第48話:白い招待状
『ラクタム』云々の騒動が起こってから一か月後の6月。
これと言って大きな騒動・事件が起こるようなこともなく、今日も薙唐津製鉄所へ足を運ぶ。
「今来ましたー……よ?」
いつも通り建物に入り、入口付近にある談話スペースを抜けようとすると、鬼頭・冴藤・田打が神妙な面持ちで机を囲んでいた。その張り詰めた空気の違和感に、純多もすぐに気づく。
「どうしたんです?」
机の上には真っ白な封筒が置かれ、真っ白な手紙が拡げられたままになっている。
「お。『救世主』さん。ちょうどいいところに来たにゃん♡」
机を囲むソファの一つを占領し、まるで自室のベッドのように使っていた触爪が、呑気な調子で声を掛ける。
「何やってるんですかみんな?こういう儀式か何か?」
「何やら、お上から招集の手紙が来たらしくって、全員戦々恐々としているみたいよん?」
『貧乳派』とは全く関係のない触爪が、興味なさそうに答える。
お上というのは、そのままの通り身分が上の人間のことだろう。
『貧乳派』地武差支部は、あくまで『貧乳派』が管轄する組織の地武差市にある施設、というだけで、上には各都道府県の本部、各国の本部、そして、それらを束ねる統括本部がある。これほど恐怖に怯えているということは、そのトップ・オブ・ザ・トップ、統括本部の長からの招集命令である可能性が高い。
「んーと、「『『貧乳派』の救世主』さん、6月〇日火曜日・17時に聖壁大社に来てください」?つまり、俺が明日の放課後、聖壁大社に行けばいいってことか?」
「容易に考えてはいけないよ、棟倉くん」
沈黙を破って冴藤が口を開く。
「こんな風に名指しで招集してくるなんて、お叱りに決まっている。……棟倉くん、何か心当たりはないかい?」
「何かと言われても……」
現在も『豊乳派』の籾時板とプライベートで仲良くしていることか。
リーナに引導を渡した時、『豊乳派』の力を借りたことか。
実は『キメ〇ク派』を倒したことで均衡が崩壊し、地武差市以外での戦闘が激化したか。
思い当たることがありすぎるというか、見当が付かないというか。
蓋を開けてみるまで呼び出された理由は分からなそうだ。
「しかも、呼び出しているお人は、私なんかが名前を出すのも恐れ多い、『貧乳派』の統括部長様だぞ。これは、棟倉の直属の上司である私も行くべきなのではないか……?」
忙しなく目を泳がせながら、鬼頭も呟くように口を開く。
「へー。そんな凄い人に呼び出されたのかにゃん?だったら、みうも冷やかしで着いて行っても――」
「いけませんっ!!」
本日一番ドッキリした。
「雑草ちゃん」こと田打から稀に見る声が発せられ、触爪ともども心臓が飛び出しそうになる。
「統括部長様は、私のような新米が顔を見せるのも許されない、いわば神のような存在……。『貧乳派』でもない触爪さんが一目見たら、目どころか骨の髄まで焼き尽くされますよ?」
「それ、もはや人間じゃなくて、神そのものじゃないか……?」
「それぐらい、凄い存在だということです」
冴藤がつけ加える。
「でもでもー、みうは一応、形としては無所属無能力の一般人ってことになっているにゃん。ならば、『貧乳派』でも『どちらでもない派』でもないから、その統括部長さんとやらのありがたみが分からないわよん」
触爪の件で分かったことなのだが、『『貧乳派』の救世主』の力によって能力を失った者は、性的嗜好が貧乳フェチになるというわけでも、『貧乳派』の能力が使えるようになるわけでもないらしい。なので、触爪がスマートフォンや雑誌で観ている、ケモ耳・ケモ尻尾の画像を覗き見て、(肉体的ダメージによって)負傷するという事案が時々発生する。
「いずれにせよ、棟倉は行かなければならないし、直属の上司である私も行った方がいいだろう。棟倉よ。聖壁公園の場所は分かるか?」
「すみません。土地勘がないので分からないです……」
「ならば、明日の放課後、すぐに裏門に集合だ。私が公園まで案内しよう」
☆★☆★☆
(『貧乳派』の統括部長か)
翌日の火曜日。
クラスメイトが10人を残して全員夢の中へと旅立った5限目の数学Ⅰの授業中、純多は悶々と思考を巡らせていた。
(一体どんな人なんだろう……)
性癖による能力の強さは、その性癖・フェチズムがどれくらい好きかによって決定する。
もし、役職や階級が単純に能力の強さで決まっているのだとしたら、国・都道府県の本部長になるような人間は、世界規模で見て、上から数えた方が速いくらい、女性の小さな胸、あるいは、胸の小さな女性を誰よりも愛していることになる。
しかも、その組織の統括部長だ。
小さな胸に対する愛を語らせれば、世界中の『貧乳派』の中でも指を折るほどしか比肩する者がいない――いや、もしかしたら、同列で語ることすら能わないほどに、突出した愛を持っている人物。
(やっぱり、超マッチョなおっさんか?それとも、冴藤さんみたいな、眼鏡の似合う紳士的な感じか?)
触爪から聞いた話だが、筋肉ムキムキの男性・女性を性的対象とする、筋肉性愛という派閥が『どちらでもない派』にあるらしく、身体を鍛える際は、そいつらに目を付けられないために、必要以上に鍛えない、つまり、あくまで体脂肪率を落とすだけで、筋肉の増強は行わない傾向が多いんだとか。
(ま、いいか。どうせ、あと3時間くらいすれば分かる話だし)
欠伸を噛み殺しながら、声が小さすぎて何言ってるか分からない教師が、ぼそぼそと説明しながら黒板に書き殴っている板書をノートに移す。
【ひんにゅーほうにゅー裏話メモ6】ポリン様防衛隊
ポリンの身の安全を誰よりも考え、秘密裏に行動する組織。
『統率の藤本』を筆頭とし、『鋼鉄の堀田』・『露払いの山口』の両者を患部に据える。
三者にどのようなきっかけがあったのかは不明だが、一年生であるポリンが地武差高校に入学した直後に結成された。そのため、初出の5月の段階では、組織して2か月も経っていない、全く新しい組織である。
元ネタは、昭和のアイドルに存在したと言われる、アイドルをファンから守り、出待ちするファンたちを散らす役割を有志で担っていた、『親衛隊』と呼ばれるファンたちの存在から。
初期は『ポリン様親衛隊』だったが、「プリパラ」作中内に登場する『ソフィ様親衛隊』の丸パクリになってしまうので、名称変更。
それぞれ役割としては、
・『統率の藤本』……防衛隊メンバーの統率・指示・配置などを決めるリーダー。
・『鋼鉄の堀田』……ポリンの身に迫る危険の察知・除去。組織の意に背く者の粛清。
・『露払いの山口』……ポリンと恋仲になりそうな者を遠ざけ、排除する。
実は、各クラスに一人、諜報活動を専門とするメンバーが存在する。
ちなみに、三人とも性癖による能力を保持しない一般人である。




