第53話:爆弾のような女の子
清漣寺との秘密のお茶会を済ませた翌日。水曜日の放課後。
「あ、あうぅ…………」
珍しく田打と合流して製鉄所に向かう最中、瞳に涙を浮かべながら辺りを見渡す幼子に遭遇した。
「どうしたの?」
無骨な無男よりも、華のある女子高生が話し掛けた方がいいに決まっている。田打は膝を折って目線を合わせると、少女に優しく問う。
「迷子になっちゃったの……。ここどこ……?」
優しいお姉さんに出逢えて安心したのだろう。すぐに心を開いた少女が応じる。
腰まで伸びた銀色の髪に、黒を基調としたゴシックな服装。
例えるならば、不思議の国のアリスに登場するアリスを、寒色に塗り替えたような色合いを身に纏っている。
「お父さんやお母さんと逸れちゃったの?それとも、お家が何処か分からなくなっちゃったの?」
「ううん……」
銀色の髪を揺らしながら首を横に振る。
「ジェノワ、パパから聞いて「ちからづさん」に会いに来たんだけど、場所が分からなくなっちゃって」
「「ちからづさん」……?」
「ちからづさん」と聞いて浮かぶ名前は、『貧乳派』地武差支部の初代支部長・薙唐津縁喜だ。
しかし、薙唐津は既に亡くなっているし、兄弟姉妹の類はいない、と鬼頭から聞いている。
「薙唐津さんは――」
事実を伝えようとした所を、左腕を拡げた田打に遮られて閉口する。
「もしかして、薙唐津製鉄所に行きたいのかな?」
「……っ!!うん!そこ!!ジェノワが行きたかったのは、そこだよ!!」
大粒の涙を浮かべていた赤い瞳が細められ、少女の表情が明るくなる。
「私たち、今からそこに行こうと思ってるんだけど、一緒に来る?」
「うんっ!ジェノワ、お姉さんたちと一緒に行くぅ!!」
今鳴いた烏がもう笑う、とはこのことか。
まるで姉妹のように仲良く手を繋ぐと、道を進み始めた。
☆★☆★☆
「それで、連れて来てしまったというわけか」
「はい」
「「ちからづさん」。ジェノワと一緒に遊ぼ」
「……勘違いしているようだが、私は「ちからづさん」ではない。鬼頭鉄破だ。き・と・う・て・つ・は」
足元にじゃれつくジェノワを若干鬱陶しそうに見ながら、鬼頭は言い聞かせるように喋る。
「きとうてつは?じゃあ、「てつはちゃん」って呼んでいい?」
「いいぞ。……いや、同じように呼んでくる男が脳裡をチラつくな。「きとうさん」と呼んでもらおう。私は、この組織で一番偉いんだから」
「ほあぁあ~……。じゃあ、しゃちょーさんなんだぁ……」
……何か勘違いしている気もするが、「鬼頭が一番偉い」というのは伝わったのだから、まぁいいだろう。
「それで、ジェノワよ、私に一体何の用があるのだ?」
一か月前に出逢った屍姦性愛の少女が突然訪れ、長である鬼頭に用事があるという。只事ではないはずだ。
が、
「ジェノワと遊ぼ?」
屈託のない笑顔でそう告げただけだった。
「……ほら、もっとこうあるだろう?私たちと協力して何処かの組織を潰したいとか」
「ジェノワと遊ぼ?」
「何処かの組織に襲われているから助けて欲しいとか」
「ジェノワと遊ぼ?」
「私たちと結託し――」
「ジェノワと遊ぼ?」
制服のスカートの裾を引っ張りながら、きらきらと光が零れそうなほどに綺麗な赤い瞳で、こちらを見上げてくる。
「……私は忙しいので無理だが、他の者が遊んでくれるぞ」
どうにも、子供が苦手らしい。
鬼頭はいつものメンバーを招集すると、別室へと移動する。
☆★☆★☆
「私は、あの娘をどうすればいいと思う?」
憔悴した様子で鬼頭が全員に問う。
「どうしたらって、可愛がってあげればいいんじゃないですか?鬼頭さんと遊びたくて来たんでしょう?」
「それはそう、それはそうなんだが……」
含みのある言い方をする鬼頭に触爪が付け足す。
「一緒に遊ぶと死ぬから危険にゃん♡。みうたちは、落としたら起爆する本物の爆弾を使って爆弾ゲームをしているような状況なのよん」
「どういうことですか?とても危害を加えるようには見えませんが?」
田打が不思議そうに目線を向ける。
