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第59話:大人げない二人

 翌々日の金曜日。


「いよいよ今日だにゃん♡」

触爪(ふそう)よ。そんなに楽しみにしていたのか?」

「当たり前にゃん。この日のために、猫だった頃の勘を取り戻してきたにゃん」


 ストレッチで腕や脚の筋肉を解しながら、黒猫っぽい見た目をした女性が答える。


「……で、どうして俺も参加せにゃならんのだ?俺には地武差(ちぶさ)市内の見回りという、大事な大事な仕事があるんだが?」

「ジェノワの命令で強制参加だ。それに、これも仕事のうちだぞ?」


 支部に呼び出された見回り隊長・崖野森(がけのもり)が口を尖らせながら不平を述べる。


「A知県支部から話は聞いてるけどよ。俺はガキの世話なんぞしている場合じゃねぇんだが?」

「ならば、私からの業務命令と言えばいいか?そうすれば、文句を言わず参加するしかないな?」

「けっ!職権乱用っていうんだぜそういうの。全く……。これだけの大人子供を鶴の一声で動かすなんぞ、あのガキ、鬼頭(きとう)さんより偉いんじゃねぇのか?」


 駐車スペースを一つ潰して備え付けられた台|(ビールケースをひっくり返しただけのチープなもの)の上に立つジェノワを、物憂げな表情で見つめる。


『皆さん、よく集まりました!』


 皆さん、などという大仰な言葉を使っているが、純多(じゅんた)田打(たうち)・触爪・鬼頭・冴藤(さえふじ)・崖野森・そして、最初に鬼役をやるジェノワの七人だ。

 キィン、とマイクがハウリングするが、少女は全く気にしない様子だ。爛々と瞳を輝かせながら演説を続ける。


『それでは始めましょう!!――だるまさんが転んだ大会を!!』


 気持ちよく晴れた空に拳を突き上げると、銀髪の少女は、こう宣言した。



☆★☆★☆



 だるまさんが転んだとは、あのだるまさんが転んだである。


「始めの一歩」という掛け声と共にスタート地点から一歩踏み出し、木|(今回の場合は製鉄所の塀だ)に立つ鬼を目指す。

 鬼は「だるまさんが転んだ」の台詞と共に振り向き、その時動いていた者は失格。鬼に捕えられ、鬼と手を繋いだ状態となる。


 そして、誰かが鬼の背中をタッチした瞬間、捕えられた者を含む全員は、鬼の「ストップ」という号令があるまで来た道を戻り、鬼は逃げる役の指示のもと歩数を指定され、その歩数通りに歩く。

 最後に、その歩数の範囲内で次に鬼にしたい者を鬼役がタッチし、鬼役が交代する。


「「「「「「始めの一歩!!」」」」」」


 全員の声が揃えられ、各々が身長に比例した一歩を踏み出す。


「(相手は小学校低学年くらいの子供だからね。手加減してくださいよ?)」

「(分かってますって)」


 冴藤に釘を刺されなくても、そうするつもりだ。ジェノワのゆっくりとした「だるまさんが転んだ」の号令を傍目に小声で会話をしていると、


「先手必勝にゃん♡」


 この日のために|(無駄に)四つ足歩きを鍛えた触爪と、


「ふんっ。飼い馴らされた猫如きに脚力では劣らんぞ!」


 遊びにまで一生懸命な鬼頭が全力で駆ける。


「はわわっ!!あの二人行っちゃいましたよ?!」

「まさか、ジェノワが「だるまさんが転んだ」を言い終わる前に、タッチしちゃおうって魂胆かっ?!」

「だとしたら早計だよ」


 ゆっくりと歩きながら、眼鏡のブリッジをおし上げる。


「それにしても、大人げない二人だね……」


 特に触爪に対して向けられた言葉だろう。

 相変わらず全身黒っぽい服装で固めた彼女だが、ズボンを穿いてはいるものの、こちらに引き締まった尻を向けて全力疾走している姿だ。20歳前後の女性が子供相手にここまで本気で臨んでいると思うと、近い年齢の冴藤は少し悲しくなる。


「ああっ!!でも、行けそうだぜ?!」


 見惚(みと)れていて、もはや一歩も動いていない崖野森が太い指で二人の少女を指す。


(いけるにゃん♡)

(あと一歩だ!)


 ぐんぐんぐんぐんと少女の小さな背中が迫る。


 もう少し。

 もう少し。


 少しでも距離を縮めようと手を伸ばす。


 が、


「――が、転んだ!!」


 ジェノワの号令が終了。

 ずざざざざざざざざーーーーっ!!という足裏を地面に滑らせる音と、

 ごがっごがっごがっ!!という黒い塊が前のめりで転がっていく痛々しい音が聞こえる。


「はいっ!!きとうさんとみうちゃんアウト!!」


 鬼頭はジェノワとの衝突を避けるために咄嗟に身を(よじ)り、壁に接するぎりぎりの所で停止。触爪は勢い余って転がり、そのまま塀に激突。当然アウトとなり、しぶしぶジェノワが鬼頭と、鬼頭が触爪と手を繋ぐ。


「くっ!!行けると思ったのに!!まだまだ走り込みが足りないということかっ!」

「……ワンコ女と手を繋ぐくらいだったら、もっと堅実に行くべきだったにゃん」


 亡者の嘆き声が聞こえる中、ジェノワが背中を向けて二回目の号令が始まる。


「これが、だるまさんが転んだの真の恐ろしさだよ。このゲームは急いだ者ほど死に急いでしまう、恐ろしいゲームなんだ……」


 まるでデスゲームのように語る冴藤。もっと楽しめばいいのに、と喉の奥まで出掛かったが、言葉を飲み込む。


(要は、いつでも止まれる体勢を取ればいいんだろ?)


 個人的なものだが、両足を肩幅に開くか、どちらかの脚を一歩分くらい踏み出した状態が一番安定する気がする。


 号令の速さを冷静に見極めながら、純多は足の裏で丁寧に地面を踏み締めながら歩く。


「だ・る・ま・さ・ん・が」


 まだ行ける。

 まだ行けると脳が信号を出すが、欲張れば欲張るほど負ける。


 減速することを意識し、止まりやすい体勢に入ることを第一に優先させる。


「転んだ!!」


 やはり来た。


 肩幅に開いたそのままの体勢を維持、自然に止まる。


「はい動いた!!まひろちゃんとおじさんアウトね!!」

「と、突然早くなったので、ビックリしちゃいましたぁ……」

「鬼頭さんが走りたくなる気持ちも分かるぜ。俺には、こういう間怠(まだる)っこいのは苦手だ!!あと、俺は36歳だ。まだまだおじさんではないっ!」


 不意打ちに弱い田打と、何処かツッコミどころがずれている崖野森がジェノワの元へと向かう。


「後は二人になったね棟倉くん」


 敷地の横幅を広く使っているため、ジェノワまでの距離は結構遠い。

 そのため、なるべく歩かなければ到達しないのだが。


「全然動いてねぇじゃねぇか!!」


 白線を踵で踏んでいるのみで、先ほどから冴藤がほとんど動いていない。

 もうすぐ一月が終わります。早いものですね。

「一月は行く、二月は逃げる、三月は去る」なんていう言葉があるように、三月までは忙しなく過ぎ去っていく気がします。


 え?「一日が長い」という話を、昨日したばかりじゃないかって?


 一日は長く感じるけど、一か月・一週間単位で見ると、あっという間に感じるんですよ。不思議なものですね。



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