第54話:パパが来た!!
「な、何言ってんのよあんた?!そんなの、屍姦性愛に宣戦布告しているようなもんじゃない?!」
純多から持ち出された爆弾発言に食って掛かる。
「そんなことをしたら、あの娘の『パパ』――ううん、屍姦性愛全員の矛先がみうたちに向けられることになるわよ?!」
「でも、俺たちを殺すのには何かしらの条件があって、簡単には殺せないんだろ?なら、その条件が整っちまう前にジェノワの能力を消して、『パパ』が来るまで何食わぬ顔で生活すればいいじゃないか」
要するに、この場で最も危険なのはジェノワだ。
いつ、どのような条件で『任意の対象を殺す能力』を発動するか、将又、しないのかが分からず、気分を害さないように気遣いながら、来るかどうかも分からない屍姦性愛の仲間の迎えを待たなければならない。
ならば、ジェノワに殺せないようにすればいい。
能力を使えないようにさえしてしまえば、普通の子守りと何ら変わらないため、難易度は一気に下がる。
「で、でも、あのお人形幼女から能力を消したことを『パパ』が知ったら、激昂するに違いないにゃん!みうたちが皆殺しにされちゃうわよ!?」
「だが、激昂していたとて、能力を使うのにはタイムラグがあるはずだから、そう簡単には使えないはず、というわけか」
「万が一に備えて条件を揃えた状態で来てるのであれば、お手上げですけどね。主催者を怒らせたら即死のデスゲームみたいな環境で暮らすよりは、よっぽどいいと思います」
腕を組んで熟考していた鬼頭と、肩を竦めた冴藤が賛同の意思を示す。
「はわわっ!もしジェノワちゃんの能力を消したことがバレてしまったら、屍姦性愛勢力との正面衝突になってしまうんでしょうか……?」
「そうなるだろうな。だが、忘れてはいけないぞ田打」
拳を強く握る鬼頭。
「我々の目的は同じ性癖を持った同士で仲良しこよしすることではなく、相容れない性癖を持つ勢力を潰すことだ。破壊なくして創造はなし、悪しき古きが滅せなねば誕生もなし、時代を開く勇者たれ、だ」
僅か40歳でこの世を去ったプロレスラー・橋本真也の名言を用いながら発破を掛けた。
☆★☆★☆
「みんな、ジェノワを置いて何処に行っていたの……?」
瞳を潤せながら寂しそうに見上げる。
「…………」
鬼頭と目線だけで意向を確認すると、純多が少女の頭をそっと撫でる。
「ゴメンね……。お兄さんたち、ちょっと大事なお話をしていたんだよ」
勿論、おっぱい饅頭を食べているので『『貧乳派』の救世主』としての力が発動。見た目は何も変化していないように見えるが、ジェノワは能力が使えなくなっているはずだ。
「ジェノワ、お兄さん嫌い。きとうさんの方が好き」
とてとてと短い脚で歩くと、鬼頭の足元に縋りつく。
「ねぇ、ジェノワと遊ぼ?一緒に遊ぼうよう」
「ジェノワよ。それもいいのだが、君の『パパ』とやらは、いつ戻って来るのだ?」
「パパ?うーんと、」
かわいく首を傾げ、考えるような仕草をする。
「分かんない。分かんないけど、いつか迎えに来てくれるよ」
「何時頃かっていうのは分からないのか?」
「ご飯を食べるのが7時だから、それより前には来ると思うよー」
チラりと5人が同時にスマートフォンを確認する。
時刻は17時15分。
夕飯の時間が19時ならば、迎えが来るまであと1時間くらいだろうか。
「ようし。だったら、お姉さんたちが遊んであげよう。どんな遊びがしたい?」
「ハンカチ落としー」
ポケットから小さなハンカチを出し、ふりふりと振る。
「じゃあ、みんなでやろうではないか」
小学校の低学年と一緒に遊んだのを最後だとすると、高校生組は約5年ぶり、大学生組は約10年ぶりぐらいだろうか。
少し広めの場所に輪になって腰を降ろすと、ジェノワがハンカチを落とす役となる。
「(なぁ、ハンカチ落としって、どんな遊びだっけ?)」
こういう子供遊びは、実はおばあちゃんっ子・田打が詳しい。声を潜めながら話し掛ける。
「(鬼役はハンカチを持って背後をぐるぐる回って、誰かの後ろにハンカチを落とします。そして、ハンカチを落とし終わった鬼は、一周した後にハンカチを落とした人物にタッチしたら勝ち、ハンカチを受け取った人は、鬼が一周して輪に加わる前にタッチしたら勝ちです)」
「(なるほどな。つまり、背後にハンカチが落ちていないか常に警戒し、後は鬼を追い駆ければいいんだな?)」
「タッチ。じゅんたが鬼―!」
「あ……」
田打と話し合っている間にハンカチを落とされていたらしい。嬉々としたジェノワが同じ場所に座る中、ハンカチを握って立つ。
(誰にしようかな……。ここは、何故かあんまり関わる機会のない冴藤さんかな……。ん、待てよ……?)
