第37話:『豊乳派』の翼
「くくく。普段は人間にはやらないからねぇ。異なる二つの薬物を投与したら、人の身体って、どうなっちゃうんだろうね?」
肩を揺らしながら地面に転がる二人の少年を見下ろす。
「さて、君たちにはモルモットに――」
「でも、考えてみれば、俺が颯爽と現れて敵を蹴散らせば、鉄破ちゃんが喜んでくれるかもしれないなー。でも、恥ずかしがり屋さんだから、「余計なことするな」って、怒るかもしれないなー」
爪を噛みながら歩く一人の男が、薬籠密の視界の隅を通り過ぎる。
「……誰でしょう?一般人は立ち入り禁止のはずですが?」
過ぎ去った男に視線を向ける薬籠。
男は気分が落ち着かないのか、爪を噛みながら狼狽しているが、白い軍服に軍帽・そして革靴。明らかに一般人の装いではない。
「でも、やっぱり鉄破ちゃんには褒められたいなー。何なら、俺一人で全員倒せそうなもんだけど、何処まで倒していいのかなー」
「おい……」
「全員倒したら怒るよなー。さて、何処まで倒そうかなー」
「おいっ!!」
薬籠の怒気の籠った声で、ようやく気づいたようだ。白い軍服の男がゆっくりと振り向く。
「聞き捨てならないな。僕たちを君一人で殺れるって?」
「うん。君くらいなら瞬殺できるだろうね。鉄破ちゃんは殺生を嫌うから、あえて殺さないけど」
「何者だ?」
「え?俺?」
何処か驚いたような顔をしながら、自分を指すと、
「俺の名前は瑞騎翼。『豊乳派』地武差基地局の局長なんだけど、まだまだ俺の知名度も低いな」
肩を竦めた。
「……驚いたな。まさか、『豊乳派』のボスが出てくるとは。『ラクタム』が収集した情報には、君の名前はなかったんだけどね?」
「そりゃあそうだ。俺は鉄破ちゃんに好かれたくて、独断で動いたんだから」
……こいつ、本当に『豊乳派』の長なのか?
何処か弱々しい声音や、どっちつかずな発言。
室内灯を反射して白く光る軍服とは対照的な性格に、薬籠は戸惑いの色を見せる。
「た……、瑞騎局長……」
「君たちはよく頑張った。ほら、俺のとっておきのグラビア雑誌だ。ちょうど、鉄破ちゃんと同じDカップくらいのアイドルを纏めたお宝ものだよ?」
つかつかと足早に歩くと、二人の手元に雑誌を落とす。
「さて、間を取って君だけ倒すことにしたよ。君ほどの役職を持った人間を無力化させれば、鉄破ちゃんは喜んでくれそうだから」
「さっきから鉄破ちゃん鉄破ちゃんと五月蠅いな。買っている犬の名前か何かかな?」
「いいや」
軍服の男は鍔を押さえながら、首を横に振る。
「俺が愛している人だよ。……まぁ、彼女は俺のことを好いていないみたいだけどね」
ポケットから爪楊枝を取り出すと、
「それじゃあ、始めようか」
静かに開幕を宣言した。
「ふんっ。変わりはない。要は、君を能力で動けなくしてからゆっくり――」
ずしゃっ。
薬籠が構えた右の掌に何かが当たり、勢いが殺し切れずにそのまま柱に縫い付けられる。
右手にあったのは――。
「爪、楊枝……?」
鉄杭のような大きさになった爪楊枝だった。
痛みよりも先に、何故手に爪楊枝が刺さっているのかを脳が情報処理・現状理解をしようとしていると、
ずしゃっ。
がら空きとなった左肩に同じサイズの爪楊枝が刺さり、薬籠が苦痛に歪んだ表情を浮かべる。
「俺たち『豊乳派』は、触れた物体の速度や威力を強化したり大きくしたりすることができるから、輪ゴムや爪楊枝だって、立派な武器になっちゃうんだよねー」
抜け出そうと身体を激しく動かそうとするが、太い柱を背に立っていたのが仇となった。大理石に縫い留められた右手と左肩は一向に動きそうにない。
「ぐ、ああ……っ!」
「どう?痛いよね?脳が悲鳴を上げているのに、投与する薬物を選択して、しかも俺に照準を定めるなんて言う芸当が君にできるんだったら、君にもまだ分があるんだけど」
一回。
一回でも媚薬を打ち込めば、奴の動きを阻害できる。
痛覚信号に埋め尽くされた脳を必死に働かせて、瑞騎に狙いを定めようとするが、
「そんな余裕はなさそうだね」
ずしゃずしゃっ。
脚の中で最も血管と神経が集中していると言われている両の太腿に、肉が裂ける音と共に爪楊枝が打ち込まれ、血を吸い上げた爪楊枝が赤く染まっていく。
「がっ、がああああぁぁぁあああぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああぁぁぁあぁああああああああああああああああぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁああああああぁああああああああぁぁぁっっっっ!!!!!」
「ふぅ……。終わった終わった、と言いたいところだけど、君に能力を使われると厄介なんだよね」
爪楊枝を咥えながら薬籠の所まで歩くと、
「だから、ちょっとこの、『激写!!たわわに実った夏の妖精たち!Fカップアイドル大特集』を見て、楽になりなよ」
「が、がああっ!!」
これ以上は限界だったようだ。
グラビア雑誌の表紙を見た瞬間、薬籠は血の混じった泡を口から吐きながら失神した。
ふと心配になりました。
昨今、『ビデオ』と言って通じるのか、と。
「知ってるよ!!」という人にとってはお節介かもしれませんが、簡単に言えば、DVDに代わる前の記録媒体です。
――と、偉そうに言ってますが、藤井がビデオと親しかったのは幼稚園の頃。藤井本人も、「小さい頃はビデオだった」という記憶しかありません。
ちなみに、藤井が小さい頃、何故か積み木を買ってもらえなかったので、ビデオを積み上げて積み木代わりにして遊んでいました。
誰にも共感されない幼少の記憶です。
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