第55話:A知県支部長
製鉄所の建物内部北東側には、アニメやマンガなどの映像資料を視聴するためのプレイスペースと呼ばれる場所が存在する。
プレイルームなどという呼称が付けられているが、負傷者が出た場合は傷を治すべく、胸の小さいモデル女性やアニメキャラクターが登場する作品を視聴する場所でもあるため、決して無駄なスペースではない。
『ご用件は何でしょうか?僕は君たちとは違って暇ではないので、なるべく手短に話して欲しいんですけどねぇ』
ノートパソコンから機器を接続して映し出された巨大スクリーンに、男の上半身が映る。
男は、白いカッターに黒い背広、紺色のネクタイを首に締めた、絵に描いたような至って普通のサラリーマンの見た目をしている。面立ちや肌の質感、少し毛量が減ってきている髪型からするに、50代中盤くらいといった印象だ。
「屍姦性愛のモウリアという男が接触してきた。我々には友好的なようだが、その意図が分からん。一体どうすればいい?」
『……なんですって?』
こちらを茶化すような表情が一瞬にして変わる。
「(……誰ですか?このおっさん?)」
「(『貧乳派』A知県支部長・吹田井宗好さん。僕たちの上司だよ)」
小声で疑問を発した純多に、冴藤が返す。
『貧乳派』の組織構成は、各市町村の支部、各都道府県の支部、各国の支部、そして、全ての国の支部を纏める統括部があり、そのトップに統括部長・清漣寺淑華が君臨する。
つまり、吹田井は、A知県内にある市町村支部を束ねるトップなのである。
『確認しますが、モウリアというのは、モウリア=クロウトゥックのことで間違いないですか?』
「あぁ、本人がそう名乗っていたからな。違いない」
『だとしたら、屍姦性愛を束ねる長ですね』
そんなに凄い人物だったのか。
選択肢を間違えていたら、自分たちが死んでいたかもしれない恐怖が遅れて到来する。
『君なら分かっているかもしれないけど、能力は『任意の相手を殺す能力』。上長と相談してみるけど、迂闊に関わらないのが正解でしょうねぇ』
「それなのだが、一緒にくっついているジェノワという少女の方は、『『貧乳派』の救世主』の能力で、モウリアに秘密で無力化した」
『……また、僕の指示を待たずに勝手に動きましたね?最終的には統括部長様がお喜びになられたから良かったものの、『豊乳派』と結託したり、薬物セッ〇ス派閥と戦ったり、いくら何でも勝手に動き過ぎですよ?』
リーナ=セイファスを討ち取ったあの一件。
一連の行動は、実は、上長への相談やを一切行わずに、地武差支部の支部長である鬼頭が独断で行ったものだ。
そのことでお叱りを受けたという――上司の吹田井が。
『全く……。君たちが勝手に行動すると、怒られるのは僕なんですからね。だから、僕が上長に相談するまで、絶対に行動しないこと。分かりましたか?』
「と、言われても、相手は殺しを得意とした能力を持っているのだぞ?そう長々と野放しにしてもらっては、こちらの気が安らがんではないか」
『それには安心してください。彼らが能力を使うのには、一定の条件が必要ですから』
「その条件が分かるのか?」
『残念ながら、僕も知らないね。なので、『貧乳派』が蓄積したバトルデータや、能力に関するレポートなどをこちらで調べ、後日連絡を入れるという形でどうでしょうか?』
サラリーマンのような見た目は伊達ではなかったようだ。トントン拍子で段取りが決まっていく。
『それまで絶対に、ぜ・っ・た・い・に!軽率な行動をしてはいけませんよ!僕が屍姦性愛の能力について調べるまで、何もしないで待機していてくださいね!』
「と言っても、奴らの方から干渉してくるのだ。100パーセント関わらないのは無理だぞ」
『具体的に、どのようなことを要求してくるんです?一緒にお茶を飲めとか?』
清漣寺のことを皮肉っているのかと一瞬思ったが、吹田井は統括部長が女性であることすら知らないはず。一瞬苦笑いをしそうになるが、表情を元に戻す。
「ジェノワという少女を連れてきて、しばらく子守りをしてくれ、とな。いくら能力者と言えども、年端も行かない少女を通わせるのには危険だから、止めさせたいのだ」