ハンカチを握った手を見ながら、大事なことに気づく。
(『『貧乳派』の救世主』の力が働いている最中だから、俺、触爪かジェノワしか標的にできなくね?)
便利なのか不便なのか、能力者が一度おっぱい饅頭を食すと、6時間くらいは効果が継続するという。
『貧乳派』の人間に触れると能力が消えるか否かは試したことがないので分からないが、『『貧乳派』の救世主』としての能力を絶賛宿し中の純多は、迂闊に触らない方がいいだろう。
よって、万が一ハンカチに気づかなかった時にタッチができないため、能力を持つ鬼頭・冴藤・田打の三人を標的にすることができない。
(しかも、ゲーム的には、やり返さない方がいいよな……)
鬼になった人物が前の鬼を狙うのは、あまりにも露骨だし、当の本人は後ろ手をわしゃわしゃし続けていて、落とした瞬間ハンカチを察知する気満々である。
(じゃあ、選択肢は一つか……)
ネコミミと猫の尻尾がないのに、何処か黒猫っぽい印象を抱く装いをした女性の背中に、こっそりハンカチを落とす。
☆★☆★☆
子供の遊びというのは、大人になってからやってみると案外楽しい。
ハンカチを落とすフェイクによる駆け引き。
鬼を追い駆ける時の脚力。
ハンカチに気づく瞬発力。
相手の指先が届くぎりぎりの位置にハンカチを落とすテクニックと戦略性。
ただハンカチを落とし、拾い、追い駆け、座るだけの遊びのはずなのに、これほどまでの奥深さがあるとは知らなかった。
支部のメンバーの間でもいつの間にか白熱し、無意識のうちに45分もの時間を浪費する。
時刻は18時前後。
「じゃあ次、ジェノワの番ね!」
小さな子供というのは、同じ絵本を何度も読んだりと、繰り返しには強く、まだまだ飽きていないらしい。
元気な声を挙げながら立ち上がると、冴藤を追い駆ける。
「ふっ。僕に追いつけるかな?鬼頭さんに走り込みを毎日仕込まれている僕に!!」
勿論、相手は年端もいかない|(?)少女だ。捕まるかどうかの際どい速度に調整しながら、ゆっくり走る。
「まてまてー!!あっ!」
ジェノワが急に声を挙げたため、冴藤も思わず立ち止まる。
「パパだパパ!!」
入り口の方向を指し、表情が明るくなる。
「パパーーー!!」
くしゃくしゃに丸めたハンカチをスカートのポケットに捻じ込むと、一目散に駆ける。
「やぁ、ジェノワちゃん。そして、貧乳フェチの皆様。ごきげんよう」
意外と早く来た。
ここからはポーカーフェイスだ。
事情を知っているメンバーに緊張が走る。
「僕の名前はモウリア=クロウトゥック。屍姦性愛を束ねる長をしているよ」
黒を基調とした法衣を身に纏い、右手にはボロボロになった聖書を持っている。
「今日はジェノワちゃんが世話になったね。この前墓地で君に逢ってからというもの、すっかりジェノワちゃんが気に入ってしまったようでね。一度合わせてあげたかったんだ」
聖書の朗読などによって鍛えられたものなのか、ごく自然と耳の中に入ってくる温和な声音だ。
「本当に、用はそれだけなのか……?」
支部の代表として、鬼頭が一歩前に踏み出して質問するが、
「えぇ、そうです。自分で言うのもあれですが、なかなかに子煩悩な父親でしょう?」
にこり、と微笑む様子からは裏表を感じない。
「パパ、パパ!ジェノワね、あの人たちといい子に遊んでたんだよ!」
「そうかそうか。ジェノワちゃんが楽しいならよかった。……僕は、ジェノワちゃんがいなくて、少し寂しかったけどね」
本当に子供思い――いや、親バカといった方が正しいかもしれない――の父親のようだ。ジェノワと会えたのがそんなに嬉しいのか、目尻には涙を浮かべている。
「それでは、これで失礼するよ。あ、また定期的にこちらに遊びに来てもいいかな?ジェノワちゃん、ここが好きになったみたいでね」
「また遊びに来てもいーい?」
「ここは遊び場でも児童養護施設でもないんだぞ」と突っぱねたい所だが、一度、これらのことを上長に相談した方がいいかもしれない。
「あ、あぁ。いつでも来てくれ」
鬼頭は引き攣った笑顔を浮かべながら歓迎したのだった。
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