第61話:太っ腹は誰だ?
入店して30分程度の時間が経過。
ファミリー用の大テーブルには、空になった皿の数々が並ぶ。
「安い上に料理が提供されるまでの時間も早い……。俺が行かなくなってしばらく経つけど、ファミレスって進歩してるんだな……」
料理が提供されるまでの時間も早く、味・値段も申し分ない。高校生の打ち上げに使われる理由が分かった純多だった。
「ドリンクバーも充実のラインナップだったから、ミックスするの楽しかったにゃん♡。やっぱり、リンゴジュースとオレンジジュースを4対4で混ぜるのが、一番美味かったわねん」
ぶどうジュースとオレンジジュースが6対2で混ざったジュースを手中で揺らしながら、触爪も満足げに話す。
「ジェノワもお腹一杯!」
お子様ランチを頼むと貰えるクマちゃんマン水鉄砲|(中に水は入っていない)に、お子様ランチに刺さっていた旗を装着しながら、ジェノワも幸せそうに受け答える。
「しかも、このチーズケーキも問題なく美味い。この味でこの値段となると、どうやって元を取っているのか不思議になるくらいにな」
名残惜しそうにお洒落な皿を眺める鬼頭。
「さて、全員食べ終わったようだな。……ところで、」
ジェノワ以外を視界に収めるようにして、支部長は、こう切り出す。
「今回、誰の奢りになるんだ?」
「えっ?!モウリアからお金貰ってないの?」
「何とも、モウリアは経営が苦しい孤児院を営んでいるそうじゃないか。そんな人間から集るほど、私は鬼ではない」
てっきり、お金を貰っているものだと思っていた。アルバイトをしている冴藤・触爪、がっつり社会人の崖野森の三人から気持ちの悪いな汗が流れる。
「と、いうか、こういうのって本部から経費が支給されているんでしょ?だったら、その経費で落とせばいいにゃん。接待に使っているんだから、必要な金にゃん♡」
「何で触爪がそんなことを知っているのかはさておき、統括部から支給される経費は、施設の維持費や道具類の調達費・おっぱい饅頭の購入費や貯蓄などに回していて、それほど余裕があるわけではないからな。なるべく出費を抑えるためには、君たち三人の誰かが払ってくれた方が、我々『貧乳派』としてもありがたいのだが」
ますます立つ瀬が無くなった。
互いが互いを睨むような目線になる。
「ここは、だるまさんが転んだで戦犯ムーブかました脳コン眼鏡が払うべきにゃん」
「そういうことでしたら、最初に脱落した触爪さんが支払うべくではないでしょうか?そもそも、あなたがルールを指摘しなければ、僕は失格にならなかったわけですし。それに、僕は『8月の大激戦』に備えて貯蓄をしておきたいですからね」
「『8月の大激戦』?!あんた、それに参加しているのかにゃん?!」
「冴藤は『8月の大激戦』において、『貧乳派』のエースとなる存在なのだ。だから、冴藤に払わせるわけにはいかないな」
「ぐぬっ!!」
触爪が奥歯を噛み締めて悔しがる。
「じゃあ、このむさ苦おじさんに払って貰うがいいにゃん。おっさん社会人なんだから、講義の空きコマぐらいでしかアルバイトをしていないみうよりも、がっぽり稼いでいるはず。大人のお財布の力、今こそ見せてやれにゃん♡」
「偉そうだな嬢ちゃん?!それに、俺はおじさんという年齢ではない!!」
大人たちの醜い争いが加速する中、純多は閉口、ジェノワは純粋無垢に首を傾けながら、田打は「あわあわ……」と小声で呟きながら行く末を見守るしかない。
「そんな細かいことばっかり気にしてるから、彼女の一つもできないにゃん。やーい、独身貴族、こどおじ」
「なっ?!何で俺が未婚だって知ってやがる?!親友である縁喜しか知らねぇはずなのに?!「結婚してるんですか?」って部下に聞かれた時は、無言で小指を立てて誤魔化してたのに?!」
「はっはっはー。猫の情報収集力舐めんじゃないわよ?疑似動物性愛の能力があった時は、テリトリーの散歩をしながら聞き耳立てるのが日課だったにゃん」
段々話が脇に反れていく上に、店員さんたちが、「あいつら食べ終わってるのに、なかなか退かねぇな」的な視線を向け始めたので、
「ごほん。触爪よ。ちょっといいだろうか?」
鬼頭が決定打を出すべく咳払いをする。
「触爪は、よく支部の構成員たちと一緒に遊んだり、支部で寝泊まりしているな?」
