第57話:根黒教会
初めて出逢ってから一か月と少しが経過した今、いつの間にか一緒に薙唐津製鉄所に向かうようになっていた。純多と田打が並んで道を歩いていると、
「なぁ、田打。あれって……」
数本先の道へと姿を消す、黒装束の男の姿を目撃する。
「モウリアさんですね。何処へ向かうんでしょうか?」
向かっている方向は支部とは違う場所だし、ジェノワを連れていないところを見ると、支部へと預けた帰りだろうか。
「ちょっと追ってみないか?もしかしたら、屍姦性愛のアジトが分かるかもしれないぞ?」
「はわわっ……。でも、私たちだけじゃ危なくないでしょうか?それに、もしモウリアさんがアジトに向かっているのだったら、敵地のど真ん中ですよ……?」
「名目上は、俺たちはボスであるモウリアと知り合いってことになっているんだし、バレても大丈夫だろ?」
「だ、だったら、そんな疑わしいことをするよりも、素直に話し掛ければいいじゃないですか?」
「決まっている。その方が面白いからだ!」
キリっと決めたつもりだったが、こういう子供っぽいことは女の子の共感を得にくい。少女の頭の上にハテナが浮かぶ。
「と、とにかく、あいつは一方的にこちらに来るのに、俺たちはモウリアの素性について知らなすぎると思うんだっ!だから、跡を追ってみようぜ!」
「あっ!まっ、待ってください!!こういうのは一回、鬼頭さんに連絡を入れてからっ――」
と、言いつつもついて来てくれる田打に心の中で礼を言いつつ、モウリアの尾行を開始する。
☆★☆★☆
「ここは……?」
学校周辺の地域事情に疎い純多が、隣の少女に問う。
「え、えっと……、根黒教会、だそうです。西洋系の宗教の会合に使われたり、結婚式の会場としても使われるんだとか?」
ようやく使い熟せるようになった地図アプリと検索エンジンを駆使し、棒読みで音読しながら告げる。
多角錐の屋根の頂点に十字架が立っていることを除けば、目立った特徴のない木製の普通の建物だ。モウリアが植えたものなのか、敷地周辺には様々な花や野菜が植えられ、色とりどりの花を咲かせている。
「ここに入って行ったということは、ここが本拠地なのか?」
「まぁ、神父さんのような服を着ていましたし、別段違和感はないんじゃないでしょうか?きっと、宗教関係に携わっているお方なんですよ」
「その通りだよ」
モウリアの声が塀の脇から聴こえてきた。
……と、思ったら、そのまま姿を現す。
「残念かな、ここは僕が切り盛りしている教会であって、屍姦性愛のアジトではないよ?」
「……全部聞こえていたんだな」
「おっぱい饅頭を食べた時の身体能力の強化を舐めてはいけない。聴力や視力だって、身体能力の強化に含まれるからね。そして、能力が強ければ強いほど、その力は凄まじいものとなる」
耳珠の辺りをとんとんと軽く叩く。
「君たちは、僕が何者なのかを探りに来たのだろう?包み隠さず教えてあげるから、中に入っておいで?」
「あんた、能力が使える状態なんだろ?そんな状態のやつがいる敵地に行くやつなんて――」
「あっ、モウリアさん。帰って来たんですね?!」
身分を分かりやすくするためなのか、モウリアとは対照的に白い修道服を着た三つ編みの少女|(と言っても、純多たちと同い年くらいだ)が建物から出てくると、こちらに駆け寄る。
「こちらのお方たちは?」
「僕が招いちゃった客人だよ。何とも、根黒教会を見学したいんだとさ」
「いや、俺たちは――」
「そうでしたか!客人ですね?ささ、こちらへこちらへ!!」
拒否権などなかった。
ずるずるずるずると背中を押され、敷地の中へと無理矢理通される。
☆★☆★☆
「カヴァブルお姉ちゃん。この人たち誰?」
「協会の見学に来たお客さんたちだよー?もしかして、この教会に入りたいのかも?」
「それはねーだろ。だってこいつら、せーふく着てるから、こーこーせーじゃないの?」
「あのお姉ちゃんたちが高校生なら、勉強見てもらうチャンスじゃん。やったねカヴァブルお姉ちゃん!」
子供たちが純多たちを取り囲むと、口々に言葉を発する。
「それじゃあ、僕たちは客人と大事な話があるから、チャペルに行ってもいいかな?」
「はいモウリアさん!子供たちの面倒は、アタシが見ますので大丈夫ですよ!!」
「ははっ。それは心強いね」
カヴァブルと呼ばれる修道服の少女と子供たちを後にして、木が張られた板を踏み締めながらチャペルへと向かう。
「一つ、君たちに頼みたいことがある」
講演や説教の時に立つ機会が多くて落ち着くのか、色彩豊かなステンドグラスでできた窓を背に講演台に立ちながら、モウリアは口を開く。
「見ての通り、この教会は身よりのない子供たちの世話をする孤児院でもあるんだけど、僕とジェノワちゃんが屍姦性愛の能力者であるということは、カヴァブルちゃんを含む全ての子供たちに隠しているんだ。だから、この秘密を守って欲しいのと、能力については話さないで欲しい」
と、なると、カヴァブルとその他の子供たちは屍姦性愛の能力者ではなく、一般人ということか。性癖を掲げた血生臭い戦いに一般人を巻き込むわけにはいかないため、二人は静かに首肯する。
「よし。それでは、楽しいトークタイムといこうじゃないか。さて、まずは何から話せばいいかな?」
おっぱい饅頭を食べて能力が宿っているはずなのに、闘気や殺意のようなものが感じられない。これが、高次の能力者によるパワーのコントロールによるものか。
桃李成蹊という言葉が好きです。
中国の故事成語で、「優れた桃李が芳しい香りを出して人を誘うと、その樹に向かって人の列ができるように、優れた才能・人格者のもとには、自然と優秀な人物や人材が集まって来る」という言葉です。
立派で面白い文章が書けるようになれば、きっと、ファンや読者の方から自然に集まって来る。――そんな未来を夢見て、日々執筆に勤しんでいますが、この言葉が生まれたのは1,000年以上も昔。時代が異なれば事情も異なる。当然の理です。
今の時代は、少し烏滸がましくても、自己主張・自己発信をしないと、誰も振り向かない。そんな時代になっている気がします。
あぁ……、その芳香で誰も彼もを魅了できる、桃李になりたい。
藤井にはまだ、至らない点ばかりです。
桃李の果実を齧りたい人は是非、感想・評価・応援・投げ銭を!!
あと、ブックマークもお忘れずに!!




