作品が増えて来たけど」
「随分と詳しいですね」
「ジェノワちゃんとアニメを観るようになって、そういう事情に少し詳しくなってしまったのだよ」
苦笑いしながら少女に視線を向けると、興奮したのか鬼頭の膝から降りて立ち上がっていた。
「ネコマンマ大司教強ぉい!!ジェノワ、結婚するならああいう人がいいなぁ~」
「……何だって?」
コーヒー(角砂糖入り)を持っていたモウリアの動きが止まる。
「ジェノワちゃん、それは本当なのかい?」
「落ち着いてください!小さな子がヒーローに憧れることって、よくあることでしょ?!」
「本当なのかい?ジェノワちゃん……」
親バカモウリアの進行は止められない。よろよろとゾンビのようにプレイスペースへと近づいていく。
「……おい、愛するパパが寂しそうだぞ。ジェノワよ、誤解を解いてやれ」
「パパぁ」
とてとてと小さい脚を忙しなく動かしながら、モウリアの腰回りに抱き着く。
「ジェノワ、勿論ネコマンマ大司教よりもパパの方が好きだよ?一緒にご飯を食べてくれるし、きとうさんに合わせてくれるし、パパだーい好き。だから、泣かないで?ジェノワはいつでも、パパと一緒にいるから、ね?」
「え……?僕、泣いていたかな……?」
「うわ……。あそこまでの親バカだと、ちょっと引くにゃん……」
これでは、どちらがどちらの世話をしているのか分からないほどだ。
苦笑い・微笑み。
様々な表情で義理の親子の抱擁を見守る。
☆★☆★☆
今日は何だか疲れたなぁ。
『それそれクマちゃんマン』をたくさん観たからかな?
ちょっと、きとうさんの膝の上で寝よう。
「おや?眠くなってしまったのか?」
膝の上に頭を乗せたら、きとうさんが話し掛けてきた。
「ジェノワ、眠くなっちゃったから、少しお昼寝するね……」
目の前にいるはずのきとうさんは不自然に歪むし、何だかお空の上にいるかのように身体がぽわぽわする。きっと、疲れているんだなぁ。
「そうか。寝る子は育つというし、存分に寝るがいい。少ししたら起こしてやる」
男の人にも負けないような、かっこいい声で、きとうさんはそう言った。
きとうさんは素敵だなぁ。
まるで、倒した敵すらも仲間にしてしまうクマちゃんマンみたいだ。
起きたら、今度は水鉄砲で遊ぼう。
ゆっくりと。
沈むように。
少女は眠りへと落ちて行った。
後書きに書くことが、いよいよなくなってきました。
毎日毎日15分以上掛けて書いてきましたが、いよいよ限界のようです。
次回作からは、大変なので止めようと思います。その時間を執筆作業に当てたいので!!




