第58話:楽しいトークタイム
「あ、あの……。ジェノワちゃんを私たちの支部に通わせる理由って、もしかして、カヴァブルさんたちに関係があるのでしょうか?」
静かに手を挙げながら田打が質問する。
「そうだね。僕がジェノワちゃんを『貧乳派』の皆さんに預ける理由としては、それが大きな要素だね」
同じ協会で働く白い修道服に三つ編みの修道女・カヴァブルと、教会で養われている孤児たちは、性癖をベースとする異能力の存在と、モウリア・ジェノワが屍姦性愛の能力者であることを知らない。
「屍姦性愛の能力で何の関係のない子供たちを殺してしまったら、ジェノワちゃんは、この教会ですら居場所がなくなってしまう。それはかわいそうだろう?」
「だからって、俺たち『貧乳派』が代わりに死んでいい理由にならんだろうが。預かって欲しいなら、せめて屍姦性愛の能力に、どんな特色があるかを事前に教えてくれよ」
さりげなく能力について聞き出してみようとするが、
「それはできないね。僕たちが相手を殺す条件が知れ渡ってしまったら、パワーバランスが一気に崩れてしまう」
口車には乗らなかった。モウリアは肩を竦めながら、それを受け流す。
「そして、君たちにジェノワちゃんを預ける最もな理由。それは、ジェノワちゃんが鉄破さんに懐いていることだよ。僕にとってはジェノワちゃんが喜んでくれることが、何よりの喜びだからね」
「モウリアさんは、本当にジェノワちゃんのことが好きなんですね……」
「あぁ、そうさ。僕はジェノワちゃんが喜んでくれるんだったら、どんなことでもするつもりだよ」
「なぁ、そのジェノワについてなんだが」
純多が声を挙げる。
「あの娘は一体何者なんだ?」
鬼頭や清漣寺が言っていたことを思い出す。
人間の性癖は、幼少期に経験したトラウマや性的経験を礎に無意識のうちに決定されるという。
にもかかわらず、年端も行かない少女が屍姦性愛の能力を持っているということは、相当幼い段階でトラウマレベルの経験をしていることになる。
「あの娘は、特別な事情を持つ娘だからね。できれば、話したくなかったんだけど――」
チャペルの入口を一瞥し、自分たち以外誰もいないことを確認してから話を続ける。
「今から三年前。彼女の父親と母親は薬物を飲んで心中したのだが、ジェノワちゃんは、父親の死に顔を見て、まるで、美しい彫刻のようだと思ったらしい。元々裕福な家系だったのと立地が良かっただけあって、食べ物やお金には苦労することはなく、ジェノワちゃんは両親の死体とおよそ二か月くらい同居していたそうだ」
あの邪気のない笑顔からは想像できない。純多と田打は息を呑む。
一説によると、屍姦性愛になる人間の中には、両親などの身近な人物の寝顔を見て、その寝顔への性的興奮から屍姦性愛になるケースがあるのだという。
ジェノワの場合は気絶・仮死状態などの疑似的な死体ではなく、完全な死体を見て欲情しているわけだが、もし、両親が服毒自殺をしなかったとしても、遅かれ早かれ屍姦性愛という性癖が萌芽していた可能性が高いということか。
「人間の腐敗臭って結構臭くってね。その匂いから異変に気づいた近隣住民が通報したことで、ことが発覚したというわけだ。警察が家に到着した時も、何食わぬ顔でグーに握った拳でスプーンを持ち、所々に髪の毛や皮膚片・肉片がこびりついた腐乱死体と一緒にご飯を食べていたそうだ」
「う……っ!うえぇ…………」
顔を真っ青にした田打が長椅子と長椅子の隙間に顔を埋め、胃袋からこみ上げてくるものを体内に留まらせる。
「だから、僕はなるべくジェノワちゃんを幸せにしてあげたいし、ジェノワちゃんには幸せになって欲しい。僕なんかのちっぽけな力で叶うかは分からないけど、僕ができることと、ジェノワちゃんがやりたいと思っていることは、全部やってあげたいんだ!」
神の教えを啓蒙するかの如く、教壇の演説台を強く叩く。
「僕の自分勝手な考えに君たちを巻き込んでしまったのは申し訳ない。でも、ジェノワちゃんが鉄破さんのことを好きというのは本当だし、僕は、鉄破さんと一緒に居たい、というジェノワちゃんの気持ちを大切にしたかったんだ!」
必死に訴えかけるように、こちらを見据える。
「そのために、君たちには付き合って欲しい。どうか、お願いできるだろうか?」
広いチャペルに、まるで本当の父親のように熱弁する男の問い掛けが木霊する。
☆★☆★☆
「棟倉さんは、モウリアさんのことをどう思いますか?」
「…………」
この問いには、すぐには答えが出せそうになかった。
二人は横に並びながら根黒教会を背にして歩く。
一人の少女の幸せを何よりも切望する言葉に、一片の悪意も感じられない。
それどころか、本当の父親のように手を差し伸べ、惨めな境遇にある少女を救おうとする強い思いが、その身体を通して感じられる。
だが、相手は屍姦性愛。
全ての性癖を淘汰して貧乳フェチの世界を作ろうとしている『貧乳派』とは水と油であり、永世中立を謳ってはいるものの、全ての勢力を潰した後に、最終的に戦わなければならない組織の一つだ。
「本当に……」
「??」
「本当にこいつらは、見境なく人を殺す、悪い奴らなのか……?」
吸血性愛であるが故に他人から吸血し、
火炎性愛であるが故に家を燃やし、
実況性愛であるが故に自分の声をマイクに乗せる。
各々が自分の性欲を満たすために取っている行動であって、本当の意味での『悪い奴』など存在しないのだが。
「わ、私にも、モウリアさんは悪い人には見えません。でも、悪い人に見えないようにするためのカモフラージュである可能性も考慮すべきだと思います。大量殺人をしてニュースに挙がる人物の顔を見て、当時の同級生が「大人しい普通の子だった」っていうみたいに、普通じゃない人ほど、『普通の人』に紛れ込んで生活しているものですから……」
「だけど――」
反論しようとした時、スマートフォンが鳴った。
着信は鬼頭からで、来るのが遅い。早く来い。という催促の内容だった。二人は急いで製鉄所へと向かう。
一日が異様に長く感じることってありません?
何故なのだろうか、と呟いたら、「毎日にときめきが足りないから、退屈で長く感じるのでは?」と、通り掛かった父親が一言。
皆さん、毎日ときめいていますか?
ちなみに、藤井は、ときめきが足りないのか、一日が長く感じます。
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