「そうにゃん。マスコット選手権があるなら優勝する自身があるくらいには、みうは地武差支部の癒し担当として輝いているはずにゃん♡」
「よく言った。では、君が支部に寝泊まりする際に使用する毛布や猫じゃらし、毎日当たり前のように飲んでいるフルーツジュースのお金は、一体何処から捻出されているか知っているか?」
「あのジュースって、触爪さんが個人的に購入しているものじゃなかったんですかっ?!」
全員の冷たい視線が注がれる。
「そ、そもそも、みうは『貧乳派』にとって、「意趣返しに他の勢力に襲撃されないように保護する立場」なのよ?!みうを支部から追い出すことはできないはずだし、みうは寧ろ、保護されるべき一般人だにゃん!?」
「だが、その経過期間は一か月間。とっくに過ぎているうえに、「経過期間過ぎたけど居心地いいから、これからも住み着くにゃん♡」とか言って定住したのは、何処のどいつだ?」
全員から注がれる視線が絶対零度まで下がった気がする。
にも拘わらず、空調の効いた室内で汗が止まらない。
「これは決まったようだね」
「ち、ちょっと待ってください」
ここまで大人しくしていた田打が、真っ直ぐに手を挙げる。
「ジェノワさんの分はさておき、自分が食べた分は自分で払えばいいじゃないですか?私、仲間同士で争うところなんて見たくないです」
全員の視線が田打へと向き、その目線は一気に人間の温かみを帯びた温度まで上昇する。
「ざ、雑草ちゃん……っ。ざ゛っ゛そ゛う゛ち゛ゃ゛ぁ゛ん゛っ゛!!!」
「わ、私は雑草ではありませんっ!」
「恩に着るにゃん。猫は施された恩は三日で忘れるっていうけど、恩に着るにゃん」
「一言余分じゃありませんか?!あと、あんまりくっつかないでください!暑苦しいですぅ……」
言われてみればそうだ。
高校生である純多や田打だって少なからず小遣いを貰っているのだから、難なく払えるはずなのに、どうして今まで、全員分の食事代を誰かに押し付けようとしていたのか。
お金が絡むと、人間とは、こうも変わってしまうものなのか。
ハンバーグ|(ライス付き550円)の値段をカウンターで払いながら、純多はお金の恐ろしさを噛み締めた。
結局、ジェノワのお子様ランチ代は触爪が払うこととなった。全員分を払うよりは、明らかに安上がりである。
ちなみに、7人で食事したというのに、全員分の代金を合計しても5,000円にも満たなかった。
☆★☆★☆
「今日は楽しかったかい?ジェノワちゃん?」
「うん!とっても楽しかったよ!」
水鉄砲を持った腕をモウリアの肩の上から垂らしながら、明るい声で返事する。
「そうかい。それは良かった。じゃあ、ジェノワちゃんは幸せかい?」
「うん!とっても幸せ!明日も、もっともっと、きとうさんと遊ぶんだ!」
「ふふっ。ジェノワちゃんは毎日楽しそうだね。僕も、ジェノワちゃんの笑顔が見られて幸せだよ」
「すぅ…………」
背中から静かな息遣いと温もりを感じる。満腹になって寝てしまったようだ。
「……ジェノワちゃんを楽しませてあげられたみたいだし、そろそろいいかな?」
小さな声でモウリアが呟くが、幼い少女の耳には入っていない。
切れかけた電灯がチカチカと光り、夜道を歩く二人の背中を闇の中へと隠す。
数日前、公園を散歩していたら、メジロっぽい鳥(判別はできない)の胴体部分だけが転がっているのを見ました。近くに頭や羽根などの残骸が転がっているようなことはなく、カラスか何かが何処かから持ってきたものでしょうか。
そんな死体が転がっていたことを、別の公園を散歩中にふと思い出して、「自分が呑気に公園を散歩している間にも、同じ空の下で、様々な生き物が、生きるか死ぬかの戦いを繰り広げているんだろうな」と思いながら空を観ました。その日は温かく、晴れ渡った空でした。
世界では、一日三食と住む場所に困っている人間がたくさんいるというのに、自分は何不自由なく三食食べ、暖かい布団に包まりながら寝る。そんな当たり前を当たり前のように享受できる幸せを噛み締めた日でした。
ついに書くことがなくなって、謎のエッセイっぽいものを書いてしまいました……。
気が触れた藤井を抱きしめてあげたい人は是非、感想・評価・応援・投げ銭を!!
あと、ブックマークもお忘れずに!!