地武差市は、『貧乳派』と『豊乳派』の二大派閥の激戦区となっている場所だ。
その活動拠点である支部は安全と言い切れるような場所ではない。
『なるほど。そういうことでしたら、ジェノワちゃんのお世話をするしかないんじゃないですかねぇ』
にやり、と、憎たらしく口の端を歪める。
『君、子守りは得意でしょう?特技を生かすチャンスじゃないですか?僕が調べ終わるまで頑張ってくださいねぇ。なるべく早く報告できるように努めますのでぇ』
鬼頭は小さい子供の世話が苦手なのだが、その状況を楽しんでいるようだ。
「……なるべく早く頼むぞ。そのボケ始めた頭で忘れないようにな」
こういう挑発には乗らない鬼頭が反駁した。よっぽど頭に来たのだろう。
『なっ!僕の頭脳は明晰ですよ?!高校では、学年一位だったんですからね?!』
「なんで、大学を出ているはずなのに、大学の成績で語らないんだ?そのお勉強ができる頭も、大学では通用しなかったのか?」
『ぐぬぬっ!君も大学に行けば分かりますよ!!』
一方の吹田井は、挑発してくる癖に挑発されるのには弱いらしい。顔を赤くして反論し、小競り合いが続く。
「(大学に行けば分かるもんなんですか?)」
「(高校時代にあんなに一生懸命にやった古典・物理・化学の知識って、大学の講義では使わないに等しいからね。高校の時の成績が良かったところで、大学では通用しないっていうのは、強ち間違いじゃないよ)」
冴藤・触爪が籍を置く乙牌大学は文系の大学なのだが、必修科目として数学や物理・化学の講義は存在する。
しかし、数学・物理・化学などの理数系科目の中から二つを選択して受ければいいため、苦手な教科を避けることができるし、理系教科を担当する教授たちは、「文系大学に通っている人たちは、理系科目に苦手意識を持っている人が多いだろうから、講義の内容は簡単なものにしよう」と考えることが多く、例えば、『物理』とは銘打っているものの、物理基礎くらいの内容だったりする。
――勿論、大学の教育方針や教授によりけりだが。
「(高校の勉強って、教科書と参考書をコピペするだけで、試験で容易に80点超えるからにゃん♡」
実は高校・大学共に優秀な成績を修めている優等生・触爪も会話に加わる。
「(コピペが得意なだけだと苦労するっていうのも正しいわねん。ま、コピペするだけで単位が取れる講義もあるけどにゃん)」
「試験の範囲は、このレジュメ!しかも、穴埋め問題!!だから、正しくコピペできれば単位取れるよ!!」という講義も、ごく少数だけどあったりする。
――大学の教育方針や教授によりけりだが。
『と、ともかく、変な気を起こさないようにっ!』
そう言い残すと、吹田井との通信はプツンと切れ、黒い画面へと切り替わる。
「ふんっ。現場に行くこともなくお役所仕事をしていると、敵との駆け引きもなくなって口下手になるものだな」
ふんす、と鼻を鳴らしながら、してやった顔をする鬼頭が振り向いた。頭の動きに合わせてロングポニーが尻尾のように揺れる。
近所に住んでいたおばさん(親類ではない)が年末年始の間に亡くなったそうです。
小学校の通学路である関係上、登下校の時に挨拶をしてくれる柔和な人でしたが、歳のせいで数年前からボケてしまい、「私のお金を盗んだ!」などの攻撃的な発言をするように。見兼ねた親族が老人介護施設に入所させていたそうです。
うちの父方の祖母も、結婚前の旧姓を名乗り出したり、家からありもしない別の場所に帰ろうとするなど、家族の顔すらも分からないほどにボケが進んでしまって手に負えなくなり、老人介護施設に入所させました。なので、我が事を聞いているようで耳が痛いです。
え?どうしてそうも無慈悲に、肉親を施設送りにできるかって?
やってみます?介護。
「私、ご飯食べたっけ?」って、5~10分に一回くらいのペースで聞かれますよ?
それに一日中付き合わされていた母親が憔悴してしまったのも、決め手の一つです。
施設の費用も結構高く、祖母に受給される年金だけでは補いきれなくなってきました。意外と家系が厳しかったりします。
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