「彼女は屍姦性愛の能力を持つ、立派な能力者だ。気分を害したら、いつ殺されるか分かったもんじゃない」
「屍姦性愛だって……?!」
冴藤の表情が恐怖と狼狽が入り混じったものになる。
「だったら、僕たち以外の支部にいる全員が危険じゃないか!早く戻らないと!!」
「心配ないにゃん。そう簡単には殺せないからね」
猫のようにのんびりした調子で答える。
「屍姦性愛が持つ『任意の相手を殺す能力』を使うのには、何か特殊な条件があるそうだにゃん。ま、その条件が分からないんだけどね~」
「それに屍姦性愛は、その強大過ぎる能力を持つが故に、どの勢力にも加担しない中立の立場を取っているそうだ。だから、無闇な殺害は好まないだろう。……あくまで、憶測でしか語れないがな」
かつて従業員の休憩室として使われていた空間に、鈍重な空気が流れる。
「じ、じゃあ、普通に接している分には、俺たちに危険は及ばないってこと、だよな……?」
「たぶん、としか言いようがないにゃん♡。気分を害した瞬間死が訪れると思った方が正しいかしらん。……というより、」
黒猫っぽい見た目をした女子大生は、鬼頭に視線を送る。
「一か月前に、実際に屍姦性愛とファーストコンタクトしたワンコ女の方が、奴らの素性について詳しいんじゃないの?」
「薙唐津さんの墓参りをしていた時に、突然現れたんだ。私だって、自分の身を守るのに必死だったさ」
「だから、田打が話し掛けた時に、鬼頭さんのことを薙唐津さんと間違えていたんだな」
「そういえば、」
記憶の隅から情報を引き出した鬼頭が言葉を紡ぐ。
「ジェノワの他にもう一人、ジェノワの保護者のような男がいたな」
「私が声を掛けた時、パパから場所を聞いて会いに来たって言ってましたよ?だったら、ジェノワちゃんのお父さんじゃないでしょうか?」
「だとしたら、そのパパとやらにさっさと身柄を渡すのが安全そうですね。我々『貧乳派』が屍姦性愛と癒着がある、と他の勢力に嗅ぎ付けられたら厄介だよ」
屍姦性愛は『どちらでもない派』に所属してはいるものの、その能力が強力であることを理由に、他の勢力への攻撃・干渉・結託などを行っておらず、永世中立を宣言している。
そのため、『貧乳派』・『豊乳派』・『どちらでもない派』のどの勢力も、懐柔などを行ってはいないとされている。
「特に、『豊乳派』の奴らに嗅ぎ付けられたら特に危険だな。この前の一番槍と殿以上の猛威で襲撃されたら、大規模な戦争になってしまう」
では、そのチートとも言える能力を持つ能力者集団との間にパイプがあると知ったら、他の勢力はどう動くか。
無論、そのパイプを断ち切り、あわよくば我田引水しようと画策するに決まっている。
つまり、屍姦性愛というジョーカーを巡る、血生臭い戦いの幕開けとなる。
「……なぁ、だったらさ、」
処理に困った爆弾を抱え、しかも、秘匿しなければならないという億劫な状況下、『『貧乳派』の救世主』は言葉を挙げる。
「そのパパに勘付かれる前に、ジェノワの能力を消しちまうっていうのはどうだ?」
ウラ話メモも段々残弾が尽きてきたので、2022年1月22日14:00現在の閲覧数ランキングでも。(全て「小説家になろう」における閲覧数を参照)
・1位……2022年1月8日(土)・第39話公開時点・62pv(ピーク15時で49pv)
・2位……2021年12月30日(木)・第30話公開時点・61pv(ピーク13時で34pv)
・3位……2022年1月13日(木)・第44話公開時点・51pv(ピーク16時で27pv)
その日のpv数=その話が読まれた回数ではありませんが、データの一つとして参考にしようと思います。
ちなみに、本作品を公開開始してからのpv数は毎日記録しておりますので、各日別の閲覧数がピークとなった時間などは参考になるかもしれません。
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……十日ぶりですねこの台詞。何処か懐かしいです。




